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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
仮面舞踏会編

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7-2.七年ぶりの対面



「……! あの子は具合が……」


「ならば、やはり私が別宅に行こう。ドレスのことを追求する気はない。あの子がいるかを確認するだけだ。」


「……どうして、そこまであの子を目の敵にするんです?

本当に、どうして……可哀想です、あの子が何をしたというんです!?」


「……お前には関係のないことだ。」


「関係ないなんてことがありますか! 私は、貴方の妻ですよ。自分の夫がそんなことをしていて心を痛めないなんてことがあるわけないじゃないですか!」


「……それでも、理由を話すつもりもない。セリーナに対することだけは、いくら君だとしても受け入れることはない。」



ルチアは悔しそうに拳を握り締め、静かに涙を流した。

そんな妻の姿に心が痛み、抱き締めようとするが拒否される。悲しそうに見つめるが、ルチアは目すら合わせることを拒否していた。

ダリオはそのまま横を通り過ぎると、別宅へと歩みを進めた。衣装部屋からダリオが出た瞬間、ルチアは堪らず声をあげて泣き出した。痛ましい顔をしながらもダリオはそのまま執事を連れて歩き続ける。止めようとしていた使用人たちは、ダリオの魔法により動けなかった。


玄関ホールに辿り着いたダリオは、中央で急に立ち止まった。後ろに控える執事に静かに語りかけた。



「……ノートン、私は……間違っているのだろうか。」


「……私は、旦那様が何をご存知なのか分かりかねますが。シャロン様との間に何かあったにせよ、その負の感情をセリーナお嬢様に向けるのは間違っていると思っております。」


「今日はやけにハッキリものを言うのだな。」


「奥様があそこまでされたのに、執事である私が苦言を呈さないわけにはいきません。

例え罰を受けようと、主が間違ったことをしようとしたら止めなければなりませんから。」


「……そうか、私は間違っているか。」


「……旦那様。セリーナ様ももう成人になられます。このままでは……」


「ノートン、お前の気持ちはわかった。だが、これ以上は許さん。」


「……出過ぎた真似を致しました。」



ダリオも、自分が親としては褒められないことをしているのはわかっていた。

それでも、あの時知ってしまった事を考えると、どうしても感情を抑えられなかった。セリーナに罪はない。だが、あの子を娘として見る事も難しいほどに傷つけられた。


誰にも言わないのは、自分なりの最後の優しさのつもりであった。何も知らないルチア達は、全員口を揃えて私が間違っていると言う。とんでもないことだとダリオは思っていた。

先程は妻であるルチアの剣幕に押されたが、冷静になってみれば、やはり自分が正しいとしか思えない。


" 私が間違っているなんてあるものか。寧ろ生温い処置だ。

家に住まわせてやっているだけでもありがたいことだろう。"


ダリオは元々勤勉な性格で、学院の成績も上位であったことから王宮勤めの役人として推薦された。

周りからも信頼され、順調に昇進していき、当主になってからは領地経営も仕事もきちんと全うしてきた。とても模範的な貴族といえるであろう。

しかし勤勉であるからこそなのか、妙に頭が固いところがあった。先代伯爵である父親からも、「自分の見たものが全て正しいとは限らない。」と常々言われて育ってきたが、事実のみを重要視するせいでそこに至る過程や状況は知ろうとはせず、事実が見えた時点で全てをシャットアウトしてしまう男であった。

自分の立場から見えた事実しか捉えないのである。


良くも悪くも、生真面目であった。


役人としてはいい人材であったろう。不正を許さず、目の前の事実のみを見て淡々と処理をする。

しかし、逆にそれを利用されると致命的であるというのは本人ですら気付いていなかった。



「……セリーナのことは、これ以上干渉するな。ルチアもこれ以上あの子に気をつかうのはやめさせろ。リアーナの教育にも悪い。」


「ですが、リアーナお嬢様もセリーナお嬢様を大変慕われて……」


「それがよくないといっている。今までは多めに見ていたが、これから娘達を会わせるな。」


「……旦那様。それはお嬢様方に直接お伝えください。私共からはとてもではありませんが、そのような酷な事をお伝えすることはできません。」


「……分かった、リアーナには私から話そう。」


「……旦那様。どうしても、セリーナお嬢様にそのような態度をお続けになられるのですか。」


「……くどいぞ、ノートン。二度はない。流石のお前でも許さんぞ。」


「……失礼いたしました。」



ノートンは静かに頭を下げた。

ダリオにとっても、先代から仕えてくれているノートンを解雇させることは厳しいものがあった。年寄りの小言だと思うことにし、改めて別宅へ足を進めた。






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