3-3.開幕!競技大会
「ゴルドー伯爵夫人、並びに令嬢、お久しぶりです。」
「ユグネル子爵。ご無沙汰しております。」
「いやあ、夫人。嬉しい限りですね。セリーナがこうして日の目を見るようになって。」
「ええ、こうして積極的に学生生活を満喫してくれることは本当に嬉しいことです。でも、まさか競技大会に出れるほどの実力だったなんて……恥ずかしいことに知らなくて。」
「姪がこうして元気に過ごしているのは夫人のおかげですから、恥ずかしいだなんてことはありませんよ。あの子もひけらかすような子ではありませんしね。」
「ユグネル子爵様はセリーナお姉様がこんなに優秀だってご存知だったのですか?」
「勿論だよ。なんたって可愛い姪のことだからね。子供の頃から優秀だったさ。」
「……でも、お父様は……」
「ユグネル子爵、それは本当か。」
「おや、何がです?」
困惑したリアーナの呟きを遮り、ダリオは鋭い眼光でセリーナの叔父であるユグネル子爵を睨みつける。
「……セリーナが、魔法の扱いに長けていることだ。」
「当たり前じゃないですか。子供の頃から並外れていましたよ、なあルイーザ?」
「ええ! 私も私の婚約者で今回セリーナとペアを組んでいるファベルク伯爵令息も、それは驚いたものですわ。訳があって彼女が素質を隠していたのも、私たち、ずーーーーっと残念に思っていたんです。」
「……ああ、ですが。伯爵はご存知なかったのですかな? 何せゴルドー伯爵令嬢はお体が弱い、そうですからな。」
「……。」
「……だがおかしいな。体が弱い子は魔法を扱いづらいと聞く。ここにいらっしゃるリアーナ嬢もお元気そうであるし、果たしてその体の弱いゴルドー伯爵令嬢は一体どこに……」
「黙れ。」
「どうしたのです? 今まで貴方が風聴してきたことではないですか。」
「……。」
「妻にも聞いておりますよ。ゴルドー伯爵夫人がお茶会で必死に否定していると。頭の弱い方々は貴方の言うことを信じたようだが少し考えればわかることだ。」
近くで聞いていた者たちはこの発言に思わずギョッとする。確かに少し考えれば伯爵の言っていることが辻褄が合わないことは良識のある貴族たちはわかっていたが、決して高いとは言えない家格であるユグネル子爵が不特定多数の貴族に対して挑発するような発言をすることを驚く者が多かった。
「……黙れ。」
「貴方の勘違いのせいで、あの子がどんなに辛い思いをしてきたか皆様に知っていただくいい機会……」
「黙れと言っている! たかが子爵風情が!!!」
ユグネル子爵の言葉に耐えきれなくなったダリオはついに大声を出す。
知らぬフリをして耳をすましていた貴族たちも、ダリオの大声に顔ごと振り返って視線を向ける。そんな状況でもユグネル子爵は飄々としており、その様子が更にダリオの神経を逆撫でた。
「……これはこれは失礼を。たかが子爵でしかない私が、義弟様に言っていいことではありませんでした。
いやあ、以前から、常々、ずっと、誤解があると言い続けていましたがようやく信じていただけるかと思いまして、つい。」
「……な、なにを。」
「まさか忘れたとおっしゃるわけではないですね?
セリーナをこちらで引き取ると言っても断固拒否したお方が。」
「……。」
「……せいぜい、あの子の行く先だけは邪魔しないでもらいたいものだ。セリーナは、妹の忘れ形見なのでね。
……では、夫人、令嬢。またの機会に。」
「……ご機嫌よう。」
ユグネル子爵が溜まりに溜まった鬱憤を晴らしている間、ルチアは胸がすく思いがしていた。自分が常々言い続けていたことを彼が代わりに証明してくれたのである。
しかしダリオは、義兄であっても子爵でしかない男にあそこまで言われたことがどうにも癪であり、そしてその怒りの矛先はセリーナにも向いた。
" あの娘はなぜ隠していたのだ。私は一応父親だぞ。 "
自分がしてきたことを棚に上げたその男は、フンっと鼻息を荒くしながら怒りのあまり立ち上がった席に再び腰を下ろす。
……そして、この一連の様子を遠くから見ていた男は、誰にも聞こえないように静かに呟く。
「……そうか、あれはあの女の娘か。……邪魔だな。」
すうっと目を細めながらこの先の動きを考えるその男は、現王やゼファル公爵家たち、王家の者たちですら警戒する男……ナイクル侯爵であった。




