2-6.手紙の想い人
「ちょっとセリーナ、聞いてる!?」
ルイーザの呼びかけに現実に引き戻されたセリーナは、会ったこともない手紙の相手と知り合った過去を思い返して微笑んだ。
「第一印象は、最悪だったんだけどね……」
「マイナススタートからの挽回なんて素晴らしいわよね、うん、きっと良い人よ。
次のお手紙はいつなの? セリーナの番?」
「ちょっと待って落ち着いて、まだ誘うなんて私一言も……」
「うだうだ考えてないで仮面舞踏会なら顔も隠れているしいいじゃない。
まずはその人の雰囲気だけでも。仕草とかそういうのでわかることもあるわよ。」
「それは、そうだけど……」
「……気が進まないのかもしれないけど、真剣に考えてみて。応援してるのよ。」
「そうね……、ありがとうルイーザ。」
ルイーザは静かに微笑むと、再度ルークとの仮面舞踏会の話を再開した。キャッキャッと楽しそうなルイーザの話に耳を傾けていると、予鈴が鳴った。片付けて教室に戻る途中、二階の渡り廊下を歩いているルークを見かけたルイーザは手を振った。
気付いたルークも手を振り返すと、一緒にいる人物たちもこちらを見つめていた。
セリーナは既に一礼していたが、ルークしか見えていないルイーザも慌てて一礼する。
「びっくりした、あの方たちもいらっしゃるの見えなかったわ。」
「そんなこと言うの多分あなたくらいよ……」
ルークと一緒にいた人物は、何を隠そうこの国の王太子殿下と、その側近候補である公爵家嫡男であった。かくいうルークも、王太子殿下の護衛騎士候補として、同じクラスである二人とほぼ行動を共にしている。
つまり彼らは、学院のカースト最上位のモテ軍団である。
「お二人とも、候補とは言われているけど、ほぼ決まったようなものよね。
ルーク兄様はあなたがいるから頭のネジが外れてるような女の子しか近付いてこないだろうし、王太子殿下は発表前とはいえガルクス公爵令嬢でほぼ確定でしょう?
公爵家なのになぜ婚約者がいらっしゃらないのか不思議だわ。」
「そうよねえ……、ルークが言うには、ゼファル公爵令息様には想い人がいらっしゃるらしいわよ。」
「え!? そうなの!?」
「うん、あまり詳しいことは知らないけれど。でも、ナイクル公爵令嬢が、それは私のことよ!って息巻いて他の女の子たちをけん制しているみたい。何が本当かわからないわね。」
「まあ……大変ね。見目がいいのも、能力が高いのも。」
学院に在籍中でありながら、騎士団の演習にも参加しているルークは、同世代の中でトップを争う実力である。なぜかルークの実家は当初から王家と縁があり、王太子と子供の頃から交流があったことで、護衛騎士になることはほぼ確実と言われている。
伯爵家の次男ではあるが、男らしさのある容姿に、王家からも覚えめでたい令息がモテないわけはない。その相手が子爵家であることに不満を持つ者が出始めたところで、「相思相愛の二人を引き裂くなんてことをする悪魔のような人間がこの国にいるわけがないよねえ」と呟いた王太子の一言で批判は一気に静まった。
それでもまだルイーザにちょっかいをかける令嬢もいるが、ルイーザの精霊がルークに密告し、ルークから令嬢に"注意を促す"という抜群の連携により事なきを得ている。
そしてゼファル公爵家は、現王弟が臣籍降下した由緒ある家であり、その嫡男であるウィリアム・ゼファルは王太子の従兄弟にして、全ての能力に秀でていた。
王弟自身も、その息子であるウィリアムも、王位には全く興味がないために早々に継承権を放棄しているが、それでも優れた容姿をもち、有能な公爵家嫡男という優良物件をを誰も放っておかなかった。
「ルーク兄様も忙しくなるでしょうから、仮面舞踏会に参加できることになってよかったわね。」
「ええ、本当に!!!!
あなたもよセリーナ、仮面舞踏会に……」
「わかった、それはもうわかった、ちゃんと考えるわ。」
「んもう……!」
二人がそうして教室に向かう姿を、ルークたち一行は静かに見つめていた。




