3-5.恋焦がれ
「にしても、ここまで見つからないなんてことあるんだな。実は学院の生徒ではないんじゃないか?」
エオルの言葉に現実に引き戻されたウィリアムは、自分の方に顔を向けるエオルに首を振った。
「いや、学院の生徒であることは間違いない……。ルタが会ったのは学院の裏手の森だから、基本的に教師や生徒以外は入れないようになってるだろ。」
「でも昨年の話だろ? もう卒業している人って可能性は?
「手紙の内容からして、お互いがまだ在籍中だという前提で話が進んでいるんだ。かまをかけてみたこともあるんだよ、在学していないと知りえないような…図書館の配置換えのこととか。その日のうちに返事が来て、間違いを訂正されたよ。
だから二年か三年であることは間違いないんだ。」
「おお……さすが執念深いな。」
「ほっとけ。」
「昨年の仮面舞踏会の出欠簿も確認したんだろ?」
「すぐにしたさ。欠席していた生徒を男女関係なく全員確認した。でも、全員違うんだよ……精霊が見えてないんだ。」
「……まあ、ルークを見ていると忘れそうになるけど、精霊が見えてるのに見えないフリをするってどう考えても難しいもんな。」
ウィリアムは相手を探すべく、一番に確認したのは仮面舞踏会の欠席者をあたることだった。話しかけると面倒なことになるので、ほとんど遠目から相手の魔力量や精霊の力などを確認するだけだったが、ルタをあそこまで追い詰めたディカエから身を守る防御をはれる実力者がまずいなかったのである。
「でもウィルにも対処できないほどの認識阻害の魔法をかけてきたんだったら、普段も隠している可能性の方が高いし、それは遠目から確認するだけじゃ気付かないんじゃないか?」
「……実は、今回、仮面舞踏会で会わないかって誘ってみようかと思っているんだ。」
「「え!?!?」」
「今年で卒業だしさ…。両親は何も言わないが、流石に公爵家の人間が成人になって婚約者もいないのは少し問題だろ?」
「でも叔父上たちは何も言わないんだろ? 貴族では珍しく恋愛結婚だって聞いたし。」
「だから、学院に在籍しているうちに彼女を探したいんだ。婚約云々の前に、まずはちゃんと、面と向かって彼女と話したいんだ。」
これまで令嬢との接触を限りなく避けてきたウィリアムからは考えられない発言に、エオルもルークも顔のにやけを抑えられなかった。
「おい、人が真剣に話しているのになんだよ笑って。」
「いや、ごめんごめん。ウィルもついに動き出すかと感慨深くてね。応援はしているが、俺は今回彼女をエスコートしなければいけないから。一緒に探すのは難しいな。」
まだ公表前ではあるものの、エオルは婚約者に内定しているガルクス公爵令嬢と出席することが決まっていた。今回二人は、学院最後の年だからと公表前だが二人で出席することをお互いの両親から許しをもらっていた。
「まあ今回は俺につかないでいいように、学園長に頼んで従者を数人まぎれさせてほしいと頼むことにするよ。」
「いいのか、そんなことして……」
「まあいいだろ。俺が一人でいるより学園長も安心だろうし。」
「俺はルイーザと現地で落ち合うから、途中までは一緒に手伝うよ。」
「ああ……、ルークは令嬢に人気のアレに付き合うんだっけ。恋人探し?」
「まあね。正直すぐに気付けちゃうから罪悪感しかないけど、ルイーザが嬉しそうだからまあいいかなって。最後だしね。ウィルも、見つかるといいな。」
「ああ、ありがとう。とりあえず誘うところからだけど……」
「ウィリアム様!! 仮面舞踏会に出席なさるんですか!?」
急に甲高い声に驚く間もなく、ナイクル侯爵令嬢が近くの曲がり角から現れた。全員がため息をつきたいところを必死に我慢する中、令嬢はそんなことも全く気付かずに話を続ける。
「ウィリアム様からどなたかをお誘いになるって聞こえたんですが、本当ですの?
私、ウィリアム様と一緒に仮面舞踏会に行けたらどれほど素敵かと夢にまで見ておりますのに……」
「ナイクル侯爵令嬢、人の話を盗み聞きとはあまり好ましくないのでは?」
「あなたとは話していないわ。たかが伯爵家の次男で、せいぜい騎士なんて野蛮なものにしかなれない男が話しかけないでちょうだい。」
ルークはいつものことだとあまり気にしていないが、エオルとウィリアムは無表情になっている。ナイクル侯爵令嬢に侍っている令嬢たちも流石に顔を青くしている。
ナイクル侯爵令嬢は、確かに見かけは美しいが、蝶よ花よと育てられたからなのか、はたまたナイクル侯爵家の血筋なのか、端的に言って性格が大変よろしくなかった。父親であるナイクル侯爵も同じで、あまり貴族の中でも評判はよくない。
そんな彼女は自分の見かけに大層な自信を持っており、美しい自分の隣には美しい伴侶が必要だと、子供の頃からウィリアムを追いかけまわしていた。ウィリアムが嫌がっているのも、愛らしい私を前に恥ずかしがっているのね、と斜め上以上の解釈で全く気付いていない。恐ろしい思考の持ち主である。




