プロローグ
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六歳のとき。お母様が亡くなった。
どうしてこんなに早く……
精霊に見捨てられたのでは……
お葬式の間に聞こえてくる参列者の会話は、当時子供だった私にはよく分かっていなかった。
両親は良くも悪くも典型的な政略結婚だったが、お互いを尊重し合っていたように思う。ただ、父はお母様が亡くなって半年後、新しい家族を迎え入れた。この国では一年間は喪に服すのが通例だが、当時のことを思い返しても世間体を気にする父にしては珍しい決断だと思った。
義母は男爵家の令嬢で、父と学生時代の同級生らしい。
血が繋がった唯一の家族であった父が私にほぼ無関心だったことで、私は孤立してもおかしくない状況であったが、幸いにも義母はとても優しい人だった。
父と義母が結婚してしばらくすると義母の妊娠が発覚し、無事に元気な女の子が産まれた。純粋に妹ができた嬉しさに顔を見に行こうとしても父に邪魔をされていたが、「私の娘のお姉さんになってくれる?」と義母がわざわざ赤子を抱いて部屋までやってきてくれた。
義母の優しさはとても嬉しかったが、父は相変わらず私への当たりが強かった。そしてある時、
「あの女の娘はいずれ我が家から出す」
と執事へ伝えているのを聞いてしまった。執事も驚き絶句していたが、父の中ではこの家を継ぐのは産まれたばかりの妹で確定しているようであった。
子供ながらに色々悟った私は、義母がやってきて約一年後、敷地内の別宅に一人で住む許可を父からもぎ取った。(世間体を気にする父は大いに渋ったが)
乳母であるナターシャと、その娘であるナタリアの三人で別宅に移り住んでからは、とても楽しい日々を過ごした。
家庭教師からの授業も別宅で受けていたため、本宅に行くのは父がいない時だけ。少しだけでも、と義母が私たちを呼んで一緒に食事をしたり、小さい妹と遊んだりして過ごした。
何故か家族の中で父が一番私を疎んでおり、義母も一度疑問を呈したようだが、何も分からないどころか怒鳴られてしまったようで、それ以来無闇に口を出さないようであった。
母をみすみす殺した父のことを、私も受け入れることができなかったから正直都合がよかった。
そうして、母が亡くなった悲しみを抱えつつも、穏やかに過ごして十歳になったとき。初めて父が別宅にやってきた。
教会に連れていくためである。
人間には必ず精霊が守護についている。所謂【守護精霊】といわれているもので、産まれた時から生涯通して側にいるといわれている。
十歳になると、教会の精霊の間で自分の守護精霊と初めて会うことができる。そこで自分の精霊に名付けをすることができれば、より深く繋がることができるのだが、それができるのは選ばれた者のみ。
ほとんどの者は視認できるだけで、会話することはできない。
十歳で精霊の間に行くことは義務であり、平民から貴族まで全ての人間が対象である。
存在を無視されていても、それだけは父も放棄できなかった。
精霊の間には、自分一人で入室する。
その中の出来事は、たとえ家族であっても聞き出すことは禁じられており、語るか語らないかは全て本人の自由である。
精霊の間は、とても不思議な場所だった。
大きくはない部屋だが、草木が青々と生え、窓はないのにとても明るい空間だった。
セリーナが足を踏み入れた途端、やわらかい風が吹いた。
不思議に思って辺りを見回していると、一瞬眩しくなった。驚いて目を閉じたセリーナが、気配を感じ静かに前を向くとそこには白い虎がセリーナを見つめていた。
「ようやく会えた。我が愛しい子。」
ーーこれが、レンとの出会いであった。




