3-4.恋焦がれ ~回想~
『え……?』
「俺がルタを奴隷扱いしている? 恥知らず?
とんでもないことだ!!!」
『(おい、あのお嬢さん、綺麗な顔してすごいこと書いてんな……)』
「……腹立たしい、が…、実際俺が甘く見ていたのは事実かもしれない。この手紙の相手が言っている通りだ。ルタを……一人で行かせるべきではなかった。気配が弱まったとき、本当に肝が冷えたんだ。
……本当に、ルタを失っていたかもしれない。」
『……。』
「大事にしたいと思える相手が近くにいるときに大事にする……、そんな当たり前のことを俺は分かってなかったんだな。ディカエは可哀想に思うが、それよりも何よりも、ルタが近くにいてくれることが俺には幸せなことなんだ。
ルタ……悪かった。今回は引き止めるべきだった。」
『ウィル…いいんだ、俺もこんなことになるなんて思ってもいなかったんだ。謝ることじゃない。
ウィルの気持ちにこたえてやりたい一心で、守護精霊なのに君の側を離れたのも間違いだ。』
「……これからは、ディカエの時もそうだが…一緒にいよう。どんな時も。」
『ああ、約束しよう。私がウィルを守るよ。』
ウィルが涙目になりながら微笑んだ。そしてルタを撫でると、再度手紙を見つめる。
「……ルタ、この手紙の相手は…誰かわかるかい?
ルタを助けてもらったこともあるし、お礼がしたいんだ。」
『ああ……そのことなんだが…、秘密にしてくれと頼まれているんだ。』
「え? なぜ?」
『お相手の人間さんの意向で、精霊と契約していることを公にしていないそうだ。
精霊のことは分かるから、探そうと思えばわかると思う。だが、命を助けてもらった恩もあるし、ウィルに対しても秘密にすると精霊相手に誓ってきたから、彼らに関することを話すことはできない。』
「そうか……。」
『お礼も望んでいないようだったぞ。ウィルのことを精霊を酷使している嫌な人間だと勘違いしてたから、そんなことも考えていないようだった。
当たり前のように、身を挺して助けてくれたよ。』
「……ルタ、相手を言わなくていい。
ただ精霊が分かるなら、ルタからその精霊に手紙を届けてくれないか?」
『ええ……(精霊王にそんなこと…)』
「頼む、やってみるだけでも。その相手の精霊が拒否したら諦めるよ。」
『……わかったよ、頼むだけ頼んでみる。』
「ありがとう、今すぐ書くから!!」
『え? 今すぐ?』
そう言ってウィリアムは机に向かうと返事を書きだした。
封筒にも便箋にも認識阻害の魔法がかけられている。しかも高度なもので、ウィリアムですら相手を知るのは無理そうだった。
「すごいな、この手紙の相手は。筆跡から女性だろうと思うが、認識阻害の魔法が完璧だよ。僕でも歯が立たない。」
『ほお、そうなのか。』
「ルタが行ったのは学院の裏手の森だろう?
そこにいたってことは現在学院の生徒ってことだ、今時精霊と契約していることを公にしない人なんているんだな。聞けば聞くほど興味がわくよ!」
『…お、おう……。』
「令嬢は皆お洒落とかにしか興味がないんだと思っていたけど、今森にいたってことは仮面舞踏会もきっと欠席する令嬢だろう?
森で何してたんだ?」
『……知らないな。』
今まで見たことがない契約者のテンションの上がり方にルタも少々困惑していた。相手は精霊王の契約者と知ったらどうなるのだろうかと想像していたところで、早々にウィリアムが手紙を書き終えた。
「はい、ルタ。静養しなければいけないのは分かっているから、体力が戻ったらでいいんだ。頼めるかい?」
『……早いな、書くの。』
「こんなに相手のことを知りたいと思ったのは初めてなんだ!
相手の精霊が受け入れてくれるといいな……あ、因みに僕も認識阻害の魔法をかけておいた!」
『……そうか。ちょっと様子を見て渡してみるよ。』
「ありがとう!!!!」
ウィリアムはさっきまでの憂鬱さが嘘のように仮面舞踏会の支度を続けた。
ルタは精霊王に会いに行くのを恐れ多く感じながらも、自分の契約者の初めての感情を応援したいという気持ちが勝っていた。
" 我が契約者殿の、遅めの初恋かな…… "
―――後日、ルタがレンに手紙を渡し(頼み込み)、面倒臭そうにしながらもレンもセリーナに手紙を渡した。
驚きながらも受け取った手紙には、ルタを救ってくれたことと忠言の感謝、そしてこれから文通させてほしいという内容だった。
ルタを大事に思っていることが伝わる手紙にセリーナは安心し、手紙のやり取りを快諾する。
こうして、秘密の文通がはじまり、見ず知らずの相手にお互いが徐々に惹かれていったのである。




