3-1.開幕!競技大会
「……セリーナ、大丈夫か?」
「え、ええ……大丈夫、大丈夫……」
「……そんなに心配しなくても決勝戦は確実だよ。」
「……それも嫌だわ。」
「奇遇だな、僕もだ。」
ついに競技大会当日を迎え、セリーナの緊張はこれでもかというほど高まっていた。
競技大会の出場者一覧が公表されると、セリーナへの注目度は格段に上がった。不躾な視線も多々あり居心地の悪さを感じずにはいられない日々だった。それでも、目立たない存在ではあったもののクラスメイト達から好かれていたセリーナは、移動教室でもどこへ行くにも「彼女を一人にさせまい!」と凄む友人達のおかげで比較的快適に過ごすことができた。何より決め手となったのは、王太子がセリーナに友好的だったからである。
王太子の護衛騎士候補が選んだだけでなく、その主人である王太子や側近候補の公爵令息、そして王太子の婚約者と噂される公爵令嬢。彼らが認めるなど只者ではないと噂されるほどだった。
そして今年の大会は例年以上に注目されていることから、出場の事実はセリーナの父親であるダリオまで届いた。セリーナに接触を試みようとしたようだが、義母と執事の鉄壁のガードにより別宅に近付けさせないようにしているらしい、とケラケラ笑って話すナタリアから学院に向かう馬車の中でセリーナも聞かされた。
全校生徒からの好奇の視線に耐えながらも、申込の翌日からルークとセリーナの特訓ははじまった。
競技大会では男女ペアの息のあった連携が不可欠となる。攻撃も防御も、バランスよく展開していくことが必要だ。攻撃メインである男性が重要だと思われがちであるが、攻撃で動き回ることが多い男性に合わせた防御を展開する必要がある女性にも、高度な技術が求められる大会であった。
ルークはクーデン先生から言われた【助言】について一晩考えたが、セリーナと特訓してその意味を少し理解した気がした。幼い頃の記憶で止まっていたが、その時も自分より遥かに魔力の扱いに長けていたことを思い出す。何せ、王国史上最高といわれる叔父に手塩にかけて育てられたのである。
同世代の中でも、セリーナの実力は群を抜いていた。
今までにも、歴代王族の中で一、二を争うほどの魔力量を持ってして産まれた王太子殿下をはじめ、それに匹敵するほどの魔力量と勤勉な性格から培われた正確な魔力操作を得意とする公爵令息や、女性では珍しくとんでもない魔力量と探究心から得た膨大な知識量で圧倒する将来の王妃である公爵令嬢など。学院に入学する頃にはルークの周りには化け物揃いだったのでこれ以上驚くことはないと思っていたが、自分の人生で一番最初に驚いたのは彼女が相手だったことを思い出す。
代々高い魔力量を誇る王族に匹敵するほどの膨大な魔力量と緻密なコントロール、魔法の展開まで全てが研ぎ澄まされており、正直セリーナへの特訓は不要だと初日で理解する。彼女が使う魔法は洗練され、無駄がなかった。
セリーナも昨年の競技大会でルークの動きを覚えており、少し二人で調整すれば長年組んでいたかのように熟練のペアのような調和となった。
「……セリーナ、防御以外の練習もしておこう。」
特訓(というよりも調整)が続いて一週間ほどたったある日、ルークがセリーナに提案したのはまさかの女性側が攻撃に転じることを想定した特訓だった。
「……え、っと。それは……」
「昨年の大会を見たなら薄々気付いたと思うが、よほどのことが起きない限り僕たちの決勝進出はほぼ確実だと思う。」
「…………。」
「そんな顔するなよ、あの二人に当たるのは僕だって嫌さ。でもセリーナが実力者だとわかれば、ガルクス公爵令嬢は確実にまた決勝でとんでもないことを提案しだすのが目に見えてる……それを王族方も止める気はなさそうだし。」
「……そうね、でも他に実力者は……」
「勿論いないわけじゃないけど、セリーナのこの鉄壁の防御を貫通して攻撃魔法を出せる相手はいない気がするよ。」
実際、セリーナの防御はガルクス公爵令嬢に匹敵するくらいに強固なものであった。それもそのはず、二人が扱う防御魔法は、その中でも最高度のものである。現役の学生たちに壊せる代物では到底なかった。
「……ルーク兄様を怪我させるわけにいかないし、腹を括るしかないわね。それなら、…はあ……その特訓をしましょう……」
「何度も言うけど僕だってあの二人と戦いたくはないんだからな!!!」
こうして二人は大会までの一ヶ月のほとんどを、女性も攻撃参加する形での特訓に時間を費やすことになった。




