2-2.手紙の想い人 〜回想〜
今から約一年前。
セリーナが一学年の時である。
秋のシーズンは、仮面舞踏会からはじまりイベントが目白押しである。
周りが浮き足だっている中、目立つことを避けていたセリーナは成績には関係ない仮面舞踏会への参加は当初から見送るつもりだった。
ナタリアやルイーザたちは勿論だが、これに対して一番悲しんだのは義母である。
義母が嫁いできた当初、セリーナを一目見て、幼いながらも輝くような美しさに目を見張った。
実母から受け継いだプラチナブロンドの髪に、意志の強そうなくっきりした目。しかし威圧感はない。美しさに感服しつつも、自分に対しての嫌悪感も見せない大人びた子供に、若干の違和感を感じていた。
理由はすぐに判明する。
自分の夫が、実の娘に対して存在を無視するかのように蔑ろにしていた。
直接的に何かをしているわけではない。ただ、幼くして母親を失い、父親までそのような態度では不憫で仕方なかった。
夫に理由を聞いてもはぐらかされ、どうにか間を取り持とうとするが逆に怒り出す始末。
一方セリーナも達観しており、全く意に介していない。
二人に何があったか使用人たちに聞いて回っても誰もわからない。頭を抱えているうちにセリーナが乳母とその娘を連れて別宅に移りたいと申し出たという。
私のせいで、と止めようとする前にセリーナの方から謝罪をされた。私のせいで不和が起こるのは本意ではない、ただ父親と距離を取るためだと説明され、齢七歳の子が無理をしているのかと思ったが、彼女の目は悠然と語っていた。
もうこの子供は、自分の父親を諦めたのだ、と。
彼女の心の安寧のためにはそれがいいかもしれない、と義母も理解を示すと同時に、使用人たちには、彼女がゴルドー家の長子であることに変わりはないこと、別宅に移ったからといって冷遇することは許さないと宣言した。
元よりゴルドー家に仕えていた使用人は、新たな女主人は自分たちのお嬢様の敵ではないと認識し、この日を境に完全な協力体制が整った。
そして義母も夫に気付かれないように、使用人全面パックアップの元、できうる限りの交流に努め、彼女が穏やかに不自由なく過ごせるように援助を惜しまなかった。
セリーナもそれを正しく理解していた。
それでもお茶会や子供同士の交流にも一切顔を出さなかったセリーナは、ドレスや宝飾品を一切求めなかった。
そのことにナターシャの次に落胆していたのは、義母だといえる。この可愛い義理の娘をどう着飾らせようかと密かに楽しみにしていたのである。
彼女の意思を尊重して我慢すること数年。この仮面舞踏会の機会に乗じて何着か娘にドレスを与えるつもりだった。
セリーナも義母の考えに薄々気付いていたが、楽しそうにしてくれている義母に断ることもできず、一緒にデザイン画を眺めていた。
元より仮面舞踏会には参加しないと言っていたセリーナだが、理由が父親にあることを正しく理解していた義母は、今回ばかりは何があっても説得すると気合いを入れていた。
ドレスも出来上がる目前、再度の不参加の意思表示に、初めて声を張り上げて理由を尋ねる義母にセリーナは答える。
乗馬の際の足の怪我が長引いており仮面舞踏会に向けてダンスの授業や練習も思うようにできないこと、一年の時から参加すると父が何を言うかわからないから今年は様子見をする、と。
今から許可をとってくると意気込む義母に、そうなると残りの二年もどうなるかわからないから、そっとしておいてほしいと頼むセリーナに、反論できない義母は泣く泣く了承した。
謝罪とお礼を伝えるセリーナに、義母は不甲斐ない気持ちになりながらも、来年の仮面舞踏会は離縁をチラつかせてでも、何が何でも参加させると堅く決意していた。
一方のセリーナも、父親の手前、元々参加する気は全くなかったものの、乗馬で足を捻った時には
これで正当な理由ができた!!!
と内心大喜びであった。勿論、怪我は故意ではない。
ただ思っていたよりも怪我が長引いてしまい、大好きな乗馬ができないことはセリーナに相当なダメージを与えた。




