6-2.伝説の決勝戦
「両者、準備は。」
「準備整いました。」
「こちらも整いました。」
「……よし、では健闘を祈る。くれぐれも無茶はしないように。では、決勝戦を開始する。
カウントダウン開始!」
合図により中央にベールが現れる。
セリーナの魔法圧を警戒したウィリアムたちは、まず二人同時に強固な防御魔法を展開した。観客席の人間も、もう一度魔法圧を見れるのではとワクワクしているものが多い中で、カウントダウンが終了してベールが消え去った後もセリーナは魔法圧を使用することはなかった。
ベールが消え去った時、ルークとセリーナは水の魔法を応用して霧を発生させ、自分たちの姿を視認させないようにしていた。ウィリアムたちがなかなか動けない中、突如地面が大きく揺れる。自分たちが立っている場所周辺がひび割れていくのを見て危険を察知したウィリアムがガルクス公爵令嬢を連れて風魔法で宙に飛び上がった。刹那、ウィリアムたちの前方から激しい突風が吹き荒れる。バランスを崩した二人は地面に落ちそうになるが何とか着地する。
試合開始早々、ルークたちの息のあった連携にウィリアムたちだけでなく観客席からも感嘆の息が漏れる。
「……まさか魔法圧を使ってこないとはな。」
「私たちもまだまだね。予想が外れたわ。」
試合を確実に有利に運ぶために魔法圧を使ってくると予想していたがその裏をかかれた挙句、こちらの動きを予想して攻撃まで受けるとは思っていなかった。自分たちが旧知の仲だからこそ得意としている連携は、幼馴染である彼らも同じであった。
セリーナが展開している防御魔法の中に待機している状態のルークを見て、ウィリアムはまず二人を引き離すことを考える。しかし、ウィリアムたちが動く前に、ルークとセリーナは左右に分かれてこちらを見据えていた。
“ ルーク……何考えてるんだ? “
細かいルールを決めるというよりは、ルークは適応力に優れているタイプであった。昨年までの決勝でも、猪突猛進タイプのダントス伯爵令嬢とうまく連携できていたのも、ルークのフォローが際立っていたからだといえる。
探る前にルークがウィリアムに攻撃魔法を仕掛けたのを合図に、男性側は決勝戦らしい攻撃の応戦が始まった。
普段から魔法だけでなく剣でも手合わせをしている二人は、お互いの得手不得手もよく理解していた。それでも試合に勝つために相手の苦手なところを集中して攻めるのではなく、お互いが成長できる場としてこの試合に臨んでいた。
男性陣が戦いを続ける中でも、ガルクス公爵令嬢は容赦なくルークに攻撃を仕掛ける。しかし昨年のルークのペアであったダントス伯爵令嬢なら防ぎきれなかった攻撃もセリーナは見事に対処する。それだけでなく、ガルクス公爵令嬢からの攻撃をウィリアムの方に反射するように防御魔法を巧みに展開していた。
防御魔法からの反射では軌道を読むことは難しく、今までの模擬戦でも対処したことがない事象に手を焼いていた。猛者であるルーク相手に集中しきれないウィリアムはフラストレーションが溜まる一方であった。
そんなウィリアムの心理をいち早く感じ取ったガルクス公爵令嬢は、攻撃対象をルークだけでなくセリーナにも広げた。魔法で弓を作り出し上にめがけて矢を放つと、何百本にも及ぶほどに数が増えてルークとセリーナの頭上に降り注ごうとしていた。この攻撃は昨年、ダントス伯爵令嬢が防ぎ切れずに倒れたものと同じであった。矢を防ぐために広範囲に展開した防御魔法では無数の矢の攻撃には耐えられなかったのである。
一連の動きをじっと見つめたままで身動きがないセリーナを見て、「今年の子もこの攻撃にやられるのか……」と観客席の多くがため息をつきかけた時、セリーナが手を上に向けて防御魔法を展開させ、何事もなくその攻撃を防いだ。広範囲であるほど防御力自体が落ちてしまいがちであるが、ルークまでも覆ったその防御魔法は難なく光の矢を防いでいた。
これ以上驚くことはないと思っていたガルクス公爵令嬢や観客たちだったが、ものの見事にその予想は打ち砕かれた。
“ 防御魔法自体の質は勿論だが、ルークと自分の周りだけより厚い防御魔法を張ったのか……数秒でこれだけの芸当ができるだなんて、これは確実に俺たちよりコントロールが優れてるな。 ”
ルークからの途切れない攻撃を受けながらウィリアムは冷静に分析を続けていた。
防御を完全にセリーナに任せているルークの攻撃を捌きながらセリーナへ攻撃を仕掛けるのは、その分だけ隙が生まれてしまうためあまり得策とはいえなかった。それでも、その後もガルクス公爵令嬢の攻撃を物ともしていない相手にこのまま消耗戦のようになっていくよりは早く決着をつける方がいいと判断し、次の手を繰り出そうとした刹那ーーー
競技場内にいるはずがない気配を感じ、全身にざわわと鳥肌がたった。
それは、精霊の力を無効にする結界が張られている競技場内でいるはずのない、
ましてや通常の精霊ですらなく、
ディカエの気配であった。




