4-5.静かなる怒り
「………た。」
「……?」
シンと静まり返った競技場にレイオール侯爵令息の声が響いた。
「……すまなかった。いや、……申し訳ありませんでした。」
「「「…………!!」」」
あの侯爵令息が、謝罪だと!?、と競技場内の至る所で衝撃が走る。常にルークを敵視してきた彼が詫びるなんて…と学院生も多くの者が驚きを隠せなかった。
そんな中、レイオール侯爵嫡男のダンバスと、兄弟の母であるレイオール侯爵夫人は、嬉しそうに競技場に立っているジョージ・レイオールを見つめていた。その横では、レイオール侯爵当主が拳を握りしめ顔を真っ赤にさせて息子を睨んでいた。
「……父上、このような所でおやめください。」
「……黙れ。恥晒しが。あいつに変なことを吹き込んだのはお前だろう!?」
「今までそれをしていたのは父上ですよ。ジョージは、直接目の当たりにしたんです。そして今まで自分が信じていたことが根底が崩れてもああやって現実を受け入れたんです。立派なことですよ。」
「うるさい!!! 伯爵家の輩に謝罪、ましてやこんな公の場で……」
「あなた、いい加減目を覚ましてください。国王陛下方が目を瞑ってくださっているだけですよ、そんな事を言い続けるだなんて……」
「……うるさい、うるさいうるさい!!! もう我慢ならん、私は先に帰る!!!」
「そうしてください、皆さんのご迷惑になりかねませんから、その方がよろしいでしょう。」
「〜〜〜!!!!」
レイオール侯爵当主は地団駄を踏むように歩きながら会場を後にした。
その様子を競技場の中央からジョージ・レイオールは眺めていたが、その表情は今まででは考えられないほどに清々しいものであった。
「……君のお父上、帰ってるぞ。」
「……ああ、いいさ。父上は絶対だと思っていた。……だが、何事も盲目的になるのは良くないな。」
「……。」
「……お二人とも、申し訳ありませんでした。試合中にも関わらず、結果的に時間を止めてしまったことを謝罪します。」
「……流石に人が変わりすぎて怖いわよね?」
「おいおいセリーナ……」
レイオール侯爵令息の変わりようについ怪訝そうにセリーナはルークへ小声で話しかける。内容までは聞こえないものの、セリーナが怪訝な顔を隠そうともしないため、レイオール侯爵令息もつい苦笑いを浮かべる。
「降参不可というルールを提案したのは自分だ。最後まで、よろしくお願いします。」
「……こちらこそ。」
ルークの返事を合図に、ジョージ・レイオールは自分の周囲を火で囲った。ただの火ではなく、防御も攻撃も使い手の意思の通りに動かすことができる上級魔法である。再開後すぐのレベルの高さに観客からは感心する吐息が漏れる。
ルークが対処のために魔法を繰り出そうとすると、セリーナが引き留めた。
「セリーナ、試合開始前とは状況が違う。君、あれ大っぴらにしちゃってこれ以上はやめておいた方がいいぞ。」
「……彼は反省したのかもしれないけど、私はまだ腹の虫が収まらないからあの火の対処だけ私にやらせて。その後はルーク兄様の指示に従うわ。」
「……わかったよ、気をつけろよ。なんだかんだ言いつつ、彼は実力者だからな。」
セリーナは頷くと、ルークに代わって前に進み出た。
レイオール侯爵令息はセリーナが前に進み出たのを見て一瞬驚きに目を見開くが、即座に集中した顔に変わる。そしてセリーナに目掛けて火を操り攻撃を繰り出した。
手のように伸びた火はセリーナめがけて攻撃を出すが、セリーナの防御魔法はビクともしない。ただ防御魔法で跳ね返された魔法が自分に当たらないようにレイオール侯爵令息も火を緻密にコントロールしていた。
この高度な魔法の試合に、観客席で見ている実力者たちも目を見張った。次の試合に出てくる公爵家二人のペアに匹敵するほどの緻密な魔法のコントロールに彼らがまだ二学年だということに驚きを隠せないものの、卒業後どうやって彼らを勧誘するかと既に頭を悩ませる者もいた。
しばらくセリーナに攻撃を続けていたレイオール侯爵令息だが、上級魔法を使い続けたことによる疲弊が顔色に出始めた。高度な魔法を使うことはその分だけ魔力を消費し、そして集中力も必要となる。そんな相手の変化を過敏に感じ取ったセリーナは、右手を前に出すと、目を閉じて静かに詠唱をはじめた。するとセリーナを中心に周りに風が起こり始め、セリーナが手に力を込めるとその風は一気にレイオール侯爵令息に向かって吹き出した。疲れが出ていたレイオール侯爵令息は急に自分に向かって突風が吹き始めたことに驚き対処が遅れ、セリーナへの攻撃の手を緩めてしまった。慌てて自分に向いている火をどうにかしようとするが、その時、今まで感じていた魔法の感覚が急に消えた。風によって勢いを増した自分を囲んだ火を消そうと試みるが、それすら叶わない。
理解できない現象に頭を抱えるまでもなく、前方に佇む令嬢を見て一目で理解する。
そこには、自分が先ほどまで操っていた火の手を使うセリーナがいた。
「お、おい……今のって……」
「そ、そんなことあるのか……あの令嬢、まだ二学年だろう!?」
「ゴルドー伯爵、とんでもない逸材を隠していたということか……」
「奪取魔法だなんて……!!」
観客席のあちこちから驚嘆の声が響いた。
奪取魔法。相手が扱っている魔法を自分のものにして相手のコントロール下から外す魔法である。数ある上級魔法の一つだが、扱いが難しく、奪取する対象の魔法を正しく理解していることが必要な上に、元の使い手よりも魔力量やコントロールなど、全てを上回らなければ成功しないものであった。
使いこなせれば戦いを有利に運べることは事実だが、習得にも時間がかかる上に、戦いの場で確実に行使できる魔法ではないという点で「割に合わない」と思う者が大半で忘れられかけている魔法でもあった。
「……おいおい、嘘だろ……規格外すぎるだろ……」
「……逆にこっちが申し訳なくなってくるな……」
つい言葉を漏らしたレイオール侯爵令息に、ルークも苦笑いを浮かべるしかなかった。
セリーナの父親だけにするつもりだったんですが、二人目のやばいのを登場させてしまいました……
「うるさい」を子供のように連呼してる大人を想像して書いてても鳥肌が立ちました。笑
◼️面白いなと思ったら、評価・ブックマークしていただけると嬉しいです◼️




