5-3.悔恨と許し
「それにしても、セリーナがまさかこのタイミングで魔力圧を出すとは思わなかったよ。」
「そうよね、でも彼女を怪我なく離脱させるにはって考えたらなんかもう他に思いつかなくて。せめてこれでもかってほど力の差を見せつけて驚かせようと思ったんだけど、開始早々やっちゃったから彼女は何もわからないままよね。」
「まあ彼女の場合、レイオール侯爵令息とは違って僕の実力云々は元から興味もなくて完全に爵位でしか判断してないだろうから、起きてたところで余計面倒だった可能性が高いし、いい判断だったと思うよ。」
「……そうね、よかったわ。」
「後は……決勝戦だな。……はあ。」
ルークのあからさまなため息にセリーナはつい苦笑いを浮かべる。
準決勝の第二試合は、二年連続優勝のペアと二学年の騎士団志望のペアである。
後者のペアも学年内での実力は上位であるものの、ウィリアムやルークといった実戦経験豊富な相手では歯も立たない。実戦経験はなくとも、ウィリアムやルークを相手に何度も模擬戦をしたことがあるガルクス公爵令嬢と比べても実力の差は歴然だった。
準決勝の相手が優勝ペアだと知った二人は作戦会議どころではなく、控室の隅でお通夜のような時間を過ごした。
ルークとセリーナも、決勝戦は間違いなく優勝ペアの二人だろうと確信していた。
「……ルーク兄様、決勝戦は魔力圧は出さないで方向で……」
「僕たちはそう考えても、公爵令嬢が試合前の追加ルールで言及してくる可能性はある。全力で、なんて言われてみろ。」
「……辞退、とか……」
「無理だろうな。」
「ですよね。」
次はルークとセリーナがお通夜のような雰囲気になりかけていた。
「……あまり何度も出すのは大変なんだけどな……」
「魔法圧に関しては誰も無責任なことは言えないし、ガルクス公爵令嬢も君の置かれてる立場を含めて考えてくれるだろうから、まあ……大丈夫だろう。審判もクーデン先生だろうし。」
「……そうね。」
「それにしても練習で見せてもらっていたとはいえ、実際に試合中に見るととんでもなかったな。試合相手だったらと思うと震えるよ。」
「からかわないでよ。」
「……至って本気なんだが……。」
魔力圧。正式には【魔力圧迫展開魔法】という大層な名前の特級魔術である。
自分の魔力を凝縮させて防御魔法のように自在に展開させる魔法で、膨大な魔力と緻密なコントロール力を持っていなければ成し得ないものだった。魔力を凝縮、といわれても「?」となるのが普通であり、膨大な魔力量を持つ王太子のエオルですら成功する兆しすらみえないものであった。
何らかの魔法を発動して自分の魔力を扱うのではなく、ただ魔力を外に出す、という時点で感覚が掴めないものが九割を占める。うまく魔力を外に出しても凝縮させなければ霧散してしまい、必要以上に圧をかけると暴発する、魔力に対しての繊細な感覚が必要である。
その凝縮した魔力を展開することに成功すれば、その展開範囲内、もしくはその範囲に近ければ近いほど、魔力伝達が音速レベルで回避はほぼ不可能だった。
先ほどの試合でも、セリーナは一旦自分の周りに件の魔力を展開し、試合開始と同時に競技場内に展開させて睡眠をかける魔法でナイクル侯爵令嬢を一瞬で眠りにつかせたのであった。
「騎士団長もセリーナの勧誘に力を入れそうな気がするな。僕が何とか呼んでこいとか言われそうだ。」
「騎士団ねえ……少なくとも剣術のほうはからっきしだから考えたこともなかったわ。」
「まあ魔法専門部隊の発足が進んでいるから、誘われるとしたらそちらだろう。」
「そう……でも今のところは考えられないわね。」
「まあどんな結果になるにせよ、今後セリーナがどうなるか楽しみだな!」
「他人事ね……。」
その頃、競技場では準決勝の第二試合が行われていたが、既に勝敗が決しようとしていた。
「……まあ、あの二人だよな。」
「あの様子だと相手のペアは魔力だけ消費させられて終わりそうね。」
「まあ騎士団志望の相手だから、下手に怪我をさせないように考慮したんだろう。それでも恐ろしいな。」
「ご友人でしょう?」
「まあそうだが、ウィルなんて魔力量はお化けだし、ガルクス公爵令嬢はネチネ……緻密に痛いところついてくるし、何より二人とも勝負になると負けず嫌いだから怖いんだよ。」
「…………そう。」
その時、ちょうど試合が終わった。
「……いよいよだ、無理しなくていいからな。」
「ルーク兄様が怪我さえしなければそれでいいわ。」
二人は二年連続の優勝ペアとの決勝に向け、気持ちを新たに最後の作戦会議に入った。
後に学院で、【伝説の決勝戦】と称される試合になるとは、この時はまだ誰も想像していなかった。




