5-3.仮面舞踏会
「でも、ようやくだな。楽しく過ごせることを祈るよ。ウィルにも幸せになってもらいたいからね。」
「ああ……ありがとう。まあどんな相手かもわからないからな、とりあえずルタを助けてくれたお礼は伝えてくるよ。」
「まあ……君の気持ちを尊重するよ。素直になれよ。」
『ウィルはそこが問題だな。』
「ルタ、お前誰の味方だ。」
「実際手紙でだって回りくどい言い方ばかりして相手に全く伝わってないじゃないか。」
「お前たち……応援してくれるんじゃなかったのか。」
「応援しているからこそ、だろ? お前に対して耳に痛いことを言えるような人間はそう多くないからな。」
実際、想い人との手紙では、恋の詩を引用してアピールをしても勤勉な人だと思われるのみで全く伝わらず、男性が女性に向けた想いを真摯に伝えていると評判の本について無知なフリをして質問してみても、苦手なことにもきちんと取り組む真面目な人物だと思われるだけで終わった。
その度に密かに落胆していたことをエオルもルークも、精霊のルタでさえ知っていた。そして全員が
「もっと素直に伝えればいいのに。」
と思っていたこともウィリアムは分かっていた。
だが幼少期から今の今まで恋愛の「れ」の字もなかっただけでなく、一番に言い寄っていたのがあのナイクル侯爵令嬢であったせいで、自然と女性に対して苦手意識を持ってしまったのは致し方ないといえる。
「まあ、今日は普段通りに過ごすといいよ。間違ってもナイクル侯爵令嬢と接するような態度は取るなよ。一発で嫌われるぞ。」
「流石にそれはしないよ。」
「よし。あとはもう手紙でお互いのことはある程度分かっているんだし、仲良くやってこい。俺もルークも手助けできないからしっかりやれよ。」
エオルはガルクス公爵令嬢と参加することになっているため、ウィリアムやルークとは今日ばかりは別行動となっている。
「…じゃあ、支度もあるからそろそろ戻るよ。幸運を祈る。」
「ありがとう。お前もいくら学院内でも気をつけろよ。」
「分かってるよ。」
そうしてエオルは精霊のオリーと共に、きた時と同じように転移で戻っていった。
残されたウィリアムは、ふーっと息を吐きながらソファに項垂れるように姿勢を崩した。エオルのおかげで少しは緊張はほぐれたものの、貴族として、公爵家の跡取りとして、そして王太子の側近として育てられた自分にとって素直になるというのはとてもハードルが高いものであった。
『そう考え込むなよ、ウィル。良い人だったからきっと分かってくれるさ。』
「……そうは言っても緊張するんだよ。ここ最近の自分は女々しさを飛び越えてポンコツだ。意識しすぎて、仮面舞踏会で会えることになってから手紙だってほとんど返せていない。」
『……そんな緊張するということは、その場面をより良いものにしたいと思っているからだろう?
ポンコツな人間がそんなこと考えるもんか。君は責任感のある、優しい人間だ。その君の良さがわからない相手なら、それはウィルに相応しくなかったのさ。』
「……ありがとう。とりあえず……湯浴みしてくるよ。少しは気が紛れるだろう。」
ウィリアムは湯浴みのために部屋を後にした。ルタはその姿を見送ると、自分が助けられたときに出会ったあの恩人の女性のことを思い返していた。
『……精霊王様が選ぶ視点で心根の優しい方なんだろう、二人はお似合いだと思うんだがなあ。』
そうして主人の幸せを祈りながら、ルタは眠りにつくため先程まで主人がいたソファで丸くなって静かに目を閉じた。




