6-1.伝説の決勝戦
競技場内は決勝戦が始まる前から浮き足だっていた。
初の三年連続優勝がかかった公爵家のペアと、三年連続で決勝に進んだ伯爵令息とその幼馴染で今大会で逸材ぶりを発揮している令嬢のペア。
大会が始まる前は、誰もが学院初の三年連続優勝の達成を信じ、偉業をこの目で見ようと期待に胸を膨らませていたが、試合が進むにつれてまさか台風の目が現れるとは誰も予想していなかった。
時刻となり、決勝のペアがそれぞれ入場してくると、競技場内は今までで一番の熱気と拍手に包まれた。
楽しそうに微笑んでいるのはガルクス公爵令嬢のみで、彼女を除いた出場者の三人はそれぞれ違った意味で苦笑いを浮かべて中央へと歩を進めていた。
審判であるクーデンを含めた五人が中央に集まり、宣誓まですますと、間髪なくガルクス公爵令嬢が誰もが予想していた通りの発言をした。
「ところで、私たちとも準決勝の時のような追加ルールで戦ってくれるのよね?」
隣にいるウィリアムはため息をついて思わず目を瞑り、正面のルークとセリーナは予想通りの発言に頭を抱えずにはいられなかった。
「あら、二人とも息ぴったりね!」
「……ガルクス公爵令嬢、今年は流石にもう……」
「あら、クーデン先生。ご心配には及びません。」
「「「(そういう訳にはいかないだろう…)」」」
この場でガルクス公爵令嬢が正式に王太子妃に決まっていることを知らないのはセリーナだけで、それ以外の男性陣は「将来の王太子妃に何かあったらたまったもんじゃない」と不安でいっぱいであった。
「準決勝でもあれほど面白い試合を見せてくれたんだもの。決勝戦でもって期待している方が多いと思うわよ?」
「ゴルドー伯爵令嬢の実力はこれまでの試合でわかっただろう。君たちのような実力者が攻撃し合うだけでもどうなるかわからない。ましてや、二人は騎士団志望というわけではないんだ。昨年の決勝戦とは訳が違うだろう?」
「でも今年でこんなことできるのは最後なんだもの。貴方だってさっきまでこの二人と戦えるの楽しみにしていたじゃないの。」
「はあ……それとこれとは話が違うよ。自分の立場わかってる?」
ウィリアムもつい小声でたしなめる。ガルクス公爵令嬢は普段から我が儘などは一切言わない女性だが、正式に王太子の婚約者であることが発表されれば模擬戦のようなこともできなくなることを残念に思っていた。元々魔法を扱うことが好きであったため、この最後の競技大会を目一杯楽しみたいと思っており、王太子であるエオルも、王と王妃もその気持ちを汲んでいた。
「……私からで恐縮ですが、ご提案があります。」
目の前で無言の押し問答を続けている二人を見兼ねて、セリーナが声をかける。その声に、ガルクス公爵令嬢は目をキラキラとさせながら続きを待っている。
「私たちが戦った準決勝でのルールで、二年連続優勝のお二人と戦うのは無謀です。お恥ずかしながら、これまでの試合で私も少々無理をしましたのでこの状態で降参も不可というのは厳しいです。
ですので、昨年の決勝戦のルールを踏襲し、このようなルールではいかがでしょうか?」
こうしてセリーナは次のような追加ルールを提案した。
一、基本的には女性が防御を行うが、女性の攻撃参加も可能。
二、性別関係なく攻撃可能だが、男性から女性へ攻撃するのは試合中三回までで、攻撃魔法の五段階目までを目安とする。
三、男女共に戦闘不能になった場合は試合終了とするが、女性一人になった場合は降参可能。
準決勝での何でもありなルールから、一定数条件を設けたルールにウィリアムの表情も少し和らいだ。チラリとルークの顔を見ると、切実な顔をしてこちらを見ていたので、元々二人で練っていたのだろうと想像できた。
それでも、王太子妃になる女性に対してルークが攻撃なんてできる訳がないとも思うが、こうでもしなければガルクス公爵令嬢がおれないであろうことも事実だった。
「……提案ありがとう。だが、男性からの攻撃は……」
「……きだわ!」
「……え?」
「完璧だわ! セリーナ! それで行きましょう、大賛成よ!
バランスが取れていいルールじゃない。皆の意思を汲んでくれたのよね?」
「え、ええ、まあ……」
「いいじゃない、私も最後だもの。ウィル、これで行きましょう!」
幼い頃からの付き合いのため、ガルクス公爵令嬢とウィリアムは旧知の仲であり、お互いをファーストネームで呼ぶ仲である。それでも人前では家名で呼び合っていた中でつい愛称が出てしまうほどにガルクス公爵令嬢が興奮しているのがわかった。
彼女とは幼い頃から一緒に魔法の練習を重ねていたし、見かけ以上にお転婆であったことも知っている。これからこうして競技試合のようなことは模擬戦であってもできなくなるということはウィリアムにもわかっていた。少しでも彼女が思うようにしてあげたいとも思いつつ、何かあればルークが責任を問われるということも問題であった。
提案したゴルドー伯爵令嬢を見ると、手を握られてガルクス公爵令嬢からお礼を言われていた。最初は苦笑いを浮かべつつも、「よかったです」と朗らかに微笑んでいるのを見て、薄々彼女も事情を察しているのだろうと推測できた。実際、ルークからガルクス公爵令嬢のことを聞いたわけではなく、これまでの育った環境からセリーナは状況を読むのにも長けていたために、何となくガルクス公爵令嬢の王太子の婚約者内定にも気付いており、この競技大会が羽を伸ばせる最後の機会なのだろうということも正しく理解していた。
ウィリアムは静かに王族席に目を向けると、王や王妃、エオルも微笑みながら頷いた。それを見てウィリアムも「どうにか怪我だけは回避しないと……」と覚悟を決める。
「……わかった。そうしましょう。ルークもいいな?」
「ああ、助かる。」
「二人ともありがとう!!!」
「……それでは追加ルールを認めます。各々準備を。健闘を祈る。」
「「「「よろしくお願いします。」」」」
こうしてそれぞれが中央から離れて歩き出すと、入場してきた時以上の熱気が競技場内を包んだのであった。
少々やることが立て込んでいて、なかなか話が書けず更新が疎かになっておりますが、変わらず【一日一話更新】を目標にして励んでおります……
不定期更新になってしまってますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
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