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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
仮面舞踏会編

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5-1.仮面舞踏会



時は過ぎ、仮面舞踏会当日。

セリーナはこの日を迎えるまでの日々を思い返し静かに息を吐いた。


自分が仮面舞踏会に参加すると言った時の義母の喜びようは凄まじく、まさか泣いて喜ぶほどだとは夢にも思っていなかった。

その日のうちにゴルドー伯爵家の一部の使用人に対してのみ、父にバレないよう細心の注意を払って準備するように伝えられた。古参の使用人は、故伯爵夫人であるセリーナの母を慕っていた者が多いため、

「ついにお嬢様が……!」

と感極まっていたという。


大袈裟だ、と思いつつも、ここまで喜んでくれる使用人たちがいることに、セリーナも嬉しさを隠せなかった。


ただ、参加するにあたり障害もあった。言わずもがな、父のことである。

父からの参加を禁じられた手紙を受け取った日、本宅に戻った義母は、セリーナが了承したという嘘の返答を伝えると同時に、元々ドレスは自分が独断で作っていたもので驚かせようと楽しみにしていたのに今回のせいで彼女にバレてしまった、と不満を露わにした結果、父も渋い顔をしていたという。

今までの鬱憤もあり、そこから一週間は口を聞かなかったそうで、流石の父も根負けしたのか義母に謝罪をしてきたそうだ。

「これで少なからず当日まではあの人もちょっかいをかけてこないはずだから、気兼ねなく過ごせるわよ!」

と、笑いながら伝えてきた義母はとても楽しそうであった。



そんなこんなで、セリーナ本人よりもその周囲の人間たちの盛り上がりが冷めやらぬままに仮面舞踏会当日を迎えた。


唯一の障害である父は、邸内に何ら変わりがないと見てとると普段通り仕事で家を後にしたらしい。父が家を出たとほぼ同時に義母が別宅にやってきては開口一番に不満を漏らした。



「まったくいつまであんな態度続けるのかしら。しっっんじられないわ。こんな綺麗な娘がいるのにどうかしてるわ!」


「いいんですよ、お義母さま。リアーナが可愛くて仕方ないんでしょうから。事実、私もそうですし。」



リアーナとはセリーナの義妹のことである。義母と共にセリーナに会いに来ようとしたが、今日は邪魔をしないようにと言い含めてきたらしい。



「それとこれとは話が別よ。まあ今は置いておきましょう。今日は待ちに待った大事な日ですからね!」



義母は少女のようにウキウキしながら侍女が持ち込んだドレスを見やった。話には聞いていたが実物を見るのは初めてであるセリーナは、ドレスを一目見て息を呑んだ。



「どうかしら? 気に入ってくれるといいんだけど……」


「気にいらないわけがありません…とても、とっても素敵です。ありがとうございます……」



目の前のドレスに思わず感嘆の息を漏らした。義母がどれだけ力を注いでくれたかがわかる素晴らしいものだった。



「……初めて送るドレスには母親の色を添えるものだと、分かってはいるのだけど…。ナターシャに相談したら、私の瞳の色で喜ぶはずだと言ってくれてね。お言葉に甘えさせてもらったの。

それと、少しだけでいいからピンクの色も混ぜてほしいと言われたから、お花に混ぜてみたのよ。」



本来、娘がいる家庭では、精霊の間にて精霊と対面を果たすと社交界への第一歩としてお茶会などへ度々参加するようになる。その時、初めてのドレスは母親の瞳の色を含んだものを贈るのが通例となっている。

しかし、セリーナの場合は父親に許可されなかったためにお茶会への参加どころか、義母がドレスを贈ることすらかなっていなかった。

そして本来贈られているべき年齢より七年後の今日、セリーナは初めてのドレスを前に涙を浮かべていた。そのドレスには、義母の愛が詰まっていたからである。

セリーナの髪色、つまりセリーナの母と揃いの髪色に合わせた白地のドレス全体に青い花の刺繍が施されており、草木も程よく刺繍されているためか派手さはない。肩から肘にかけても柔らかいオーガンジーの生地で覆われているため品がよく、胸下からのラインは広がりすぎないように作られているためにバランスよく整っている。

そして、数カ所にピンクの花の刺繍が施されている。ほとんどが義母の瞳の色に合わせた青い花だが、ナターシャからの提案により、このドレスには実の母親の瞳の色も含まれていることとなった。

そして、セリーナの母親の瞳の色がこのドレスに含まれていることをこの場で知るのは、ナターシャとナタリア、セリーナのみである。


セリーナの母親も、精霊と契約をしていたために瞳の色が薄くピンク色をしていたのだが、セリーナ同様、そのことは生涯公とせず、あの父親にも教えていなかったという。

ナターシャはその事実を義母に伝えることなく、セリーナの初めてのドレスに彼女にとって二人の母の色を含ませることに成功したのである。



「セリーナの髪色に合わせてドレスは白地にしたのだけれど、どんなものでも合うから本当に迷ってしまったわ。

あなたにピッタリに仕上がったと自負しているの!

このドレスは青色の花だけど、あなたが今後どんな人と出会っても、その人の色を含んで変わっていけるわ。それって、とても素敵なことよ。」


「ええ、そうですね……本当にそう思います…。ありがとうございます、お義母さま…! 私に、こんな……」


「私に、だなんて。血は繋がっていないけど、あなたは私にとって娘であることは変わらないんだから!

遅くなってしまった上に、こんなことしかできなくて申し訳ないわ。本当に…ごめんなさいね。」


「こんなことだなんて、とんでもない!

私はお義母さまがいらっしゃらなければ、ドレスを贈られることもなかったでしょう。しかもこんな素敵なドレスだなんて……とても夢のようです。」


「気に入ってくれたなら嬉しいわ!!

あなたは綺麗だから、シルクの生地を合わせるのも絶対に似合うと思ったのだけれど、これからもっと綺麗になっていくでしょうから初めて贈るドレスは可愛らしさを意識してみたの。絶対に絶対に似合うわ!

直に見れないのが残念だけれど……遠くから見せてもらうわね!」



当初、仮面舞踏会に参加すると決まった時点で、義母は自分の侍女たちを手伝いに寄越すつもりだったらしい。しかし、父親に隠し通すことを最優先にしたため取りやめとなった。何よりも、セリーナの本当の瞳の色を知るのはゴルドー伯爵家では別邸に住まう本人を含めた三人だけである。

邸内では髪色は隠していないものの、化粧やらで素顔を見せざるをえない状況下では緻密なコントロールが必要な認識阻害の魔法を使用し続けるのは困難であった。

そういったセリーナ側の裏事情もあり、身支度はナターシャとナタリアが受け持つこととなり、仮面舞踏会には裏口から馬車に乗り込むことと決まっていた。



一日一話投稿を目標にしているのですが、ストックが減っておりまして……そして、こういう時に限って寒暖差に体がやられております(悲)


皆さまもお体ご自愛ください。



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