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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
仮面舞踏会編

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1-1.日常



「お嬢様! またメイドの真似事をなさいましたね?!

あれほど私たちにお任せくださいと、何度も……」


「いいじゃない、その方が早く終わるんだもの。

私の将来のためにも万が一に備えないと!」


「またそんなことおっしゃって。

いくらなんでも旦那様だって……」


「じゃあナターシャ! 行ってくるわね!」


「行ってらっしゃいませ…ってお嬢様!!!」



ゴルドー伯爵家の敷地内。

本宅から少し離れた別宅に住むセリーナは、乳母のナターシャの小言を聞き流して外へ出た。

幼い頃に母が亡くなった後、乳母であったナターシャが自分の母代わりだ。そしてナターシャの娘であるナタリアは今では侍女として側にいてくれている。



「また母に怒られたんですか?

お掃除とかなんだとか、セリーナ様がしなくてよろしいんですよ。私たちの仕事ですから。」


「でも学院に行くまでの間に私も手伝えば、私がいない間にゆっくりできるじゃない。

いくら別宅で本宅より狭いといえ、二人だけでは大変でしょう。」


「そんなことをセリーナ様が気にしなくていいんですよ。母もまだ元気ですし。」



玄関で待っていたナタリアと共に馬車に向かう。

世間体を気にする父親のおかげで、学院への行き帰りは伯爵家の馬車を利用していた。

ナタリアはその行き帰りに帯同してくれている。

待っていた御者に声をかけると二人で馬車に乗り込んだ。



「お父様が何を考えてるかわからないけれど、ほぼ確実なのは私を継がせることはないってことよ。

ましてや政略結婚だとしてもお相手が貴族の方だとも限らないわ。」


「またそんなことおっしゃって。いくらなんでもそれは……」


「外ではないから敬語じゃなくていいわよリア。」


「……リーナ、いくらなんでも旦那様だってそこまで無碍にしないわよ……多分。」


「断言できないでしょう? あながちあり得るわよ。せめて十八歳まで待ってくれれば縁切りをしてナターシャとリアと一緒に平民になるんだけど。」



ナタリアは悲しそうな顔をして聞いているが、セリーナは至って平然としている。

母が死んでからというもの、父親には全くと言っていいほど期待をしていなかった。なぜか私を避けている父親が、貴族の娘という駒になる私をどう扱うか。答えは目に見えている。



「……旦那様もあんまりだわ。」


「いいのよ、おかげで別宅で悠々自適に暮らしているもの。お義母様や使用人たちは気にかけてくれるから、何かに困ることもないし。」


「でもリーナはこれほど優秀なのに、隠さなきゃいけないなんて!

そんなことしなければ将来だって選択肢が広がったじゃない。」


「まあそれは否定できないけど、変に目立つと悪い方に転がりそうな気がしたのよ。」


「………。」



父親と再婚した義母は、前妻の娘だからとセリーナを蔑むことは一度もなかった。

寧ろ実の父親よりも気にかけてくれている。

父親の機嫌が悪くなるため、不在時を見計らって交流を重ねているが、物心ついた頃には「お姉様」と呼んで慕ってくれる義妹は、私と会うために庭先に出てくることも多い。勿論、偶然を装っている上に、花を摘んで渡してくる可愛い娘に父親も強く注意できずに時が過ぎ、今に至る。

義妹の無邪気なフリした策士ぶりに驚愕したのはもう何年も前のことである。


それでも、本宅に住まう三人は仲良くやっているようなので安心だ。


つまるところ、父親以外とは大変良好な関係であるし、仮に義妹が爵位を継ぐことになっても私は反対しない。

私に爵位を継がせることはないだろう、と子供の頃から薄々察していた。

つまり、世間体を気にする父親からすれば、()()()()()()()()()()()()()()()


幼いながらに自分の立場を正しく理解できたことは幸運だった。

私の家庭教師は、お母様がまだ存命時に直々に頼んでいた方だったため、完全に私の味方だった。

父親には当たり障りない報告を行うだけにとどめ、実際は報告以上の知識などを私に授けてくれた恩師である。

私が学院に入学すると同時に職を辞し、今は隣国にいるようで時々便りが届く。


私の調()()は家の中だけでなく、外でも同じだ。

学院に入学した際のクラス分けの試験でも、程よい成績になるように気をつけた。万が一でも上のクラスになることを避けるためである。

つまり、現在進行形で、そこら辺にいる女生徒Aとなるように()()()()()()



『私と契約していることを公にするだけで全てが好転すると思うがな』



私の膝の上で丸くなっていた小さい精霊が、ムクっと顔をあげてこちらを見ていた。




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