2-3.変化の兆し
「ゴルドー伯爵令嬢、久しぶりだね。いやー、ルークから君が相手だと聞いた時は正直驚いたよ。」
声をかけられ、セリーナは改めて礼をとる。気にするなというように手を振る王太子を見ると、以前話した時とは明らかに自分を見る目つきが変わっていることに気がついた。後ろにいるゼファル公爵令息も同じである。
以前は一生徒に対する接し方と同様であったし、正直ゼファル公爵令息の方が何かを探っているようであった。しかし今会った二人は、セリーナを見つめる目が真剣である。
" いくらルーク兄様が選んだからってここまで変わるかしら…? "
と不思議に思ったセリーナだが、謎はすぐに解ける。
「聞いたよ。ファベルク先生の愛弟子なんだって?」
エオルたちはセリーナから少しでも話を聞きたいとまずは先生の話題を出したが、名前を聞いた途端に目の前でみるみるうちに顔色を悪くするセリーナを見て「間違えたか……」と後悔する。セリーナは不敬だということも忘れ、エオルからの問いに答えずギギギと音がしそうな動きでルークの方を見ると、彼の腕を掴んで彼らと離れた隅に連れていった。
「ルーク兄様、どういうこと?」
ルークにしか見えない角度で、セリーナが憤怒の表情を向けている。何か言われるだろうとは思っていたが、まさかここまで怒るとは思っていなかったルークは、視界にいるルイーザに助けを求める。しかし完全にセリーナの味方である上に、ここまで怒りを前面に出しているセリーナは手に負えないと両手をあげている。
「……さっき教室で話した時に…ちょっとつい、君の実力に懸念を抱いてそうだったから……つい。」
「……私が先生に教わってたことは秘密にしてるの知ってるわよね。」
「知ってるけど……殿下たちは大丈夫だよ、殿下やウィルも叔父さんに……」
「大丈夫かどうかはルーク兄様じゃなくて私が判断することじゃない?」
「……そうだな。勝手に話したことは悪かった。でもセリーナ、今後のことを考えたら殿下たちを味方につけておいた方が……」
「それとこれとは話が別よ。ルーク兄様を信頼しているからこそなの、私には裏切りと感じるようなことよ。」
「……申し訳なかった。勝手に判断したことも、言ったことを伝えなかったことも。」
「……それで、どこまで言ったの?」
「叔父さんに教わってたってことだけだよ。それ以外のことは一切言ってない。……でもセリーナのお父さんとのことは言ったな。」
「……まあそれは調べればいくらでもお父様のボロが出てくるでしょうし全然いいのよ。でももうこれからは気をつけてね。」
「ああ、セリーナの許可なしに言うことはもうしないよ。」
セリーナは頷くと、殿下たちのところへ戻ろうと振り返った。話が終わったとみると、ルイーザがすぐに近付いてきてルークをどつき、セリーナに謝った。
脇腹をおさえたルークを苦笑いしながら見ると、セリーナは問題ないと首を振った。
脇腹をおさえたままのルークを放って殿下たちの元へ歩んでいく。
「お話の途中で大変申し訳ございません。」
「……いや、僕の方こそすまなかったね。ちょっと話を聞きたかっただけなんだが、急ぎすぎたな。」
「いえ、個人的な事情で公にはしていないもので、殿下からお話が出たことに驚いてしまいました。過剰に反応してしまい申し訳ございません。
ただ、申し訳ありませんが公の場でお話しすることは控えさせていただければと。」
「ああ、構わないよ。また今度聞かせてもらおう。」
「ありがとうございます。」
「……ゴルドー伯爵令嬢、一つだけ、いいだろうか。」
「なんでしょうか?」
「……先生と、連絡はとれないだろうか?」
ウィリアムは藁にもすがる思いでセリーナに問いかける。ディカエのことで相談したいことがあったが、昨年から連絡が取れなくなっていた。
「……? ええ、取れますが。」
「「なんだって!?」」
エオルとウィリアムが同時に声を上げる。王太子であるエオルですら連絡が取れない状況下で衝撃の事実に教室内と同様に驚きを隠せない。
「ええ……先日ちょうど手紙を出しまして、返信が届いたばかりです。」
「……だから言ったじゃないですか、愛弟子だって……」
脇腹をさすりながらルークが輪に加わる。
「……僕たちは詳しい所在すら知らされていないんだ。昨年から連絡も取れなくなってしまって……相談したいことがあるんだが。」
「ちょうど私が入学して隣国に行ったタイミングでしょうか……。返事を書く際に公爵令息様のことを伝えておきますね。
ただ、次は返信が遅くなるかもと言っていたので、いつ頃届くか……。」
「いや、いつでもいい。書いてくれるだけでありがたい。よろしく頼むよ。ありが……と…う?」
「……? どうかなさいました?」
「……いや、気のせいだ。すまない。」
一瞬、一週間前に出会った初恋の人と同じ瞳を見た気がしたウィリアムだが、眼鏡の奥に見えた瞳の色はウィリアムが想う女性とは違った。
心の中で落胆するウィリアムだったが、目の前にいる女性が探し求めている相手だとは知る由もなかった。




