4-4.最後のチャンス
「ゼファル公爵令息様。」
今日は急ぎの執務はないから、とウィリアムもルークも王太子のエオルより帰宅するように言われていた。勿論、ウィリアムへの気遣いでもある。
馬車止めにてエオルたちを見送り、セリーナともわかれて、ウィリアムとルークそしてルイーザだけが残った時に急にルイーザがウィリアムへ声をかけた。
初めて声をかけられたと驚くウィリアムと同様に、ルイーザの横にいたルークも不思議そうな顔をしている。
「ユグネル子爵令嬢、なんだろうか。」
「……失礼なことと承知の上で、お伺いしたいことがあります。」
「……聞こう。」
「……セリーナ、いえ…ゴルドー伯爵令嬢が気になっていらっしゃるのでしょうか。」
「「え?」」
ついウィリアムとルークは同時に声が出た。ルークも自分の婚約者の勘のよさに驚愕している。
「気のせいであれば申し訳ございません。ただ、教室にいた際も気にかけてくださったようでしたし、今ここにくるまでもずっと見つめていらっしゃいましたよね?」
「あ、いや、それは……」
「いえ、いいんです。不躾なことを申し上げていることはわかっておりますので。
ただセリ…ゴルドー伯爵令嬢の友人として一つだけきちんと確認したいことがございまして。」
「あ…はい、なんでしょう?」
いつも天真爛漫で、婚約者のルーク以外の男は目に入りません!という印象でしかない令嬢の、思いの外鋭い観察眼に、困惑でついウィリアムも敬語になる。
「……まさかとは思いますが、自分に媚びてこない令嬢だから、と女避けのために婚約者に据え置こうとなんて考えていらっしゃいませんよね?」
「ぶふっ」
「ルーク! 笑い事じゃないわ!」
ルイーザのあまり見ない真剣な、寧ろ公爵令息に対して圧をかけるような表情と声色に、一体何を聞こうとしているのかと内心ヒヤヒヤしていたルークだが、まさか自分がさっきウィリアムに伝えたことと同じことを言うとは思わなかった。
既に昼休みにルークが念押ししているとも知らずに、ルイーザは至って真剣である。
「いや、ごめんごめん。馬鹿にしたとかじゃないんだよ。実は、同じようなことをさっき昼休みに僕からもウィルに伝えてるんだ。」
「……え? じゃあやっぱり気になってるってことです?」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか、ちゃんと説明するから。」
ウィリアムは怪訝そうな顔をしているルイーザに昼休みで二人を見かけた時の話に遡って説明した。
気になっていたことが恋愛感情ではなく、ましてや女避けにしようとなんて考えていないこと、先ほど見つめていたのは気になることがあったからでやましいことは決してないと伝えると、一旦納得してくれたようである。
「……彼女は、親戚のひいき目など抜きにしても、本当にいい子なんです。だから、もっと色んな人と関わって自分の良さを分かってもらいたいのに、積極的には人と関わろうとしません。
だから、純粋な気持ちで彼女と仲良くしてもらえるのは、従姉妹としても友人としても、とても嬉しいです。」
「ああ、先ほどルークに事情を聞いたよ。大変な境遇のようだね。ちょっと不思議な気を持ってるように感じて観察していただけなんだ。王太子殿下も僕も問題ないと認識したし、ガルクス公爵令嬢も隣にいて問題なさそうだったから、気にしないでいいよ。
確かに、不躾に令嬢を見すぎていたと思う、殿下にも注意されたんだ。申し訳ない。」
「いえ、利用しようとしていたわけではないのならいいんです。失礼いたしました。」
「いや、まさか二人に全く同じことを言われると思わなかったよ。良い意味で驚いた。」
「ルークは何て言ったの?」
「え? セリーナを利用したら許さねえぞって言っただけだよ。そんな物騒なことは言ってない。」
「(物理的な制裁じゃないだけで、縁を切るって程々に物騒だろ…)」
「なんだ、じゃあ私がお伺いするまでもなかったのね。もし今、認めた上で仲介を頼まれていたら、ナイクル侯爵令嬢と二人きりになれるように画策でもして既成事実を作らせ……」
「待て待てルイーザ、それはやめてあげてくれ。大丈夫だから。」
「……ユグネル子爵令嬢。」
「はい、なんでしょうか。」
「二人にとってゴルドー伯爵令嬢がとても大事な存在だというのは今日だけで十分伝わった。もし、もしも、今後彼女を好きになることがあるとしたら。それは彼女自身に惹かれたらであって、断じて女避けのような扱いのためではない。あなたにも約束する。」
「ええ、信じます。ルークが信頼している方ですもの。」
「…二人は、とてもお似合いだな。殿下が言うように、二人を見ているとこちらまで幸せな気持ちになるよ。」
「あら。それは最高の誉め言葉ですね! ありがとうございます!」
ルークとルイーザは見つめ合ってニコニコしている。そんな二人を見てウィリアムも微笑んだ。そして、この二人にここまで想われているセリーナのことを考えた。
" 先ほど少し話しただけだが、普通の令嬢だった。ガルクス公爵令嬢以外で、あそこまで普通に話せたのはいつぶりだろうか…。二人が大事に想うだけある。 "
この幼馴染三人の友情にあたたかい気持ちになったウィリアムは、二人に別れを告げ馬車に向かった。別れ際にルークが「頑張れ」と声をかけてきて、面と向かって誘うわけでもないのに段々と緊張してくる。
名も、顔も、何もかも知らぬ相手への仮面舞踏会への誘いの言葉を考えるのは、優秀だといわれるウィリアムでも最難関であった。
◼️余談◼️
これまでのウィリアムはすごくポンコツ感が否めませんが、女性との関わりを最大限に避けてきたのが理由です。
実際は、かなり優秀で、王位継承権を放棄していなければ王太子であるエオルと派閥ができていた可能性もあるほどです。それを双方理解していますが、ウィリアムは父親に似てトップに立つことへの執着がまるで皆無なので争いも起こりません。そんな性格を知っているからこそ、エオルも最大限の信頼をもっており、ウィリアムもそれにこたえています。
ルーク、ルイーザ、セリーナが固い友情で結ばれているのと同様に、エオルとウィリアムも固い信頼と友情で結ばれています。
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