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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
魔法競技大会編

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4-2.静かなる怒り



「お、おい、セリーナ……」


「ですが、一点、私共の方からもルールの追加をお願いしても?」


「ああ、聞こう。」


「互いに相手を傷つけるつもりはなくても、競技大会という性質上、避けられない場合もあるかと思います。ですので、生死に関わる怪我を除き、どのような結果になっても相手の家への抗議や制裁はしないと含めていただきたいです。」


「……お前、俺が負けるとでも言いたいのか?」


「とんでもない。問題はそこではなく、私たちはたかが伯爵家で、お二人は侯爵家であるということです。そこに明らかな家格差があるのは、お二人もお認めになるところでは?」


「「……。」」



実際、彼らは伯爵家以下の人間を完全に見下してきた人間であるがためにセリーナの言い分をこの場で否定することは難しかった。間違いなく自分たちはそのように考えている上に、今までの態度が【強がり】であったと認めてしまうことに繋がるからである。

だが小賢しい彼らは、万が一負けた場合は侯爵という立場を使ってファベルク伯爵家を糾弾するつもりであったのは事実だ。ルークもそういった点を懸念していたが、セリーナもその可能性を正しく理解していた。そして侯爵家から糾弾されると、父親との約束を反故したこととなり自分の立場がかなり悪くなるのもセリーナの懸念事項であった。



「……まあ、そうだな。明らかな家格差があるのは事実だ。あんたらは所詮、伯爵家だからな。」


「レイオール侯爵令息、言葉を慎みたまえ。」


「クーデン先生は侯爵家の人間でありながらお優しいのですね。」



レイオール侯爵令息の言葉に、競技場内にいるほとんどの貴族が眉間に皺を寄せていた。そこには侯爵家以上の人間も含まれるが、当の本人はそんなことには気付くことはない。



「ゴルドー伯爵令嬢の希望をのもうじゃないか。なあ、ナイクル嬢?」


「ええ、いいわよ。」


「ありがとうございま……」


「その代わり、こちらからももう一つ追加させてもらおう。そうだな……、性別に関係なく一人残ったとしても降参は不可、というのはどうだ?」


「いい加減にしてくれ、これは騎士団の模擬試合ではないんだぞ。こちらは全面的に要求を聞いたのにこれ以上……」


「これ以上ルールを追加しないとは言ってないぞ。だがそちらの令嬢は、追加のルールを要求してくるくらいにやる気なんだろ?

それならいいじゃないか。」


「この試合に立ち合う教師として、あまりいいとは言えないな、レイオール侯爵令息。実際君は秀でた力を持っていて、騎士団への入団のために実戦の特訓は積んでいるだろうが、ナイクル侯爵令嬢やゴルドー伯爵令嬢はそうではない。降参ができないというのは……」


「あら、先生。ご心配はありがたいですが、私は問題ありませんわ。ゴルドー伯爵令嬢もよろしいんじゃかいかしら?」


「……。」


「……セリーナ、君がここで無理する必要はない。あんな理不尽な要求は……」


「私も、構いません。」


「はははははは!!!

恐れ入ったよ、同じ学年にこんな令嬢がいたなんてな!

先生、いいそうですよ。そうと決まれば早く始めましょう!」



宣誓の時と同じように侯爵家の二人はニヤニヤとルークとセリーナを見つめた。顔面蒼白にしているルークを尻目に、心配そうに見つめるクーデンに向かってセリーナはそっと頷いた。

その目の奥に並々ならぬものを感じたクーデンは全てを理解した。これから起こるだろう出来事を予感しそっと目を閉じた。


" やはりあの時あいつに一報を送っておいて正解だった……。こりゃ大騒ぎになるな。 "


静かに息を吐くと、追加ルールを認めることを審判として宣誓する。そのまま競技場のすぐ外に救護班を待機させるように指示を出す。



それぞれが中央から離れて歩き出すと、すぐにルークがセリーナに声をかけた。



「おい、セリーナ! いくらなんでも無謀だ!

レイオール侯爵令息のことは知ってるだろ、最初の標的は俺だけだったろうが、これで君のことも狙ってくる!」


「そうでしょうね。」


「今からクーデン先生に言ってやめてもらおう。君を危険に晒すなんて俺にはできない!」


「……ルーク兄様。」


「大体なんで最初僕の意見も聞かずにルールを受け入れたんだ!

レイオール侯爵家の嫡男はまだいいが、次男のあいつはとんでもない奴なんだぞ!」


「ルーク兄様。」



ふと隣から強烈なオーラを感じたルークは、パッと隣を見る。そこには、表情こそ冷静だが真っ直ぐに自分を見つめるセリーナがいた。

そのセリーナの目を見たルークは、先ほどのクーデンのように諦めて目を閉じるしかなかった。


セリーナの目の奥は、静かな怒りで満ち溢れていた。


ルークは隣にいてわかっていなかったが、向かいにいたあの二人はこの目を見て何も感じないなんて鈍感すぎるだろう、と先ほどまでの不安は吹き飛び、逆に対戦相手の二人への同情の気持ちが強くなる。



「……ルーク兄様は立場もあるから、援護だけお願い。私がやるわ。」


「セリーナにだけ任せるわけには……」


「なんのためにあの追加ルールをお願いしたと思ってるの?

どちらにしても私はお父様がどうなろうと知ったこっちゃないからいいわ。伯爵家自体に何かするのは無理でしょうから。」


「……セリーナ、ほどほどに……」


「ほどほど? ねえ、ルーク兄様。私はルイーザが標的にならないように宥めることはしていたけど、怒っていないとは一言も言っていないわよ?」


「……。」


「今まで黙っていたけど、ここにきて正当に叩きのめすチャンスがきたのよ。やっと競技大会に出てよかったと思ったわ、今までルーク兄様を野蛮だのなんだのと言っていたのを後悔させてやる。」


「……セリーナを誘ったのは間違いだったかもしれない。」


「平気よ、ちゃんと加減するわ。」


「セリーナ、いくらルールを追加させたとしてもナイクル侯爵家は信用ならない。あまり派手なことはしないほうがいい。」


「……わかったわ、ルーク兄様がそこまで言うならとりあえず令嬢には怪我させないようにする……でもあの男は普段から粗暴だからここで少し痛めつけておこうかしら。」


「……うん、程々に頼むよ。」



こうして今まで溜まりに溜まっていたセリーナの怒りは、ここで爆発することになったのである。


そんなことも知らない競技場内の観客たちは、信じられない展開に固唾を飲んで伯爵家の二人を心配そうに見つめている者がほとんどであった。


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