3-1.恋焦がれ
「ルーク、いつまで見つめているんだい。」
婚約者の後ろ姿を眺めるルークに、王太子であるエオルが声をかける。
「ああ、悪い。戻ろうか。」
「将来の側近夫婦が仲が良いようでとても嬉しいよ……おっと、ウィル、どうかした?」
子供の頃から交流してきたとあって、将来の主従関係といえども、この三人には深い絆が存在していた。
他者がいないところではこうして王族であるエオルに対しても、そしてエオル自身も彼らに対して気安く接していた。
そして既に歩き出していたエオルとルークが振り返ると、ウィリアムは先ほどルイーザ達を見かけた場所から動かずじっと見つめていた。
「おい、ルイーザは駄目だぞ。」
「いや、違うんだ。隣の……、彼女も幼馴染?」
「ああ、セリーナ? そうだよ、俺たちの領地が近くてね。あの二人は従姉妹なんだ。僕らが婚約できたのも、彼女のおかげ。」
「ゴルドー伯爵令嬢か。……彼女がどうかしたのかい?」
「……いや、何でもない。」
「普段令嬢に見向きもしないくせに何言ってるんだ。まさか、手紙の相手が彼女かもって?」
「セリーナは精霊と契約していないよ。よく隣に猫みたいな精霊がいるけど、見えてる素振りが今まで一度もない。」
「いや、なんとなく気になっただけだ。気にしないでくれ。」
ルークの婚約者であるユグネル子爵令嬢のことはウィリアムもよく知っていた。媚びてくる令嬢がほとんどの中で、こちらに全く見向きもしない、ルーク一筋の令嬢だ。先ほどもエオルや自分がいることに一瞬気付いていなかった。話をしたこともあるが、至って普通の令嬢で礼を欠いたこともない、ただ単に清々しいほどに自分たちへの興味がない。
そして隣にいたゴルドー伯爵令嬢も同じだ。幼馴染と従姉妹に頼めば、自分たちに近付くことは容易いだろうがそんな素振りも一切ない。今の今まで会話すらしたこともなく、ユグネル子爵令嬢と同じでこちらとは明確に一線を引いているようにみえる。
それがとてもウィリアムには興味深かった。
「最近はナイクル侯爵令嬢のおかげでウィルも大変だからね。ああやって普通の対応をしてもらうと興味が引かれるのも理解できるよ。」
「ガルクス公爵令嬢のおかげで多少は避けられているが、彼女自身も俺たちもそろそろ限界だ…」
「もうこの際、手紙の彼女は諦めてああいうゴルドー伯爵令嬢のような子と婚約したらどう?
彼女、まだ婚約者いないだろう?」
「は?」
「どう、ルーク? 幼馴染の彼女とウィル、相性は?」
「エオル、いくらなんでもそんな適当に……」
「考えるだけならいいじゃないか。」
「……セリーナは…、難しいかもしれません。」
ルークを見ると珍しく険しい顔をしていた。
エオルもあわよくばウィルに婚約者ができてしまえば、と思わなくもなかったが、思っていたのとは違う反応に二人は顔を見合わせた。
もしや彼女には恋仲の相手がいて失言をしたかと焦っていると、険しい顔の中に悲しみが滲んでいるのを見てとった。
「ウィルのことを嫌っているのかい?」
「え?(話したこともないのに……)」
「いや……、家庭が。少々複雑でして。」
「ああ……ゴルドー伯爵は再婚していたね。義母からいじめられているとか?」
「逆です。実の父親から存在ごと無視されているといったほうが正しいです。」
「それはまた……」
エオルもウィリアムも何とも言えない気持ちになった。
ゴルドー伯爵令嬢は目立つ存在ではないが、悪い噂も聞かない至って普通の令嬢だ。学院での成績も中盤くらい。高慢さもなく、貴族の位に関係なく交友関係を持っている。あのナイクル侯爵令嬢に絡まれていた下位貴族の令嬢を庇ったと三学年にまで話が回ってきたくらいだ。しかも、穏便に話を済ませたという。
どんな手腕か逆に聞きたいくらいだが、目撃していたガルクス公爵令嬢に聞いても肝心なところははぐらかされた。なんでも「女性だけの秘密ですわ。」と楽しそうに微笑んでいたが、辛口の彼女がそういうのだから後腐れなく見事に解決したのだろう。
伯爵家であることから、高位貴族の次男など婿入りを希望している者からも引く手数多ではないかと思うが、なぜか婚約をしていない。
「長子であるゴルドー伯爵令嬢が未だ婚約者が決まっていないというのは知っていたが、彼女の父親が慎重に相手を見極めているのかと思っていたよ。なんだかそういうわけではなさそうだね。」
「ええ、違います。まあ吟味しているのは事実でしょうけど、彼女にとっていい相手を選ぶ可能性は低いというのが彼らの状況を知っている者の中での認識です。
彼女本人もそう思っています。自分に家督を譲る気もないだろう、と。」
「……ゴルドー伯爵はなぜ、そこまで?」
「わからないんですよ。伯爵も誰にも話さないんです。現伯爵夫人が間を取り持とうとした時も半狂乱になったそうでして……」
「「うわあ……」」
「……本人から聞いた話ではありませんので私の想像でしかありませんが、おそらく彼女は学院の試験もあえてAクラスにならないように力を抑えていると思います。ああして目立たないようにしているのも、全て父親にいい意味でも悪い意味でも目に留まらないようにするためです。」




