1-3.突然の要望
「……ガルクス公爵令嬢とペアが組めれば良かったのにね……」
「まあ正直、彼女とペアを組めるのはウィルくらいだろうから……今年はもう決勝に行く前に負けたいよ。昨年は散々だった……。」
昨年の決勝を思い出したルークは静かに目を閉じた。その様子にセリーナとルイーザも苦笑いを浮かべる。
昨年の魔法競技大会の決勝は学院の歴史に残る戦いとなった。
年に一回、仮面舞踏会の一ヶ月後に開催されるこの大会は、生徒たちの将来を決める上でも重要なものであった。仮面舞踏会同様、参加は自由。ただし、ペアは男女で組むことが必須。女性達は攻撃に参加しないため、男性が戦闘不能になった時点で終了。それ以外は、完全な実力主義の大会のため相手に故意に致命的な傷を負わせることをしなければ全て自由である。
例年、騎士団等への入団を希望する者が多く参加するため、男性が攻撃で女性が防御を担うことが一般的な手法で、男性の力量が勝敗を決めることが多かった。
そのセオリーが崩れはじたのが、ルークたち現三学年が入学した年である。
既に騎士団見習いになっていたルークは魔法競技大会には出場する必要はなかった。それでも、先輩たちから妬みの目を向けられることも多かったために、王太子であるエオルがダントス伯爵令嬢に声をかけて二人を組ませたのである。
「ここでいい結果が出せれば、騎士団長に掛け合ってあげる」
父親から騎士団入りを反対されていた令嬢は、王太子からの魅力的な提案を二つ返事で聞き入れた。魔法はあまり得意でなかったダントス伯爵令嬢だが、出場が決まってからというもの死に物狂いの努力を重ね、完璧に近い防御魔法を習得したことでルークたちは一年にして先輩たちを倒して決勝に進んだ。
そこで待ち構えていたのは、同学年のゼファル公爵令息とガルクス公爵令嬢であった。
初の一年のペアの決勝ということで当時は騒然となった。レベルを心配する者もいたが、決勝を見た者たちはそんなものは杞憂であったと誰もが口を噤んだ。
ゼファル公爵令息たちの魔力量と緻密で高度な魔法の数々にルークたちは手も足も出ずに勝敗が決まった。ボロボロのルークたちと違い、優勝者たちはかすり傷一つなかった。
この結果に闘志を燃やしたのはダントス伯爵令嬢である。準優勝という結果にダントス伯爵令嬢は騎士団見習いへの入団は決まり、ルークとしても風当たりが弱まったことで出場した成果は得られたが、あまりにコテンパンにされたことが負けず嫌いの令嬢の火をつけたようだった。
騎士団での訓練の合間に魔法の特訓も重ね、二年次の競技大会の時には、騎士団の精鋭たちとも渡り合えるほどの実力を身につけていた。それは特訓に時々付き合っていたルークも同じである。
そんな中で迎えた昨年の競技大会の決勝。昨年と同じ組み合わせでの決勝に、嫉妬をする者もいたが、多くは期待の眼差しを向けるものが多かった。
そんな中、試合開始前の宣誓時に、ガルクス公爵令嬢が驚きの発言をする。
「この決勝、私も攻撃に参加していいかしら?」
審判をつとめる教師をはじめ、ペアであるウィリアム、相手のルークたちは全員ギョッとした視線をガルクス公爵令嬢に向けた。そして宣誓のためにマイクが用意されていたために、競技場にいた全ての者に声が届いており、全員の表情が抜け落ちていた。それでも当の本人は気にせず微笑みを浮かべたままだ。
この時点で既に王太子婚約者として内々に決定していたため、ウィリアムも慌てて止めようとするがガルクス公爵令嬢は首を振る。
「参加すると言った以上、私が怪我をしたとしても公爵家から抗議することはないわ。勿論、ダントス伯爵家にも、ファベルク伯爵家にもね。」
その発言に隣でウィリアムは頭を抱えた。ルークたちは開いた口が塞がらないままだ。
今の発言は、女性が攻撃に参加するということだけでなく、男性からの攻撃を受けても構わないということを宣言したものだった。
婚約者に内定していることはルークも既知だったため、「いや、ですが……」と苦笑いを浮かべて同意しかねていた。煮え切らない反応にガルクス公爵令嬢の顔に不満が募るが、ウィリアムが間を取り持つ。
「ガルクス公爵令嬢、君は知らないかもしれないが、男性から女性に攻撃をするというのは後々禍根が残るんだ。いくら君がいいと言ってもね。家格差を考えてもファベルク伯爵令息に言いがかりをつけてくる者もいるだろう。ペアの僕としても、彼を相手に君を守りながら戦うのは厳しいよ。」
「あら、守らないで結構よ。」
「そうはいかないだろう……」
ウィリアムが小声で呟くが、ガルクス公爵令嬢は意にも介さない。しかし、ルークの風当たりが強くなることは彼女も望んでいるものではなかったため、完全対決は諦め、次にダントス伯爵令嬢に向き直る。
「ねえ、ダントス伯爵令嬢。あなたはどうかしら?
ここ一年でかなり上達したと噂になっていたもの。私も立場上、あまりこうした機会がないから自分の実力を知るという意味でも男性と同様に参加してみたいのよ。
貴女がよければ、こういうのはどうかしら?」
そうしてガルクス公爵令嬢は次の条件を挙げた。
一、基本的には女性が防御を行うが、女性の攻撃参加も可能
二、女性から男性への攻撃は可能だが、男性から女性への攻撃は不可
三、女性も攻撃に参加することを鑑みて、男女共に戦闘不能になった場合に試合終了
四、自チームと相手チームで男女別々に一人ずつ残った場合は性別関係なく攻撃可能
条件を聞いたウィリアムは我慢できずに競技場の王族席に目を向けた。そこには苦笑いを浮かべる王太子のエオルと、心配そうにしている王と楽しそうに見ている王妃がいた。
心配そうにはしつつも全く止める気配のない叔父を見たウィリアムは、ため息をつくと、ルークを見やり首を振った。
その様子にルークはちらっと自分のペアの相手を見る。
そこには「自分の実力を知れる」という魅力的な言葉に惹かれて目を輝かせているダントス伯爵令嬢がいた。これはもう拒否できないことを悟り、ルークは静かに天を仰いだのであった。




