2-4.変化の兆し
今回ちょっと長めです。
「まあとりあえずゴルドー伯爵令嬢、近々話を聞かせてくれ。そうだな……昼休みとか、僕らの休憩室に来てくれないか。」
「いえ殿下、ここから一ヶ月ほどはセリーナと競技会に向けて練習しなければならないので。」
「それもそうだな、すまない。君の事情も聞いているから、正直早めに話を聞きたいんだが……まあタイミングはルークに任せるよ。君と一緒にくる方が周りも無駄な詮索はしないだろう。」
「わかりました。セリーナ、いいか?」
「……お話しできることは少ないかもしれませんが、それでもよろしければ。」
「ああ、構わない。君が許す範囲で。ウィルが頼んだ手紙の件、僕からもよろしく頼むよ。」
「勿論です。返信が届いたら、ルーク兄様に伝えますので。」
「よし、とりあえずセリーナ、申し込みにいってこよう。」
ルークとセリーナは輪から離れて申込用紙に記入すると、担当教員の元へ向かった。
教員もダントス伯爵令嬢の話は聞き及んでおり、ルークに「残念だったな」と声をかけると隣のセリーナに目を向けた。一瞬驚いた顔をするがすぐにニヤっとしてセリーナの肩を叩く。
「なんだ、ついに表舞台に出ることにしたのか?」
「……クーデン先生、どういう意味ですか?」
「いや、そのままの意味だよ。君、色々隠してるだろ?」
セリーナは冷や汗がドバッと噴き出てくるのを感じた。「なぜ?」「どこまで?」「どう誤魔化そう?」と脳をフル回転して考えていたところで、顔色が悪くなり始めたセリーナを見て慌てて言葉を紡ぐ。
「悪い悪い、言葉が足りなかった。君のことは少し聞いてたんだよ、シリウスから。」
「え……叔父ですか?」
「ああ。……ちょっと結界を張ろうか。あそこの坊ちゃんたちが聞き耳立ててるな。」
後ろに目を向けるとエオルがにこやかに手を振っていたが、エオルもウィリアムも明らかに風魔法で話を聞こうとしていた。
「彼ら、やけにシリウスに懐いてるもんな。……よし、いくら坊ちゃんたちでもこの結界は解けないだろうから気にせず話していいよ。」
「……叔父とお知り合いだとは、三年間通ってて知りませんでした。」
「まあ当時の同級生たちは知ってるけど、わざわざ君らに話すことでもないしね。君にだって、殿下のお付きなのに余計なこと吹き込むと面倒だろ。」
「ははは……。」
「シリウスおじ様が、私の話を先生に話していたんですか?」
「ああ、君が入学する前に突然やってきてね。彼女の娘が入学するから気にしておいてやってくれ、うまくやるだろうけど何かあったら手助けしてやってほしいってね。言った通りうまいことやってたし、まあわざわざ自己紹介するのも変だしそっとしといたのさ。」
「彼女……って……」
「ああ、君の母親。シャロン嬢のことだよ。……今はこの呼び方はおかしいだろうけど、昔からずっとこう呼んでいてね。」
「母と……お知り合いだったんですね。」
「ああ、知ってるよ。シリウスと仲が良かったから自然とね。……綺麗で、とても良い子だったよ。残念だ。」
「…………。」
「君は、彼女によく似ているね。」
「……? 今の私がですか?」
「ああ、髪色のこと? それでも、そっくりだよ。髪色を変えたり眼鏡をかけるだけじゃ誤魔化せないさ。」
「え……と、」
「いや、他の先生には言ってないから。万が一露呈したとしても、君の家庭環境を考えれば擁護されるべきだし、そこは僕が必ず君を守ろう。シリウスにも頼まれてるから君に何かあると僕が危ない。」
「ふふふ…」
「先生、でも、なぜ結界を?」
「彼女は競技会には出ても姿を完全に出すわけではないんだろ? それなら彼らにこの会話を聞かれるのはよくないし、まず俺が彼らにシリウスとの関係を知られたくないんだ。目に浮かぶだろ? 毎日のように教員室に押しかけてきそうだ。」
そう言ってクーデン先生は腕を回してブルっとしてみせた。その様子にルークとセリーナは笑うが、あの慕いようと音信不通の状況からしてほぼ確実にそうなるとは想像に容易かった。
「殿下のお付きだし何か言われるかもしれないけど、親愛なる叔父様のためだと思って黙っておいてくれよ。」
「わかりました。先ほど彼女にも怒られたばかりなので。」
「勝手に師匠のことを話すからいけないのよ。」
「そうだな……それに関しては今まで通り必要以上に話さない方がいいな。君の父親はシリウスを嫌っているしね。」
「……そうですね。」
「まあ、なんだ。とりあえず思うようにやったらいいさ。何かあったらシリウスが飛んで帰ってくるだろうから。」
「……ありがとうございます。」
「何かあったら力になるから、頭の片隅にでも留めておいてくれ。」
そう言うと、二人の申込用紙を再度確認し、魔法でサインが自筆かどうかを確認する。
以前、他人の名前を書いて本人の知らぬ間にペアが組まれるという事象が起きたことで、受付時にこうして確認することになったのだが、勿論そんなとんでもないことをするのはナイクル侯爵令嬢であり、その被害者はウィリアムである。
「よし、確認完了だ。これで正式に受付も終わった。頑張れよ!」
「「ありがとうございます。」」
「あ、ファベルク、ちょっと。」
セリーナは、そこで待っているようにとクーデン先生から示されると、言われた通りに二人から離れて言われた場所で立ち止まる。
ルークの肩に手を置いて、僅か二人だけの空間に小さい結界を展開する。
「……セリーナにも聞かれちゃいけないことなんですか?」
「彼女の心情を慮って念のためね。……君は将来の殿下の護衛騎士だね?」
「ええ、まあ……そうです。」
「その立場を確約されるまで君がどれだけ努力したかは俺には想像ができない、確約された今でも批判する馬鹿もいるしね。君はとてもすごい奴だ。シリウスも褒めてた。」
「……ありがとうございます?」
「……でもな、いいか。殿下たちと彼女、選ばなければいけなくなったら、迷わずセリーナ嬢を選べ。」
「え……なぜ? そんな、こと、自分にはできません。どちらかを選ぶというのもそんな……」
「別にどちらかを殺せと言ってるわけじゃないんだ。万が一の時はだ。護衛騎士として許されないことになるかもしれないが、そこはシリウスも俺も、お前を守ってやる。理由がわかれば王族ですら文句は言えないだろう。」
「……どういうことですか。」
「彼女が話してないのに言うわけないだろ?」
「……。」
「これは頑張っている君に俺からの助言だ。深く考えなくていい、そうならないように大人たちが動いてるからな。だがもしもの時は、……頼むよ。」
「……覚えておきます。自分でも少し、考えさせてください。」
「……そうだな。あ、彼女を探るようなこともするなよ、これも助言だ。理由はいつかわかる。」
「……分かりました。彼女を信頼してますから、彼女を裏切ることも探るようなこともしません。」
「……そうか。お前らもいい友人同士なんだな。」
ルークは頷き、静かに礼をするとその場を離れ近くで待っていたセリーナの元に向かった。
その二人の後ろ姿を見送ったロベルト・クーデンは一人でそっと呟く。
「……こりゃこれから動きがありそうだな。念の為シリウスに伝えておくか……。」
そうしてそっと近くの小部屋に入ると、用件だけを書いた手紙を自分の守護精霊に手渡した。
「悪いね、ロル。急ぎなんだ。」
『気にするな、久しぶりにあいつに会ってくるよ。』
そうして狼のロルはパッと消えた。
ロベルトは自分の生徒でもあるセリーナ・ゴルドーを思い返していた。シリウスから聞いていたのもあるが、母親であるシャロンと同じ髪色を隠していてもすぐにわかった。認識阻害でうまく隠してはいるが、とんでもない魔力量と彼女に幾十にもかけられた精霊力による守護に。シリウスや自分と同じように、守護精霊のこともうまく隠していると感心したのも記憶に新しい。
王太子殿下やゼファル公爵令息であれば気付けるかもしれないが、それでも違和感を感じる程度だろう。それほどの完成度であり、学生時代シリウスと一、二を争う実力だった自分も聞いていなければわざわざ学生相手に意識しなかっただろう。
それほどまでにシリウスは彼女に自分の知識を叩き込んだらしい。
「あいつは、まだ過去に囚われたままなんだな……」
彼に突き付けられた現実を思うと、自分だったら耐えられないだろうと思うが、親友としてもう気にするなと何度声をかけてやったかも忘れてしまった。
それでも彼が進むことにした道はあの事件の解明だった。
「それなら俺は、それを手助けするまでだ。」
そうしてロベルトは静かに小部屋を出ると教員室に戻っていった。
メリークリスマス!
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