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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
仮面舞踏会編

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4-2.最後のチャンス



ガルクス公爵令嬢はセリーナの手をそっと握り、同士を見るような目を向けた。



「以前、ナイクル侯爵令嬢に絡まれていた令嬢を見事な手腕で助けたでしょう。私、実はあの場に居合わせていたんですの。令嬢を庇いながらも自分にも矛先を向けさせない見事な話術!

ナイクル侯爵令嬢に同学年で相対することができるのはあなただけだわ、と私と同じ使命を帯びた方のように感じて妙に親近感を感じてしまって。あれは本当に素晴らしかったわ!」


「あ、ああ……あの時のことですね。ありがとうございます……。」



セリーナもあの時のことはよく覚えていた。

ナイクル侯爵令嬢が突っかかることのほとんどの理由がゼファル公爵令息に関することである。とある令嬢が、廊下でほんの少しゼファル公爵令息と会話をした場面をナイクル侯爵令嬢に目撃され、詰問されていたのである。後から分かったことだが、その令嬢は仲が良い婚約者もおり、自分が廊下にばら撒いてしまった紙を拾うのを手伝ってくれただけだったようだ。そのお礼をしただけだと最初から令嬢は弁解したが、ナイクル侯爵令嬢は「視界に入るのもおこがましい」と相変わらずとんでもない暴論を繰り広げた。爵位も子爵であった彼女はどうすることもできず、周りもとばっちりを受けるのを恐れて静観し、一部の者は教師を呼びにいったほどである。

そんな中、間に入っていったのがセリーナである。それまでの会話は全く知らない風を装い(すべて聞いていた)、ナイクル侯爵令嬢に忘れ物だと本を一冊手渡した。爵位は自分より低いものの、自分をたて、礼を尽くしたセリーナに、ナイクル侯爵令嬢もすました顔で本を受け取った。これは、と確認をすると、


「偶然図書館に行ったら司書の方が困っていたので代わりに届けると伝えました。元々カバーがされていたので本の中身までは存じませんが、司書の方がナイクル侯爵令嬢が借りた本だとおっしゃったので。」


疑問に思いながらもナイクル侯爵令嬢は本の最初のページを確認する。途端、顔を赤くしてセリーナに簡単に礼を言うと、そそくさとその場を去ったのである。

ナイクル侯爵令嬢が撃退された― ― ―否、その場から離れたことにより糾弾されていた令嬢は力なくその場に座り込んだ。セリーナや周りにいた友人が一斉に慰め、令嬢の婚約者も駆けつけ、セリーナはかなり感謝された。

何を隠そう、本にカバーをしたのは手渡した本人であるセリーナである。それは純粋に彼女の厚意で行ったことであるが、元々はセリーナも人目のつかないところで渡すつもりだった。

しかし、途中で令嬢が絡まれている場面を目撃し、状況を理解したセリーナはあえて間に入っていった。

ナイクル侯爵令嬢が借りていた本の題名は、

【淑女のためのマナー ~初期編~】

である。いわば、学院に入るまでには令嬢の誰もが手に取る一冊であり、年齢を鑑みてもできて当然の内容が書かれている。つまり、これを借りることはとても人には言えないことであった。

ナイクル侯爵令嬢が令嬢に絡んだ際、普段侍っている令嬢がいなかったために、後ろで様子を伺っていたガルクス公爵令嬢は本の内容がしっかり目に入ってしまった。司書は優しい人間ではあるが、そこまでの気遣いができる人間ではないことはガルクス公爵令嬢も知っており、一連の状況から、カバーをしたのもセリーナであるとすぐに判断できた。

その素晴らしい機転と双方への優しさに胸を打たれたのである。



「実は私、あの時ナイクル侯爵令嬢の後方で様子を見ていたの。いつ仲裁に入ろうかってね。そしたらあなたが来てあれを渡したら、彼女、その場で中を見たでしょう?

後ろにいたから私、見えちゃったのよ! 傑作だったわ、彼女のあんな顔なかなか……あ、失礼。そうだ、あのカバーをしたのもあなたよね?

素晴らしい気遣いと優しさと機転と、もうすべてに感激したのよ!!」


「あ、ありがとうございます…?」


「セリーナって呼んでもいいかしら? これから仲良くしてちょうだい。私のこともミファと。」


「勿論です、ありがとうございます。私は…恐れ多いので、このままガルク…」


「あら駄目よ、私だけ名前で呼んでいたら周りが何て思うか。」


「……では、ミファ様。」


「ええ! よろしくね! ああ、やっと話せて嬉しいわ。今から帰るのよね?

下には私たち、全員で! 一緒に行きましょう。いくら仕事ができても令嬢への気遣いが最低限できない殿方と二人きりになんてさせられないわ。」


「……申し訳ない。」


「い、いえ、ゼファル公爵令息様、気にしておりません。お気遣いいただきありがとうございました。ミファ様も、私のような者と一緒でなくても…」


「おや、君は昼間ユグネル子爵令嬢と一緒にいた令嬢だから、ゴルドー伯爵令嬢だね。」


「お、王太子殿下にご挨拶申し上げます。ゴルドー伯爵家のセリーナ・ゴルドーと申します。」



ガルクス公爵令嬢がセリーナの腕を組んで一緒に教室を出ようとしたところで、王太子と共にルークとルイーザが現れた。



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