3-3.恋焦がれ ~回想~
昨年の仮面舞踏会当日。
婚約者がいないのをいいことに群がってくる令嬢に辟易していたウィリアムは、欠席する気満々であった。しかし、将来仕える相手であり、幼馴染であり、親友…というより悪友に近いエオルから出席をすすめられた。つまるところ、命令である。
" また最近ディカエが増えているから、ルタと王都付近だけでも見回るつもりだったのに… "
ウィリアムは学院の休みの日など、精力的にディカエの捜索を行っていた。自分の叔母、つまり現王の妹がディカエの襲撃により亡くなったと幼い頃聞かされた時、父親の初めて見る悲し気な顔は子供の自分も鮮明に覚えている。
父親が、忙しい仕事の傍ら、ディカエについてひたすら調べていることはすぐに気付いた。自分も少しでも役に立ちたいと、自分の守護精霊であるルタに相談した。精霊であるルタにとっても、同族のそういった姿を見るのは心苦しいらしく、二人で密かに活動をはじめた。
実際にディカエを元に戻してあげられるのはルタしかいないが、自分とルタに結界をはったり、あまりに激しく攻撃してくるディカエには反撃をしたり――ただ致命的な怪我をさせないために緻密なコントロールが必要であったため、図らずも魔力操作はかなり上達した。学院に入る頃には魔法を扱う力が同級生たちの群を抜いていた。
エオルとルークには、「お前何か隠していることあるだろう?」と一発でバレた。
父親と母親のいいところを受け継いだ自分は、人に好かれやすい容姿をしているようで、子供の頃からやたら女の子に話しかけられた。その筆頭がナイクル侯爵令嬢だったが、貴族令嬢の嫌なところを凝縮したような嫌いな部類に入る人間だった。
両親もナイクル侯爵をよく思っていないようで、婚約の打診がきても全く意に介さず、寧ろ断固拒否してくれたことが幸いだった。自分たちのようにできれば好きになった相手と結婚してほしい、というのが両親の思いのようだが、ウィリアムに今まで全くその気配はなかった。
令嬢と恋愛ごっこをするよりも、ルタと共にディカエを捜索するほうが充実していたからである。
そうして仮面舞踏会の日も捜索に出るつもりだったがエオルの嫌がらせ…もといお誘いがあり、急遽自宅で支度をしていた。ルタはといえば、ちょっくら見回ってくると言って一人で出掛けていった。羨ましくありつつも特に何の憂慮もなく送り出した。
そんな中しばらくして、ふと一瞬ルタの気配が弱まった気がした。何かあったのかとルタの気配の元へ行こうとしたところで、間を置かずに気配が元に戻った。それでも心配で迎えに行くか迷っていたら、ふとルタが戻ってきた。体に複数の傷があるが、当の本人は普通にしている。
「ルタ!!!! 気配が弱まったから何かあったかと心配したよ。どうしたんだよ、その傷。」
「いやあ……、ディカエの気配がしたんで行ったら想像以上に多くて囲まれちまって。ちょっとやられたよ。」
「お前がやられるって相当だろう……、大丈夫だったのか? ディカエは?」
「まあ……、助けてもらったんだ。ディカエも全員戻ったから心配いらない。」
「ああ、よかった……。迎えに行くかちょうど迷っていたところだったんだ。」
安心して自室のソファに力なく座ると、ルタが戻った時に口に咥えていた物、今はソファの前のテーブルに置いてあるそれが目に入った。
「…ルタ、それは? ……手紙?」
「……助けてもらったんだ。ある精霊と、その契約者に。それでその人間から……お前に渡せって言われたんだ。」
「謝礼を求められたとかか? ルタを助けてくれたことに変わりはないからいくらでも払うが…随分……」
「いやいや待て、そういうんじゃないんだ。一切そんな見返りは求められてないよ。ただ……、うん、まあ、見るのが早い。ほら。」
ルタは手紙をウィリアムの手元に置いた。
煮え切らないルタの反応を不思議に思いながらも手紙を開けた。
【ルタの契約者さんへ】と丁寧な字で書かれたそれは、筆跡から女性のようだ。中には便箋が一枚、これまた綺麗な字で書かれているそれは、ウィリアムへの忠言、もとい非難であった。
【どこの誰かは存じませんが、大事な友人であろうあなたの精霊を一人でディカエに立ち向かわせるなんて、どういうつもりなんでしょう。
もう少しでルタはあなたの側にはいられなくなっていたかもしれません。あなたを慕うルタに、どうしてそんなことができるのか理解に苦しみます。
ルタはあなたの守護精霊であって奴隷ではありません。そんな当たり前のことをいつもやっているのだとしたら、なんて恥知らずな方なんでしょう。
契約を交わしているのですから、悪い方ではないのでしょうが、大事にしたいと思える相手が近くにいるときに大事にしないと、後悔しますよ。
ルタはあなたの元に帰れる程度に他の精霊さんに回復してもらっただけですから、まだ本調子ではありませんので、必ず、静養させるようにしてください。】
ウィリアムは手紙を読み終わると、そっとたたんだ。
絶対に本人が言っていた以上のことが書いてあるだろうと予想していたルタは心配そうに手紙とウィリアムを交互に見つめている。
少したつとウィリアムは目を閉じたまま肩を震わせはじめた。
" そんなに怒るほど酷いことが書いてあったのか!? 何て書いたんだよあのお嬢さん! "
ルタがウィリアムをなだめようとしたとき、ウィリアムは声を上げて笑い出した。怒りで錯乱しているのかと思ったがそうではないようだ。目に涙をためて笑っている契約者を見てルタは不思議に思いつつ声をかけた。
『そんな面白いことが書いてあったのかい?』
「ハハハハハ!……ふう、その逆だよ。実に腹立たしいことが書いてあった!」




