7−5.七年ぶりの対面
セリーナは先ほどまでのピリピリとした雰囲気など忘れ、自分の生活が保障されたことにご満悦であった。
もしかしたら今日は確認のために別宅に突撃してくるのではないかと予想はしていたが、その通りになったどころか、あわよくばと考えていたことまで成功するとは、父親と【感動の再会】をしている間も内心ほくそ笑んでいた。
「これで心置きなく残りの学院生活も楽しめるわ。卒業後も自由にしていいですって。あんなこと言っちゃっていいのかしらね。」
「そんなこと言っていないとか言い出すんじゃない?」
「まさか、ここにはレンがいるのよ?
人間と契約した精霊の前で言ったことを取り消すなんてできないもの。事と次第によっては精霊とのことを話すわ。来年どんな顔するか見ものよね!」
「……リーナ、どんどんいい性格になっていくわね。頼もしいわ。」
「それにしても、旦那様も確かに詰めが甘いですね。変装のことも一切詳細を尋ねませんでした。」
「魔法も含めて、色々なことに半信半疑だったみたいだし、髪色だけだと思ったんじゃない?
きっと髪の毛もカツラ被ってるくらいにしか思わなかったのよ。大体、害をもたらさなければ、なんて失礼しちゃうわ。」
事実、ダリオはまさか魔法で変装しているとは露ほども思っていない。
別宅の改修も、魔法でといってもほとんど本宅の使用人の手を借りたのだろうとしか考えていない、当主だというのにかなりお気楽な頭をしている。
「二人のおかげで仮面舞踏会にも行けて、お父様から言質も取れて。まさに一石二鳥だったわ!
今日は本当にどうもありがとう!」
「どういたしまして。とても晴れやかな表情をしているわ、楽しめた?」
「ええ、とっても。文通の方も良い人だったわ。今日は……行かせてもらって本当によかった。背中を押してくれてありがとう。」
「お嬢様の力になれたのなら、私たちはそれ以上のことはありません。素敵な出会いがあったようで、よかったですね。」
三人はそのまま遅めの食卓を囲んだ。
先ほどまでの陰鬱な空気とは打って変わって、そこは笑顔が溢れる温かな空間になったのであった。
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部屋に戻ったセリーナは、ふっと息を吐いてソファに沈むように座った。
父親との対峙は面倒だったが、将来の不安が軽減したという事実や仮面舞踏会での出来事を思い返すと気持ちが晴れやかになった。
「レン、今日はどうもありがとう。あなたがいなかったら実現できなかったわ。」
『あのくらい造作もない。楽しめたようで何よりだ。』
ルアムとダンスを踊った後にナタリアの精霊が現れた時はセリーナはかなり焦っていた。
止めようとするルアムを(レンのおかげで強制的に)振り切り、学院の中庭から出て馬車留めに向かう直前、突如レンが声をかけてきた。
『セリーナ、待て。』
「レン、どうしたの? 急がないと……!」
『その姿で今それ以上進むと目立つぞ。出入り口からチラホラ人が出てきている。』
「あっ……」
『転移する、捕まれ。』
「え、でも、仮面舞踏会の時は学院内は普段以上に結界が……」
『私にこんなものは関係ない。早く捕まれ。』
セリーナは静かにレンの背中に触れると、気付くとそこは学院の外で待っていた馬車の中だった。突然現れたセリーナに馬車の中で待機していたナタリアは声をあげそうになるが必死で堪える。
「ちょ、え、セリーナ? どういうこと?」
「驚かせてごめん! レンの転移で戻ってきたの。リアの精霊が知らせに来てくれて…!」
「!!! 旦那様が帰ってきたのね!?」
万が一のことも想定して、セリーナたちは前もって綿密に計画を立てていた。
契約した人間と精霊同士は念話で会話することができるが、相性が良いほど、さらに高位精霊であるほど離れた距離でも会話できるようになる。セリーナとレンはどちらの条件も満たしているため、ある程度の距離が離れていても会話ができるが、それは彼らがかなり特別だからだと言える。
こうしたことから人間と契約している精霊であれば、契約相手と少し離れた距離で行動することも多々あるが、契約していない大多数の精霊たちは守護している人間の元から長時間離れることをよしとしない者が多かった。
万が一、父親が早々に帰宅してセリーナの不在を嗅ぎつけた場合、どうにかセリーナに伝える必要があったが、それには他の精霊たちの力を借りるのが手っ取り早かった。しかし、ゴルドー伯爵家には精霊と契約している人間はセリーナのみであるため、ゴルドー伯爵家にいながら精霊が学院まで伝達に来るのは不可能だった。
どうしたものかと人間が頭を抱えていると、精霊は縁が近い者同士だと距離があっても意思疎通をとることができる、とレンが声をかけてきた。
そんな話は初耳である上に、縁が近いかどうかもわかりようがないと言うと、レンが衝撃的な発言をした。
『何を言っているんだ。すぐそこにいるじゃないか。そこの人間たちの精霊、親子だぞ。』
ナターシャとナタリアの守護精霊が親子だったと知る由もない人間たちは驚愕のあまり動けなくなった。その目の前では「何を今更」とでも言いたげに表情を変えず人間たちを見つめるレンと、その頭上を二匹の小鳥の精霊たちが楽しそうに飛び回るという不思議な光景が広がっていた。




