4-1.静かなる怒り
(遅ればせながら)
新年おめでとうございます⭐︎
「準決勝、第一試合!
東側、ルーク・ファベルク、セリーナ・ゴルドー!
西側、ジョージ・レイオール、エリーゼ・ナイクル!」
競技場内は異様な雰囲気に包まれていた。
王太子の護衛騎士になることが決まっているルークだが、高位貴族の一部には【ただの伯爵家の若造が】と未だにその実力を疑う、というよりもその地位を妬む者や、伯爵以下の貴族をあからさまに見下す者たちが一定数存在する。特にファベルク伯爵家は国の中枢といえるような要職についていないどころか王宮勤めですらないために、王太子のエオル達と幼少期から交流を持っていることに不満を抱く者は多かった。
その代表格と言えるのが今回の対戦相手である、レイオール侯爵家とナイクル侯爵家である。特にジョージ・レイオールに至っては、自分より爵位の低いルークが護衛騎士に選ばれ、かつ学院生の時点で騎士団入りを果たしていることが余計に彼のプライドを刺激した。
準決勝の組み合わせが判明した際、観客席にいるルイーザは勿論、ルークらと同じく控室にいたウィリアムやガルクス公爵令嬢も不安を覚えた。何せ、相手は一方的に敵意を向けてくる人間で、怪我をさせても面倒な相手である。
ルーク自身、かなり厄介な相手と当たってしまったと感じてはいたが、自分のことよりもセリーナへの申し訳なさが勝っていた。二人とは同学年であり、どのような結果になろうと今後セリーナも標的にされるのは不可避だからだ。
しかし当のセリーナは全く気にしておらず、寧ろ「ルイーザが標的になるよりマシ」とあっけらかんとしている。今までのセリーナであれば、こういった高位貴族の問題児たちとは徹底して距離を置いていたであろうが、準決勝目前となっても平然としていた。
「両者、宣誓を。」
審判である教師のクーデンが二組の間に立って進行を担う。
一人ずつ宣誓の言葉を唱えている間も、相手のレイオール侯爵令息とナイクル侯爵令嬢は不敵な笑みを浮かべていた。それが何とも気味が悪く、ルークは宣誓が終わったと同時に下がろうとしたところで相手から声がかけられた。
「そちらの伯爵家のお二人さん。どうだ、昨年の決勝のように僕らも別ルールを設けないか?」
レイオール侯爵令息を見ると、ルークを挑発するようにニヤリと笑った。爵位が全てな彼らは年上のルークに対してであっても爵位が低い相手に礼節を持って接することなど恥だと考えているために、年上への態度とは思えない不遜な態度である。
今に始まったことではないと態度については全く気にしていないルークだが、面倒なことを言いやがって…と天を仰いだルークを見て、今度はナイクル侯爵令嬢が続く。
「噂の護衛騎士様だもの。さぞかしお強いんでしょうから、断るわけないわよね?
ねえ、ゴルドー伯爵令嬢。騎士様が選ぶくらいだもの、初戦から素晴らしかったわ。貴女も問題ないと思うけれど、どうかしら?」
「…………。」
彼らの声は競技場内全体に届いており、まさか準決勝からこんなことが…!?と誰もが固唾を飲んで見守っていた。
「……申し訳ないが、僕たちは……」
「おや、断るだなんたことはないよな?
いくら昨年とペアが違うと言っても、君たち幼馴染なんだろ?」
「さぞお互いのことを理解しているんでしょう?
騎士様のご婚約者の従姉妹なら尚更。ここで断るだなんて、爵位のことを抜きにしたとしても不思議なお話だわ。」
「お二人はここに向けて特訓を積んでいるかもしれないが、彼女は……」
「承知いたしました。」
「おい、セリーナ!」
「……申し訳ございませんが、特別ルールを設ける場合のことは無知なもので何も存じ上げないのです。とりあえずお話だけ伺っても?」
レイオール侯爵令息はセリーナに目を向けた。実に地味な令嬢で、今まで同学年にいたことすら知らなかったほどだが、あの男がこんな地味な奴を選んだと聞いた時は笑いが止まらなかった。
" この男より肝が座ってるようだ……伯爵家の長子か。なかなか見込みがあるかもしれないな。 "
ほくそ笑んだレイオール侯爵令息は、二人に向き直ると言葉を続けた。
「とりあえず俺たちが要求するルールはこうだ。
一、男女参加型…つまり女性も攻撃に参加する
ニ、攻撃対象は性別関係なし
三、残ったのが女性の場合でも前のルールは継続
以上だ。」
「論外だ、認められない。騎士団を目指している侯爵令息が、ただの令嬢相手に攻撃だなんて危険極まりないだろう!」
「だが初戦を見る限りは彼女も相当な腕前だろう?
まさか、流石に女性相手に全力で攻撃するとでも?」
「……君は、勝負事に関しては負けないためなら何でもするだろう。率直に言うが、信用ならない。」
「おお、言ってくれるねえ……騎士様。」
ルークとレイオール侯爵令息が睨み合っている間も、セリーナは何を考えているかわからない表情で成り行きを見守っていた。そこにナイクル侯爵令嬢が声を拾われないようにそっとセリーナに声をかけてくる。
「ねえ、貴女が問題ないならこのルールで行きましょうよ。私、貴女のことはかっているのよ。気が効くようだし、自分の立場を分かっているもの。
後で貴女には軽い怪我で終わらせるように彼にも伝えておくわ。もしくは貴女が降参してくれればいいのよ。私たちは、あの野蛮な男がボロボロに負けるところを見たいだけなの。」
セリーナはそっと目を向けると、いやらしく自分に笑いかけている侯爵令嬢を冷めた目で見つめた。そんなセリーナの様子に気付くことなくナイクル侯爵令嬢は言葉を続けようとするが、目の前で繰り広げられている睨み合いを含めて全てを遮ったのはセリーナの一言だった。
「わかりました、そのルール。受けましょう。」
まだ年末年始のお休みの気分が抜けず、更新が滞っておりました……
年を越した実感がわいておらず完全に取り残されております……
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