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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
仮面舞踏会編

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6-4.月下に舞う



ウィリアムはセリーナに近付きそっと手を握る。

俯いていたセリーナが顔を上げると、綺麗な青い瞳が優しくこちらを見つめいていた。セリーナも、文通相手のことが気になってはいた。好き、とまで言えるかはわからないが、無理に距離を詰めてくることもなく、自分を偽らずに接することができる相手であった。

しかし、相手が自分を好きだと思ってくれているという事実以上に、婚約という話まで出てくるとは予想だにしなかった。弊害はない、と言っていたがこちらからすればありまくりである。それでも、好きな相手が自分を好きだと思ってくれている現実を捨て切ることは難しかった。

答えに躊躇していると、突然頭に声が響いた。



『セリーナ、素直になれ。』



契約した人間と精霊同士は、声を出さすとも会話ができるようになるため、少し離れた芝生の上で様子を伺っていたレンがセリーナに念話を送ったのである。ハッとしてそちらを見ると、微笑みつつも真剣な眼差しでこちらを見つめる精霊がいた。

セリーナは目を閉じると、意を決してウィリアムに向き直る。



「……わ、私も、貴方のことが好きです。」


「……え!?」


「でも、どうしても、私のことを話すのは、まだ、怖くて。

だから、もう少し待っていてもらえませんか。もっと…頑張るので。」


「……待つよ。いくらでも待つ。君の決心がつくまで。」


「……ありがとう、ルアム。」


「なんなら、僕の正体を伝えようか?」


「待って!……貴方、きっと高位貴族でしょう?

成人している方はともかく、学院在籍中は精霊のことを隠す方は高位貴族の方でも時々いらっしゃるもの。貴方がそうかはわからないけど、手紙を見ていてもそんな予感しかしないの。覚悟を決めるから待ってちょうだい。」


「はは、わかったよ。……ありがとう、レーナ。嬉しいよ。」



ウィリアムは恐る恐る、静かにセリーナを抱きしめた。セリーナも背中に腕を回すと、二人は幸せな気持ちに満たされる。



「……それにしても、君の認識阻害はすごいね? 手紙もそうだけど、全然わからないよ。」


「ええ、それについては元々自信があったけど、今日、より自信がついたわ。明らかに実力者である貴方が破れないんですもの。」


「……なんで僕が実力者だと?」


「なんでって……その魔力量とか雰囲気とかルタの精霊力とか、諸々かしら?」


「……それがわかる時点で君も相当だと思うよ……。

ねえ、何かヒントをちょうだい。君の決心がつくまで、僕は僕で君のことを探してみるから。」


「ええ……、なんでわざわざ?」


「なんか楽しそうだから。そんな表立って行動することはないからさ。」


「……そうね……じゃあ、一つだけ。この髪色は地毛よ。変装じゃないの。」


「あ、これやっぱり地毛なんだね……なんか安心したよ、すごく綺麗だよ。」



ウィリアムはセリーナの髪を一房とると、そっと口付けた。思わずセリーナは顔を真っ赤にするが、今まで女性が苦手だったとは思えないほどにウィリアムは飄々としている。



「可愛い、照れてる?」


「そ、だ、って! そんなこと異性に言われたことないから!」


「お、僕が一番? それは嬉しいな。頑張って君のことを探すね。」


「……私は探さないわ。」


「え、ひどい。」



二人は笑い合い、そっとおでこ同士をくっつけた。お互いの魔力を心地よく感じていたその時、突如レンの近くに精霊が現れた。話を聞いたレンはさっと起き上がるとセリーナに駆け寄ってきた。



『おい、まずいぞ。』


「……え? なに、どうしたの?」



レンの近くにいた精霊に目を向けると、ナタリアの精霊が飛んでいる。慌ててきてくれたようだ。

幸せな気持ちで満たされていたところに、一瞬にしてセリーナの心に影がさす。顔色が変わった様子に、ウィリアムも心配気に声をかけた。



「どうしたの、大丈夫?」


「ええ、大丈夫……。ごめんなさい、もう帰らないと。」


「えっ……でも、レーナ!」


「ごめんなさい、緊急事態なの。またお手紙を書くわ!

今日は本当にありがとう、ルアム。とても楽しかった!」


「ちょ、レーナ!」



離れて行こうとするレーナを止めようとすると、近くに来ていたレンが静かに威圧する。辺り一体がゾクっとするほどの空気に変わり、ウィリアムも思わず動きを止めた。

声を発さず、暗に「邪魔をするな」と訴えてきた精霊に、ウィリアムもそれ以上は何もできなかった。



「じゃあね、ルアム! また!」


「……! レーナ、気をつけて!」



セリーナとレンは中庭から駆け出していった。離れていく想い人の背中を見つめながら、ウィリアムはその場から動けなかった。

二人の周りに浮かんでいた光は少しずつ消えていき、辺りは先ほどまでとは一変し、どこか寂し気な雰囲気を漂わせている。同じように幸せだったウィリアムの気持ちも静かに萎んでいくかのようだった。



『……行っちゃったな。』


「ルタ……せっかく会えたのに……」


『……正直、あれ以上は恩人の精霊が黙ってなかったと思う。いいじゃないか。大進展だ!!』


「……髪色しか教えてもらえなかった。」


『……ウィル、今だから言うけど、仮面舞踏会に誘った時、相手の精霊から念を押されていたんだ。もし邪魔をするなら容赦なく攻撃するって。』


「……え、そうだったのか。」


『ああ、だからそうなったら俺もお前を守るために前に出なきゃいけないなと思っていた。が、正直あの方に敵意を向けられるなんてたまったもんじゃない。だからずっとこうして近くにいたのさ。

さっきだって、あの威圧だけで済ませてくれてよかったよ。』


「……やはり、あの精霊はすごいのか。」


『……詳細は言えないけど、頼むから敵に回さないでくれ。』


「………わかったよ、ごめん。迷惑かけたな。」


『……そんなことない、とは言えないが。それでもよかったよ、君の初恋が報われて。』


「あんなにバカにしていたくせに……」



二人は軽口を叩き合いながら、大ホールには戻らずにそのまま馬車留めへと向かった。


あっという間にいなくなってしまった想い人を前に呆然としていたウィリアムは、普段の観察眼を発揮できていなかった。

セリーナがいなくなってから時間が経っていないのに、進んだ先で全く姿を見かけなかったこと。

自分が馬車留めについた時には、いなくなった馬車の形跡がなかったこと。

精霊が転移をした時に残る微妙な残滓が、結界の中に残っていたこと。


想い人の精霊がとんでもない大物だと気付くチャンスを完全に逸したのであった。




人様の作品を読む時はウキウキしながら読めるのですが、いざ自分が恋愛模様を書こうとするとソワソワしてしまって仮面舞踏会のあたりは全く指が動きませんでした……


限界を迎えて若干投げやりになってしまったので、ちょっと反省しています。笑


可愛い恋愛模様をかくという試練が終わったので、今はサクサク進んでいます!

この後もお楽しみいただけると嬉しいです。



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