7-1.終幕
試合後、血の気を失っている婚約者を王族席から見ていたエオルは、嫌な予感がしてならなかった。
試合中、突如ウィリアムとルークの動きがおかしなものになり、途中明らかにガルクス公爵令嬢を守る動きを取ったからである。
競技場から足早に出ていくウィリアムたちも心配ではあるが、まともに攻撃魔法をくらったルークはここからでもわかるくらいにボロボロである。
医務室へ運ばれるであろう彼らの元へ、表彰式の前に顔を出そうと立ち上がったところで突如王族席にウィリアムたちが現れた。二人のそばにはそれぞれの契約精霊がおり、かなりピリピリしているのが伝わってくる。
突然現れた二人に驚愕するも、ガルクス公爵令嬢の顔色の悪さに全員が真剣な面持ちになる。
「……おい、何があった、大丈夫か?」
エオルがそばに近寄りながら声をかけ、ガルクス公爵令嬢を王妃が抱き締める。ガルクス公爵令嬢は安心からか静かに涙を流し始めた。その姿を見て全員が困惑する中、ウィリアムが沈痛な面持ちのまま話し出す。
「……試合中、突然ディカエが現れた。」
「「「 !?!? 」」」
座っていた王まで立ち上がり、エオルは驚きのあまりにウィリアムの肩を掴んでいた。
「そんなの冗談だろ? 競技場内にか?」
「冗談なわけないだろう。いきなり気配がして彼女の後ろに現れた。彼女を狙っているようにしか見えなかった。」
「……じゃあ急に彼女に防御結界を張ったのは……」
「咄嗟なことでそれしか思いつかなかった。ルークも防御結界を張って、更に自分の防御魔法を解いてディカエに攻撃をうっていた。そのせいで俺の魔法を避けきれず……」
「あれは彼女に打ったわけじゃなかったのか……」
競技場内での事態が見えていなかった観客席からでは、ルークがガルクス公爵令嬢に攻撃魔法を放ったようにしか見えていなかった。実際は形は違えど身を挺してウィリアムと共にガルクス公爵令嬢を守ろうとした結果である。
「……ですが、こちらからは何も見えていません。気配も感じませんでした。ディカエの気配なら自分が気付かないわけがありません。」
「僕も全くわからなかった。競技場と観客席の間に張っている結界のせいとしか思えないな。」
「自分もそう思います。」
騎士団長とエオルが話している間、ウィリアムは俯くようにして肩を震わせていた。自分の不甲斐なさやルークへの罪悪感など、一気に色んな感情が爆発しているのであろう従兄弟を見て、エオルは励ますように肩を叩いた。
そんな中、ゼファル公爵と王は二人で何やら話し込んでいた。
「……父上、何かお気付きに?」
「……いや。ただ確実ではないが予測はある。しかし、証拠もなしに動けん。」
「そんなことを言っている場合では……!」
「わかっておる、だが、……似ているんだ。あまりに、妹が亡くなった時に。」
「…………。」
「騎士団長、結界を含めて調査を頼む。精霊なしにディカエがなぜ消えたかもだ。知っていてもここにいる精霊達も教えてくれる気はなさそうだ。」
「承知いたしました。」
騎士団長は王族の護衛を別の者に託すと、すぐさま動き出した。
王が言う通り、この場にいる精霊達は何か知っていそうな空気ではあるがだんまりである。
「………ーナ、」
「え? ミファちゃん、どうしたの?」
急に何かを呟いたガルクス公爵令嬢に王妃が声をかける。目を腫らしながらも何とか話そうとするガルクス公爵令嬢は、息を整えて再度話し出す。
「……セ、リーナが……」
「…ゴルドー伯爵令嬢か? 彼女がどうした?」
「……私の攻撃を、まともに食らってた……ディカエの存在に気付く直前、彼女に放った火と電流の魔法……。その時彼女も、こちらを見て目を見開いてて……」
「ちょ、ちょっと待て、情報が多すぎる。彼女見えていたってことか?」
「でもエオル、前に彼女は精霊が頭にのった時もピクリともしなかった……」
「バカ息子たち! 彼女が契約者かどうかなんてことよりも大事なことがあるでしょう!
ミファちゃんが放った魔法が直撃しているとしたら、彼女相当の大怪我じゃないの!!!」
「「 !! 」」
ガルクス公爵令嬢は何かの魔法同士を掛け合わせるのが得意であった。火や水といった相反するものであっても、その緻密な魔力コントロールで同時に操り攻撃に転用することが多々あった。単独の魔法よりも複数の魔法を組み合わせるほうが防御が難しく、また威力も跳ね上がる。
それでも実戦で扱うにはあまり実用的ではなかった。その魔力コントロールは難しい上に、魔法を作り出しているうちに相手から攻撃を受ければ命に関わる。しかし、昨年のダントス伯爵令嬢とは違い、セリーナは防御こそすれど攻撃魔法を使ってウィリアムやガルクス公爵令嬢を反撃することは一切なかった。
ディカエに襲われそうになる直前でそんな魔法を繰り出してしまったガルクス公爵令嬢は、ディカエに襲われた恐怖と共に、セリーナがまともに自分の攻撃を食らって苦悶の表情を浮かべていたところまで目撃していた。
彼女も、私を守ろうとしてくれたのに。
そんな罪悪感に押しつぶされ、ガルクス公爵令嬢は今の今まで立っているだけで精一杯であった。
彼女の発言に全員が競技場のルークたちに目を向けると、今にも意識を失いそうなセリーナがクーデンから治癒魔法を施されているところであった。




