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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
仮面舞踏会編

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7-4.七年ぶりの対面



「姿を変えて、とはどういうことだ?」


「言葉通りの意味ですが。」


「変装しているというのか!?」


「そうです。この髪色はどうしても目立ちますので、お父様の髪色に合わせて茶色にしております。」


「だが、今は……」


「やり方はいくらでもありますので。」


「お前……わざわざなぜそのようなこと……」


「何を仰っているんです? お父様ですよ、その汚い髪を人様に見せるなと言ったのは。」


「……!」



ダリオは遠い記憶を思い返した。母親が亡くなって悲しんでいるであろう子供に、そのような暴言を吐いた自分を覚えていた。あの時期は今以上に気が立っていたのだ。八つ当たりだった自覚もあるが、まさか幼い時に言ったことを覚えていたとは衝撃であった。

セリーナを含め、当時その現場を目撃していたノートンやナターシャは、自分に都合の悪いことは忘れられる目の前の男を実に痛ましく見つめた。その視線に軽蔑の色も隠しきれていない。



「……それは昔の話だろう。今は、」


「一度口に出した言葉をなかったことになどできるわけありません。まして、入学時から髪色を変えているのですから、今更元の姿で通うのは無理があります。

お母様と交流があった方々とお会いすることもありませんし、()()()()()()()で学院で直接疑問を呈されるようなことも今までありませんから、このままでも支障がないと思いますが。」


「先ほどから聞いていれば、随分と言うようになったな。」


「とんでもない。七年もお会いしていなかったのに、私が言うようになったなんてどうやってお分かりに?」


「お前……」



目の前で父親が徐々に怒りに顔が赤くなっていくのを見ても、セリーナの顔色は一切変わらない。ダリオの方はその事実に余計腹が立っていた。

しかし、七年も放置していたのは自分自身であるため反論の余地はない。セリーナの言う通り、彼女が隠していることをやめさせると、自分が娘を蔑ろにしていた事実が露見してしまう。命と同じくらいに世間体を大事にするダリオは、怒りに震えながらも反論することもできない。

そしてこうなることはセリーナの目論見通りであった。



「……お父様。今まで会わずに過ごしてうまくやってきたのです。このまま、静観していただけませんか。

今までもゴルドー伯爵家に傷がつくようなことはしておりませんし、今後も妹の行く先を邪魔するつもりもありません。」


「……いつから気付いていた。」


「最初からです。」


「……最初から?」


「はい、リアーナが生まれて、まもなく。」


「……あの小さい時に気付いていたというのか? それで別宅に移ったと?

長子であるにも関わらず家督が継げないという事実に何も感じなかったというのか?」


「…? はい、特に何も。お父様がそのように考えるのであれば、従う他ありませんし、お母様が亡くなった以上、そういうものかと受け入れておりましたので。」



ダリオは、淡々と答えるセリーナを見て、家に来たばかりの現妻であるルチアの言葉が蘇った。


"……あなた、セリーナちゃんと、よく話してあげてください。母親を亡くしてまだ喪があけきらないうちに私がやってきて、泣き叫んでもいいくらいなのに……齢七つほどの子が、あそこまで達観しているなんて。

どうしてあの子を避けるんです? 私のことをすぐに受け入れてくれたとても優しい子です。きっと何か誤解があります。"


達観しているだなんて大袈裟な、と気にも留めなかったどころか、鬱陶しさすら感じていた。だが、今になって現妻の直感は正しかったのだろうと思えた。もしかしたら、長子としてもとても優秀であったのかもしれない、とこの七年間を一瞬後悔しかけたが、すぐに思い直す。


“ あの事実を知って、今まで通り接するなんて当時は無理だった。これでよかったんだ。”


ダリオは頑なに自分の過ちを認めることはしなかった。



「……いいだろう。今まで通り、ゴルドー伯爵家に害をもたらすことをしなければ好きに過ごせばいい。学院の卒業と成人までの生活も保障する。このまま過ちを犯さなければ、成人後の生活もある程度の自由を許そう。

ただし、何かあったら、その時に一番良いと私が判断する形でお前を家から出す。いいな。」


「わかりました。」


「それから、お前が家督を継ぐと思って、各家の次男や三男から釣書も届いているが全て断っている。余計な気は起こすなよ。」


「元々なかったものに未練もございませんのでご心配は無用です。」


「ふん。せいぜい励むことだな。啖呵を切ったのはお前だからな。」



ダリオはそのまま踵を返すと別宅を後にした。

ずっと後ろに控えていたノートンも、セリーナに礼をすると慌てて後を追いかけた。嵐が過ぎてようやくセリーナたちもホッと息を吐く。



「はあ、間に合ってよかった。どうもありがとう……助かったわ……」


「相変わらず酷い人でしたね、旦那様。」


「こら、ナタリア。私たちしかいないからってお嬢様の前で貶すのはやめなさい。」


「二人ともいいのよ。でも言質をとったわ! ハラハラしたけれど、予想外にいい収穫だったわね!」



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