1-1.突然の要望
「ねえ、ルイーザ。もう機嫌を治してよ……ごめんてば。」
「ええ、別に、怒ってないわよ。ぜーーーーっんぜん!
貴女は仮面舞踏会に出ないと言ってたから、今日この事を聞くまでずーーーーっとルークとの話ばかり聞かせてしまって逆に申し訳ないくらい。
まっっさか、あの初恋の相手と仮面舞踏会で逢瀬を楽しんでいたなんて。それを私にすら話してくれないとは思ってなかったけれど、いいのよ、全然!!」
「お、逢瀬ではないけど…ごめん、言うタイミングがなくて……」
仮面舞踏会から一週間ほど経ち、学院内もようやく落ち着きを取り戻しはじめた頃、学院の中庭でセリーナと昼休みを過ごしていたルイーザは衝撃的な事実を聞かされていた。
彼女自身はこの一週間、想像していたピッタリのタイミングでルークが自分を見つけ出し、仮面舞踏会でダンスを踊れた事で見事にゲーム…もといジンクスを成功させたことでかなり浮き足立っていた。ルークと婚約した時の次に興奮していたといえる。婚約者同士であるため最後は仮面も外してダンスをしたことから、自分の同級生だけでなくルークの同級生からも「素敵だったね!」と声をかけられることが多々あり、あの野蛮な令嬢ことナイクル侯爵令嬢ですら文句を言えない状況に大変ご満悦であった。
そんな話を延々とセリーナに聞かせていたが、まさかセリーナの晴れ姿を自分が逃していたどころか、教えてもくれないなんて!!!と非常にご立腹であった。
「言おうかと思ったのよ、でも叔父様たちにも知られるとお父様にバレるじゃない?
とにかく平和に終われるように考えたの。貴女に言いたかったわ、一緒に行きたかったし、貴女とルーク兄様のダンスも見たかった。でも……」
「ごめん、セリーナ。いいの、……分かってる。驚いて取り乱してごめん。貴女の立場を考えれば当然のことよ。でも、やっぱりちょっと悲しくて。」
「……ごめん、ルイーザ。」
「もういいって、意地悪してごめん。……でも今度そのドレス姿見せてくれるわよね?」
「勿論よ、叔父様と叔母様にも見てもらいたいもの。とても素敵なドレスを作ってくれたの。」
「……よかったわ、セリーナからそんな話を聞けるなんて。もっと外に出てくれればいいのにって思ってたの。……それで?」
「それでって?」
「何言ってるの!!! あの方と会ったんでしょう?
どうだったの、どんな方? どんな話を?」
「ちょ、ちょっと待って落ち着いてよ……」
「まさか! これでもだいぶ落ち着いてるわよ!
勿体ぶってないで早く教え……」
「……セリーナ、ルイーザ。お待たせ!」
ルイーザがセリーナに詰め寄ろうとしていたところでルークが現れた。彼の登場にルイーザも一旦引くことにしたらしい。小声で「…後で絶対教えてよね。」と囁き、セリーナは逃げられないことを悟った。
「悪いね、せっかくの昼休みに。」
「いいのよ、ルイーザから話があるってことしか聞いてないんだけど……どうかしたの?」
セリーナとルイーザが二人きりで昼食をとっていたのは、ルイーザ伝でルークから「話があるから、昼休みに時間をくれないか」と頼まれたからである。セリーナとルイーザだけにしてほしいと言われ、二人で中庭の東屋で待っていた。ルイーザに仮面舞踏会の話ができたのはこうして二人きりになれるタイミングがようやくできたからであった。
ルークは珍しく気まずそうにして言葉を発するのを躊躇っているようだった。なかなか見ないルークの態度にルイーザも不思議そうにしている。
「……ルーク、何かまずいことでもしたの?」
「いやいや、そういうことじゃないんだ。ただ……セリーナにお願いがあって。でも君にとっては迷惑かもしれないから…というか迷惑だろうから気が引けるんだけど、ただもう思いつくのが君しかいなくて。」
「……ルーク兄様からのお願いなら出来うる限り応えたいわ。お願いって?」
ルークは意を決したようにセリーナを見つめた。
「……来月の、競技大会にペアで一緒に出てほしいんだ。」
「「…………。」」
予想外の要望に、セリーナもルイーザも驚きのあまりに開いた口が塞がらないままにルークを見つめた。その様子を予想していたかのようにルークは二人に苦笑いを向けた。
一週間前の仮面舞踏会では幻想的な光景が広がっていた東屋は、今はなんとも言えない空気が流れていた。




