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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
魔法競技大会編

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5-2.悔恨と許し



「すぐ治療できてよかったわ。ひとまず応急処置は済んだから、この後医務室に行きましょう。」


「……ありがとうございます。」



駆けつけてきた救護班の教師に簡易的な治癒魔法で応急処置を施されたレイオール侯爵令息は、先ほどよりも顔色が良くなっていた。痛みが和らいだというのもあるが、自分が囚われていたものから解放されたというのが大きかった。



「……悪いとは正直思っていないけど、……ごめんなさい。早く治るといいけれど。」


「いや、謝ることじゃない。これはあくまで競技大会だし、君は何も悪くない。それに今までの俺の言動を考えれば、こんなもんですんでよかったと思うべきだ。ありがとう。」


「…………。」



ルークに促されて嫌々ながら謝罪をしたセリーナだが、今までのレイオール侯爵令息では考えられない発言に怪訝な顔を隠せない。



「……この試合のおかげで目が覚めました。何より、今までの自分の態度は許されるものではありません……申し訳ありませんでした。」


「僕は何もされてないさ。」


「ルーク兄様が無頓着すぎるのよ。」


「別に直接的に害を与えられたわけじゃないから正直どうでもよくてさ。だからレイオール侯爵令息も気にしないでくれ。」


「……寛大さに感謝すべきですね。ありがとうございます。」


「正直、僕はセリーナが君の利き腕を潰さなかっただけで安心だよ。」


「えっ…………」



初めて聞く話にレイオール侯爵令息は顔色が悪くなる。セリーナに視線を向けると、彼女はむすっとした表情をしている。視線に気付くと、詫びる様子もなくしれっと言い放った。



「だって、ルーク兄様の幼馴染として貴方の言動が単純に許せなかったんですもの。」


「……。」



当たり前の回答に何も言い返せず、静かに「すまない。」と答えるのが精一杯だった。



「でも、あんな息巻いてたのに一撃だけで済ませたのには感心したよ。どういう心境の変化?」


「(そんなに攻撃するつもりだったのか……)」


「ルーク兄様に迷惑かかると思ったからやめたのよ。あんな野蛮な令嬢を選んでなんとか〜とか絶対言われるでしょう?」


「……まあすぐに眠りに落ちてたから彼女だけはそのままだろうな。」



ルークは心底嫌そうにしている。



「ルーク兄様に迷惑をかけるのは本意ではないからやめたの。ただそれだけよ。」


「じ、じゃあ……利き腕ではなく左腕にしてくれたのは?」



思わずレイオール侯爵令息から理由を尋ねる。



「……この大勢の中であっても、間違いを認めることができたこととルーク兄様に謝罪をしたから。とても怖いだろうし、勇気がいることだったろうと思ったから。それだけ。」


「……。」


「騎士を目指す貴方にとって利き腕がどれだけ重要かは、ルーク兄様の話を聞いたりして少しはわかっているつもり。でも、貴方は以前授業である令息の利き腕を怪我させたわよね。それがどれだけ恐ろしいことか、酷いことか。ただの令嬢がいうのはおこがましいけれど、それをわかってほしかった。

だから、利き腕を怪我するかもしれない、という恐怖くらい味わわせたかった。それが左腕を狙った理由。」


「……そうか。」


「あくまで私の一存であってルーク兄様の指示ではないわ。最後まで私を止めてたから。」


「……まあそれは最後の反応を見たら薄々わかったよ。」



レイオール侯爵令息は力なく微笑むと、しばし考え込んだ。思ってた以上に自分が謝罪をしなければいけない人間は多そうだな、と覚悟を決める。



「ゴルドー伯爵令嬢の気持ちはわかった。君の言う通りだと思う。僕はとんでもなく視野が狭くて、全てを分かりきったつもりで何も分かってなかったんだろう。君の攻撃を受けている時は夢が絶たれるんじゃないかと恐ろしくて仕方なかった、あの令息にも後日謝罪をするよ。

気付かせてくれてありがとう。」


「……なんだか本当に変わりすぎて気持ち悪いくらいだわ。」


「お、おい、セリーナ……」


「ははは、自分でもそう思う。兄上が変わった時のことを思い出すよ。」


「おい君たち。次の試合がつかえるから早く戻りなさい。レイオール侯爵令息も応急処置をしてもらっただけだろう? 早く医務室に行ってこい。」



先程まで審判を担ったクーデンが面倒そうに三人に声をかける。救護班の先生が急かしているようで、レイオール侯爵令息を見てアワアワしている。



「分かりました。……じゃあお二人とも、ありがとうございました。決勝戦頑張って。」


「お大事にな。」



レイオール侯爵令息は救護班の先生に促されて足早に医務室に向かっていった。ルークとセリーナは踵を返したところでクーデンが並んで声をかけてきた。



「お疲れさん。凄かったな。」


「ありがとうございます。セリーナのおかげですけどね。」


「まあ……確かに戦意喪失したってのはあるかもしれないが、単純に君の実力を見て現実を知ったってのが決め手だろう。これでだいぶ楽にはなるな。」


「だといいですが。」


「にしても令嬢はまさかあんな魔法までできるとは。これも勿論あいつから教わったんだろ?」


「はい、そうです。」


「いやー、これから騒がしくなりそうだな!」


「……大会が終わる頃には皆忘れているのでは?」


「……だといいがなあ。」


「セリーナ……正直、色んなところから勧誘がくるだろうし釣書も増えると思うぞ。何より君のお父上がどう動くか……。」


「言質をとってるから大丈夫よ。先のことはわからないけれど、選択肢が増えるのもいいことかもしれないじゃない!」


「……まあ君がそう言うなら。」


「何かあればいつでも相談してくれ。二人ともだ。」


「「ありがとうございます。」」



競技場を出てすぐクーデンと別れた二人は、静かに控室へと戻って行った。



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