1-2.突然の要望
「……色々戸惑う内容なんだけど、とりあえず最後まで聞いてもいい?」
セリーナが今までにないほど嫌そうな顔をルークに向けた。ルークはそれを見て申し訳なさそうにしながらも、経緯を話し出した。
「ルイーザは知ってるよね、元々他の人とペアを組んでたんだ。将来の王太子護衛騎士が出ないわけにいかなくて。」
「ダントス伯爵令嬢よね? 現騎士団長のご息女の。」
「ああ、お互い騎士団見習いでね。クラスも同じだし、彼女なら諸々と安心できるから。」
信頼できる、という意味もあるが、ルークはルイーザを気にかけてのことでもあった。そうでなくても、将来の王太子護衛騎士候補の婚約者が子爵家だということに未だに苦言を呈す者もいるほどだ。実際、昨年の競技大会も彼女と出場しているが、その頃から家格も釣り合うためにルークとダントス伯爵令嬢のカップルを推す者も出てきた。しかし、恋愛よりも稽古が好き、というダントス伯爵令嬢は、
「王太子殿下がお認めになっている二人に文句があるの? あなた随分と偉いご身分なのね。あんな可愛らしい令嬢より自分の方が上だと? 王太子殿下が認めた彼女より?」
とルークが何か言う前に撃退してくれる頼もしい人物であった。そしてダントス伯爵令嬢自身も、騎士になろうとしている令嬢に冷ややかな目を向けることなく平等に扱ってくれるルークを信頼していた。同じ騎士を目指す者として、そこには確実に友情が存在していた。
「去年もその方と出場したわよね? 今年もだって聞いていたけど……何かあったの?」
「ああ……数日前の稽古で怪我をしたそうなんだ。治療を受けて問題はないそうだけど、頭に強い衝撃も受けたそうで大事をとって学院も休んでる。僕はその時の稽古には参加していなかったから怪我をしたということしか知らなくてさ……。そしたら昨日、競技大会に出るのは難しいって謝罪の手紙を受け取ったんだよ。」
「それは……心配ね。」
「ああ。まあ彼女が出れないなら僕も出場を辞退しようかと思ったんだ。有望な子はもう他の人とペアを組んでるしね。けど、王太子殿下に……誰かしら見つけて結果は悪くても出るようにって言われてさ。」
「どうしてそこまで?」
「そうじゃなくても僕に対しては風当たりが厳しいんだ。伯爵家の人間が〜とかなんとかって。それでも、去年の競技大会で準優勝したおかげでだいぶ引いたんだよ。昨年準優勝したのに出ないとなると、また騒ぎ出す奴がいるだろうから、結果は悪くても出場はした方が…ってね。」
「……まあ、それはそうね。そういう人たちって出たら出たで結果が悪ければそれにも文句言ってくるでしょうから、どちらにしても無駄な気がするわ。」
「まあ、それもそうなんだけど王太子殿下に出る方向で相手を探してこいと言われてさ……でも、安心してペアを組める子がいないんだ。実力がとか以前に、単純に利用しようとする女の子と近づくわけにいかない。それで頭を抱えてたんだけど、セリーナがいるじゃないか!って思ってさ。」
「……。」
「叔父さんに教えてもらってたろ? だから絶対に扱いに長けてるだろうし、実際叔父さんも昔から君を褒めてた!
それに、学院の成績は君のお父さんを避けるために手を抜いてるだろ?」
「え、なんでわかったの?」
「昔の君を知っている人間からすればわかるさ。」
横でルイーザも頷いている。セリーナは二人にもバレていないと思っていたため拍子抜けする。
「なんだ、二人に隠す必要なかったのね。」
「まあ、理由は分かりきっていたから僕たちもわざわざ言及しなかったしね。……というわけで、他にいないんだ。ルイーザには悪いけど、君は魔法得意ではないだろ?」
「悪いなんて思わなくていいわ。日常生活で使うものならまだしも、競技大会に出れるような腕前じゃないのは自分でもよーーーーーくわかってる。それでルークが怪我をするのは嫌だもの。その点、私もセリーナなら安心だわ!」
「ちょ、ちょっと待って。私だってそんな……」
「いや、セリーナ。君、変装のついでに魔力量も誤魔化してるだろ。」
セリーナはドキッとした。本来の魔力量自体はバレていないだろうが、ルークほどの力量になると隠していることくらいはわかってしまうらしい。その理由に、ルイーザは「そんなことまで?」と驚きながらも若干の非難の眼差しを向けてきている。
“ まあ昔を知ってる人間からすると違和感しかなくてカマをかけてみたんだけど……やっぱりそうか。ただエオルとウィルも気付きかけてたから……そろそろセリーナも隠れてるだけじゃいられなくなるな。 ”
ルークは複雑な表情を自分に向けるセリーナに内心で謝罪するが、背に腹は変えられないとそのまま彼女の言葉を待った。
「……そうね、変装のついでにそういう仕込みはしてるわ。でも、魔力量があるからって流石に競技大会になんて……」
「いや、大丈夫だ。競技大会と言っても、例年、男性が攻撃で女性が守備を担う形が鉄板だ。昨年の決勝が例外だっただけで。それに、あくまで学院の競技大会だからね。男子生徒から女子生徒に攻撃を仕掛けると後で袋叩きに合うから皆やらないんだよ。……これも、昨年の決勝以外はね。」
「女性は守備だっていっても、競技の上では重要でしょう? 万が一のことがあったら、ルークを怪我させることになるじゃない。嫌よ、私そんなの。もっときっといらっしゃるわ、ルーク兄様とペアを組めるご令嬢が!
そうね……、あ、そうよ! ガルクス公爵令嬢とか……」
「セリーナ、本気で言ってる?」
「……え? 何、ルイーザまで。」
「……セリーナ、昨年の競技大会は見に来てくれてたよな? 覚えてない?」
「覚えてるわよ! ルイーザと一緒にルーク兄様の応援に行ったもの。相手は……。あ、そういうことね。」
「そういうこと。昨年の決勝は、僕とダントス伯爵令嬢のペア。相手は、ウィル……ゼファル公爵令息とガルクス公爵令嬢のペアだ。
そして、試合開始前に無礼講だとお互いに宣誓して、女性たちも攻撃に参加。とんでもない決勝だったよ。」
「じゃあ、今年もそのお二人は……」
「出るよ。元々規格外の王太子殿下は出れないから、一年次から二人で出てる。史上初の全年優勝を狙うってさ。」




