5-2.仮面舞踏会
「今度、リアーナと一緒に庭園でお茶をする時に着ても構いませんか?
今回手助けしてくれた使用人の皆はもちろんですが、お義母さまやリアーナにも見ていただけたら嬉しいです。こんな素敵なドレス、一回着るだけなんて勿体無いですし!」
「まあ……。ありがとう、セリーナ。是非そうしてちょうだい。今日もリアーナは最後まで来ると言って聞かなかなくて、とても寂しそうにしていたから。きっと喜ぶわ!
……セリーナ、短い時間かもしれないけれど、目一杯楽しんでくるのよ。旦那様のことは私が責任を持ってどうにかするから。」
「ふふふ、ありがとうございます。でも、お二人の仲が悪くなるようなことはしないでくださいね。私のことはどうにかしますから!」
義母はセリーナをぎゅっと抱き締めると、侍女を連れて別邸を後にした。
別邸残ったのはここに住まう三人だが、全員が再びドレスに魅入っていた。
「とても素敵なドレスね、リーナ。本当に…、ほんっ…とに……よかった!」
「え、ちょ、ナタリア!? 泣かないで……どうしたの…!」
「我が娘ながら、いつもなら侍女として許されないと叱責するところですが、今日ばかりは許しましょう。
お嬢様……学院内とはいえようやく社交界に出てくださる決断をしてくださったこと、私はとても嬉しく思っています。天国にいる奥様もさぞお喜びでしょう。
なんといっても、こんな素敵なドレス……! ぐすっ…!」
セリーナも目を潤ませつつも、自分より感極まっている二人にやれやれと首を振った。
「…ぐすっ……でも、リーナ。本当にルイーザ様にお伝えしなくてよかったの?
ルイーザ様だってあなたが仮面舞踏会に出ることをずっと期待していたのに……」
今回、セリーナは悩みに悩んだ末、ルイーザ、もといユグネル子爵家やルークなど、友人たちには欠席すると伝えている。
初めての参加となると、ユグネル子爵家も待ってましたとばかりにお祝いなどを送ってくる可能性もあり、万事何事もなく終えることを最優先にした結果である。
「私も伝えたかったけれど、とにかく無事に終わらせることが最優先だから。彼女もルーク兄様との約束で忙しそうだったから水を差したくなくて。
私も静かに行って用事を済ませてすぐに帰ってくるつもりだからいいのよ、彼女には来週にでも伝えるわ。」
仮面舞踏会は夕方からはじまるが、セリーナは文通相手との約束である夜の八時に合わせて向かうつもりであった。
目立つことを避けるために、メイン会場である大ホールには出入りしないと決めていた。
「残念だけれど、あなたが出てくれるだけで私たちはとても嬉しいわ。
お昼は量を減らして早めに食べましょう、何も食べないと倒れてしまうから。そしてお昼過ぎには支度をはじめるからね!」
「わかったわ。よろしくね。」
ナターシャとナタリアはニコニコと笑顔のまま支度に向けた準備のために部屋を後にした。
当日を迎えてもあまり実感が湧いていなかったセリーナだが、ドレスを目にしてようやく自分ごとのように捉えられるようになっていた。
ちょうど去年の今頃はじまった文通、最初こそとんでもない輩だと思ったものの、手紙を通して感じる人柄に惹かれていたのは事実だ。
どんな人だろう…と少し期待に胸を膨らませたセリーナは、時間まで一息つくために自室へと戻っていった。
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ちょうどその頃、ゼファル公爵家の自室にいるウィリアムは目の前にいる人物に辟易していた。
「そんな顔をするなよ、従兄弟として激励しにきてあげただけだろ?」
「いくら従兄弟、いくら王族だからといって、いきなり部屋に現れるなんて問題しかないだろうが!」
「書き置きしてきたし、準備にはまだ時間もあるから問題ないよ。」
「こちらが大アリだ……」
約束の仮面舞踏会を前にして、ディカエと初めて相見えたときと同じくらいの緊張を感じていたウィリアムは、少しでも気を紛らわそうと読書をして時間を潰していたが、内容はこれっぽっちも頭に入ってこなかった。
それでもどうにか冷静を保とうとしていた中で、突如目の前に王太子である従兄弟のエオルが現れた時には、いつも以上に驚いてしまった。
念願の初恋相手に会えるとなってからというもの、エオルは一緒にいても話題が尽きると冷やかしてきて散々であった。
「緊張しているだろうと思って、これでも僕なりの思いやりできてあげたんだが。」
「気が紛れたのは事実だし、そこに関しては!とてもありがたい。だが転移をして無駄な精霊力を使わせるのはやめろ。何かあった時にどうするんだ。」
「まあそれは言われると思ったが、今回も我が親友、我が従兄弟殿、そして我が側近の一大事だと思ってね。」
精霊の中でも高位の精霊で人間と契約を行ったものによっては、精霊力が桁違いに高くなる。
こうしてエオルがウィリアムの部屋に突然現れたのも、彼の守護精霊である猫のオリーによって転移をしてきたからに他ならない。エオルと契約しているこのオリーは、ウィリアムの前、エオルの隣で丸まって寝ていたかと思いきや、ムクっと起き上がって主人と同じようにニヤリとウィリアムに顔を向けた。
『我が主人の頼みだからな。これくらいなんてことないさ。そんなことより、ルタの契約者殿は浮かない顔だな。想い人に会うのではなかったか?』
『我が主人は、この歳になって初めての恋とやらをして、どうしていいのか分からないんだろうさ。』
『ほう。いつも我が主人のように卒なくやっているようだが、苦手なこともあるのだな。あまりウダウダ考えていると、想い人に嫌われるのではないか?』
「オリーの言う通りだ。聞いている限り、物をはっきり言う令嬢のようだし、今の君じゃ昨年のルタのことを一年越しに怒られても何も言えないんじゃないか?」
『普段のウィルのほうがかっこいいぞ……』
「君たち、私が何も言わないのをいいことに言いたい放題だな。」




