6-3.月下に舞う
突然の誘いにセリーナは驚きを隠せない。
「……え、っと、え? ダンス?」
「踊れる? 学院のものでもいいし、せっかくの機会だからリーナと踊りたいんだ。」
「でも、音楽だって……」
「聞こえるよ、ほら。」
耳を澄ますと、会場であるホールからの演奏が漏れ聞こえてきた。
「正直、音楽なんてどうでもいいよ。僕が、レーナと踊りたいんだ。だめかな?」
「……いいえ、喜んで!」
セリーナはウィリアムが差し出した手を取ると、東屋を出て目の前の広場に出た。
二人が向かい合ったとき、セリーナは漏れ聞こえる演奏に合わせてフォーマルなダンスの姿勢をとる。学院のダンスにするつもりだったウィリアムは、驚きに若干目を見開くもセリーナに合わせる。
演奏に合わせて踊り出した二人は、初めてのダンスとは思えないほどに息ぴったりであった。どちらもダンスを踊る機会は学院の授業くらいだが(ウィリアムに至っては女性と距離をとっているため余計に)、大人と紛れて踊っても引けを取らない程に素晴らしい腕前であった。
近くで見ていた二人の精霊たちによって、踊っている二人の周りにフワフワと光が作り出され、中庭は幻想的な空間になっていた。
セリーナの艶やかな髪が月明かりに照らされると、その美しさに魅せられてウィリアムの心臓はまた一段と早くなった。セリーナもまた、ウィリアムの優しげな瞳と目が合うと胸を押さえたくなるような気持ちになった。
「レーナ、正直……驚いたよ。少し聞いていた事情から察して、学院のダンスだけかと思っていた。」
「ふふ、そうじゃないかと思ったの。驚いた? 小さい頃から家庭教師にみっちり仕込まれたから、ある程度は踊れるわよ!」
「ある程度どころじゃないよ。こんなにしっくりくるのは初めてだ。」
「そういうルアムも手慣れているのね。」
「僕は……まあ立場上仕方なくてね。でも、元々女性は苦手だから極力避けてきてるんだ。」
「えっ……」
セリーナは慌てて距離を取ろうとするが、ウィリアムが腰に回していた手に力を込めて離れられないようにする。困惑しつつも、申し訳なさそうな顔をしている目の前の相手は、知れば知るほど自分が接してきた令嬢たちと違う反応を見せるため、ウィリアムはたまらず笑顔になる。
「今は、君以外の、女性かな。」
「おだてるのが上手ね!」
「本当のことなんだけどな。」
二人は静かに笑い合いながらも、別れの時間が近づいていることにも気付いていた。
素敵な思い出ができた、と静かに現実を受け入れているセリーナとは異なり、ウィリアムは内心焦っていた。この魔力量から考えられる令嬢は全く思い当たらず、契約精霊であるレンも、あそこまで力のある、ましてや白い虎の精霊は学院内では見かけたことはない。同じ髪色の令嬢も思い浮かばず、変装かどうかも全くわからない。それほどにセリーナの認識阻害の魔法は完璧、かつ高度なものであった。
“ ここでこのまま別れてしまえば、また何もわからないままになってしまう… ”
恋を自覚したウィリアムはどうにか彼女の手かがりを知りたいと思ったが、深入りしすぎると文通すらできなくなってしまうかもしれない。だからといってこのまま別れても…いっそ自分の正体を教える…でも逆に避けられてしまうかも…と堂々巡りをしていると、ダンスがちょうど終わった。
二人で礼をとると、しばし見つめ合う。
先に切り出したのは、ウィリアムだった。
「……ごめん、最初に会った時、見惚れてしまって伝え忘れていたけど、ドレス…とても素敵だよ。」
「あ、ありがとう。私も気に入っているの。」
「それは、僕の瞳の色も入っているから?」
「え?」
「その花の色、青がメインになっているから。」
「あ…これは、たまたま……」
「そうか、残念。」
「……? ルアム?」
「……色々考えたけど、女性との交流を避けてきたおかげでどうするのが正解か全くわからないんだ。だから、もう直球で伝えるよ。
……レーナ、君のことが気になっている。というより、今日会ってやっぱり、これが恋だって自覚した。僕は、君が好きだ。」
「……!」
「君が、正体を隠したいのはわかってる。だからここで無理に聞き出したいとか、そういうわけじゃないんだ。けど、僕にもチャンスをくれないか?
君を探し出すチャンス。」
「そんな、でも、私……ルアムも、婚約とか…」
「それは心配いらないよ。前に手紙でも言ったけど今は相手もいないし、両親もできるだけ好きな人とって言ってくれてる。
レーナ、君は自分に自信がないみたいだけど、所作は洗練されてるしダンスも魔法も完璧、精霊とも契約してる。何より心優しい令嬢だ。君が思ってる以上に、レーナはすごい人だよ。
貴族令嬢としての弊害もなく、人間性も優れているとなれば僕の両親は余計反対しない。だから、僕は君がいい。」
「……。」
「君は?……レーナは、どう思ってる?」




