冒険376.『ほしいのは命のみ』
『ほしいのは命のみ』
文章の下地に『8』の文字の入った旗が、はためいている。
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
橘なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。ロバートと婚約してから、姓を戻している。
久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
久保田嘉三・・・誠の叔父。警視庁管理官。交渉案件があれば「交渉人」の仕事もする。EITO初代指揮官。
愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。『片づけ隊』班長をしている。
橋爪警部補・・・『片づけ隊』を手伝っている。
西部警部補・・・『片づけ隊』を手伝っている。
斉藤長一朗理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
夏目房之助警視正・・・EITO東京本部副司令官。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
渡伸也一曹・・・空自からのEITO出向。GPSほか自衛隊のシステム担当。
中島[増田]はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。見合いしたMAITOの中島と事実婚をしていたが結婚した。
馬場[金森]和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
高木[日向]さやか一佐・・・空自からのEITO出向。
高崎[馬越]友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。
安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
愛川静音・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。
青山[江南]美由紀・・・、元警視庁警察犬チーム班長。警部補。警視庁からEITOに出向。
伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。
葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。
越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。
下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。
高坂[飯星]満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。
仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。
七尾伶子・・・警視庁からEITO出向の巡査部長。
大空真由美二等空尉・・・空自からのEITO出向。
高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。EITOガーディアンズ。
青山たかし・・・元丸髷署刑事。EITOに就職。EITOガーディアンズ。
馬場力3等空佐・・・空自からのEITO出向。EITOガーディアンズ。
井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。EITOガーディアンズ。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁警部。警視庁テロ対策室からのEITO出向。EITOガーディアンズ。
柊安江・・・元マラソンランナー、元やり投げ選手。
藤井康子・・・伝子のマンションの仕切り隣の住人。モールに料理教室を出している。EITO準隊員。
大文字綾子・・・伝子の母。介護士。
山並郁夫・・・元傭兵。伝子と共に誘拐されたことを機に、伝子の崇拝者として、『闇サイトハンター』としてEITOに情報を流している。
山村美佐男・・・伝子と高遠が原稿を収めている、みゆき出版社の編集長。
井関智子・・・五郎の妹。鑑識課員。
井関民恵・・・権蔵の妻。元女性警察官。女性初の鑑識課課長になる筈だったが、周囲の反対が多く断念権蔵と結婚した。
井関[新町]あかり・・・元丸髷署巡査。元EITO隊員。
中津敬一警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。
中津健二・・・中津興信所所長。中津警部の弟。実は、元巡査部長。
中津[西園寺]公子・・・中津健二の妻。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。元は所員の1人だった為、調査に参加することもある。
泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
泊[根津]あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。同僚の泊と結婚した。
高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。EITO東京本部の馬越と結婚した。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
午前2時。Base Bookにパラ・リヴァイアサンから、正式?に挑戦状が届いた。
『ほしいのは命のみ』
文章の下地に『8』の文字の入った旗が、はためいている。
午前9時。EITO東京本部。会議室。
「草薙。間違い無く、パラ・リヴァイアサンか?」
「はい。宛先も差出人というか投稿者も不明ですが。アカウント名は既に削除されています。それに、アナグラムですね。」
大空が言う前に、金森が言った。「何だと?って思わせたいのか。挑発だな。」
増田がクスクスと笑っている。
「いない相手と喧嘩してもつまらん。闘いの時に思い知らせてやれ。」と、なぎさは言った。
そこへ、高遠が自宅からシステムにアクセス、マルチディスプレイに出てきた。
「僕が解く前に、ひかる君と青木君から『解』を言って来ましたよ。まあ、初めてアナグラムを作ったのなら、上出来かな。『のみの市』のことなら、母の日に東京国際フォーラムで『ベストフリーマーケット』があります。」
「おにいさま。会場は広いの?」「いや。そんなには。日比谷公園の方が闘い易いでしょう。」高遠は普通に答えたが、柊が不思議な顔をしているので、結城が耳打ちして教えた。
なぎさは、伝子のことをおねえさまと呼び、おねえさまの夫だからと、高遠をおにいさまと呼ぶ。
上官に当たるが、なぎさは変な人だと柊は思った。
「大文字。また行ってみたら、案内看板があるんじゃないか?」と、筒井が気を利かせて言った。
「そうだな、しかし、母の日なら後2日あるが・・・どんな奇襲かシミュレーションした方が良さそうだな。」
大文字の言葉に、「念の為に、国際フォーラムには開園をずらして貰おう。それと、日比谷公園は立ち入り禁止がいいな。」と、理事官は言った。
「奇襲か。脱水症状も構わず『兵隊』を危険な目にあわせる奴だからなあ。皇居も近いし、警察の警護も強化して貰いましょう。」
5月11日。午前10時10分前。東京国際フォーラム。『ベストフリーマーケット』。
入口付近に行くと、エマージェンシーガールズのユニフォームを着たなぎさに主催の1人が駆け寄って来た。写真とメッセージの手紙を持っている。
「エマージェンシーガールズの方ですよね。一応、制服は見たことあるけど、コスプレじゃないですよね。」
なぎさは、それには応えず、「ここが襲われるというタレコミがあったんだが、あんたが持っている手紙が場所変更を物語っているな。」と、言った。
「済みません、つい。」と、男は手紙を差し出した。
なぎさは、さっと、読んで、その男に手紙を見せた。
「どうやら、場所の変更があったらしい。後は警察の方に任せて我々は現場に移動します。ああ、もし、我々の仲間が遅れてきたら、日比谷公園に行ったとお伝え願えますか?」
「承知しました。」
なぎさは、イヤリングを触って短く本部に信号を送った。
イヤリングの音声は、近くに待機しているオスプレイ経由で本部に届いているが、念の為、会話による伝達は避ける。これは、伝子とあつことなぎさのトップ3で決めたことだ。
なぎさと先発チームは、国際フォーラムをゆっくりと離れ、やがて走った。
「おねえさま。午前10時半。日比谷公園。芝庭広場。あつこ達は?」
「既に向かっている。」と、伝子の声がインカムとイヤリングの両方から聞こえた。
午前10時半。日比谷公園。芝庭広場。
「あつこ。敵の集団は?」「まだ。どこかで揃うのを監視しているんだわ。」
突然、けたたましい音と共に三輪バイクが方々から現れた。ざっと50台以上だ。
前輪が2重になっているバイク、後輪が2重になっているバイク、前輪が2重になっていて、後部座席のあるバイク。いずれの者も『学生服』の上に防弾チョッキを身に着けている。ヘルメットの中にゴーグルも身に着けている。
他の装備の意味は分からないが、ゴーグルは『胡椒弾』避けの積もりだろう。
随分と有名になったものだ。
胡椒弾とは、台所調味料の胡椒やガーリック等を捏ねた丸薬で、鼻と目を刺激して、一種花粉症のような症状で身動き出来なくなる。ピンポイントで浴びせる為のペッパーガンなる銃もある。
しかし、今日の敵は、足を地面に着ける積もりはないらしい。
「おねえさまの『手下』もやるわね。まあ、短期間に調達すれば目立つけど。」
午前10時半。四越デパート。
綾子と藤井が地下の食料品売り場から出て来ると、「大文字綾子さん、落とし物ですよ。」と声をかける男がいた。
「古いナンパね。もてないわよ、それ。」
男が振り返ると、どこからかメダルが飛んできた。
男がたじろいでいると、「泥棒!泥棒よー!誰かー、110番してー!」と叫ぶオンナがいた。
「警察です。緊急ですので現行犯逮捕です。」と言って、新里警視が男に手錠をかけた。
「な、何を・・・。」「大丈夫よ、たっぷり可愛がってあげるから。」と、新里は男の耳元で囁いた。
少し離れて様子を見ていた男を、泊と高崎が尾行した。
午前11時。日比谷公園。芝庭広場。
新しく七尾を加えた弓矢隊がマセラティから懸命にバイクの男達に矢を放つ。
だが、なかなか当たらない。
エマージェンシーガールズは、走り回るが、面白がっているようにバイクは逃げる。
そこへ、筒井率いるEITOガーディアンズがホバーバイクで駆けつけた。
ホバーバイクとは、民間会社が開発した『宙に浮くバイク』で、EITOが採用、戦闘や運搬に使っている。ホバーバイクのEITOガーディアンズは水流ガンとフリーズガンで応戦した。
水流ガンは、飛び出すとグミ状の液になる水だ。フリーズガンは、液体窒素を液体化した水で、着水したモノは凍っていく。
午前11時。日比谷公園。雲形池付近。
護送車の中で、複数のドローンを操る渡。
「渡。中継ポイント近くで点滅したドローンの信号は、どんどん送ってくれ。」
「了解。たまにオンモに出たら、こき使われるなあ。」「何か言った?」
「天気がもつかな、って言ったんだよ。三時くらいから雨降り予報だ。国際フォーラムの方は中止だろうが・・・。」
「大丈夫だよ、渡さん。それまでには片付くさ。」と、渡のインカムに伝子の声が響いた。
午前11時半。草地広場。
EITOガーディアンズとエマージェンシーガールズは3輪バイクを追って移動した。
その時、桜門を抜け、テニスコート側からハングライダーが飛んできた。
金森、日向、馬越、伊知地、財前、大空の6人の空自からの出向のEITO隊員だ。
トーイングハングライダーを空自の協力で準備出来たのは、闇サイトハンターからの情報で三輪バイクの大量購入が怪しいことが分かったので、なぎさが空自に協力を願い出たのだ。
空自と久保田管理官には、なぎさはマスコミ対策を願い出てある。
6人のEITO隊員は、ペイントボール(ペイント弾)を落して行った。
これも、なぎさのアイディアだ。
ペイントボールとは、アメリカ合衆国発祥のスポーツ。 本競技では参加者がなどの圧縮ガスを利用した銃でペイントボールと呼ばれる小石サイズの、野菜の色素を基にして作られた無毒性塗料入りの弾丸を対戦相手に向けて発射し勝敗を競うスポーツの一形態である。
胡椒弾は、対策が取られているだろうから、急遽採用した。
逃げ惑う3輪バイクの若者には、予想外の攻撃だった。
エマージェンシーガールズは、バイクのタイヤは狙わず、フルフェイスヘルメットではないので、運転者の首筋をシューター、メダルカッターやブーメランで狙った。
シューターとは、うろこ形の手裏剣で、先端に痺れ薬が塗ってある。
メダルカッターは、メダル型の飛び道具で、メダルの周りにプロペラ状の刃が付いており、これにも先端にしびれ薬が塗ってある。
弓矢隊の方も、首筋や脇を狙った。
午後0時半。雲形池付近。
護送車の中に、草薙の声が響く。
「アンバサダーが午後1時以降と判断した。上空のジョーンズに合図を送って引き継ぐから、お前は待避してくれ。」「了解。」
午後0時半。日比谷公会堂付近。
2人乗り3輪バイクだけが、いつの間にか移動していた。
そして、公会堂から出てきた人物と合流した。
午後1時。
3輪バイクから降りた人物が、ある装置のスイッチを押した。
付近は静まり返っている。
どこからか、2本の槍が飛んできた。槍は、3輪バイクのすぐ近くに刺さった。
槍を投げた者が2人、本人が「飛んで」来た。
エマージェンシーガールズの柊と稲森だった。
2人は、あっという間に3人を倒し、指手錠をした。
「確保!!」と、稲森は、司令室の伝子にインカムで通信を送った。
「スイッチが故障したんじゃない。中継装置を麻痺させたんだよ。一気にね。」
稲森は、ニッと笑った。
午後1時。草地広場。
「ゴールだ!!」と、なぎさはインカムで合図すると、ハングライダー隊が合流したエマージェンシーガールズは、一気に3輪バイクを襲い、制圧した。
司令室からの伝子の声がマセラティ車内に流れた。
「七尾。マセラティーの外部スピーカーをオンにしてくれ。ダッシュボードのタブレットから操作できる。」
「了解。」
七尾がダッシュボードのタブレットを起動させると、フロントのライト近くにスピーカーが現れた。
「パラ・リヴァイアサンに闇サイトで雇われた諸君。今から爆発物除去作業を行う。逮捕連行される前に、よく見ておけ。お前達が私達に勝とうが負けようが、お前達は爆発物で殺される予定だった。就職に困っている者もいあるだろう。バイト代小遣いが足りない者もいるだろう。だが、前金と称して渡された金は、生命保険より遙かに低い『はした金』だ。今日は、何の日だ?母の日だ。母親が生きていれば、先に旅だって母親を悲しませることになる。白いカーネーションの母親なら、冥土で歓迎してくれるか?お前達の氏素性を調べて事情を聞くのは警察の仕事だ。我々は、無駄死にさせたくないから、リモートスイッチを無効にしたよ。罪を償うのは、これからのお前達の仕事だ。」
間もなく、日比谷公会堂近くの、2人乗り3輪バイクから爆発物が発見され、井関が解体した。
あつこが調べた3輪バイクからも爆発物が発見され、あつこは解体した。
片づけ隊と共に、鑑識がやってきた。
草地広場から移動した井関は、妹に引き継ぎをした。
そして、上空を見上げて、オスプレイのジョーンズに合図をした。
『電波干渉装置』が無ければ、防犯カメラに擬した通信中継装置で、3輪バイクの何台か、あるいは全部が爆破されていた。
敵の予定では、その爆風でエマージェンシーガールズの死傷者が出る筈だったのだろう。
午後2時半。EITO東京本部。司令室。
「中津さん、母を守ってくれてありがとう。興信所の皆さんも。どうぞ引き揚げて下さい。」
「了解。」朗らかな、中津健二所長の声が司令室に響いた。
「原田。もうひと踏ん張りだ。位置は分かっている。敵のカメラを回収してきてくれ。」
「了解。あのー、言いそびれているんですけど、いい名前付けてくれてありがとうございます。伊登子は、大分感謝しています。」
「そうか。映像解析は急がなくていいぞ。」
伝子は、苦笑いをした。名付け親には違いないが、かなり適当だからである。それを知っているのは、夏目、斉藤理事官、草薙だけだった。
「大文字君。また、山並に助けられたな。」と夏目が言うと、「今度会ったら、頭を撫でてやりますよ、手下の。あ。子分か。」と伝子は言った。
河野と草薙がしきりに笑いを堪えている。
午後6時。伝子のマンション。
「とんだ、母の日だったわ。私、また狙われるの?」
「もう狙われませんよ、お義母さん。護衛が付いているのが分かってて誘拐する馬鹿はいませんよ。まあ、政府要人は、いつでも狙われますけど、それも仕事の内です。編集長の差し入れの小豆を使った赤飯食べて、機嫌を直して下さいね。」と高遠が言うと、「編集長。赤飯おにぎり作りますから、持って帰ってください。」と藤井が横から言った。
物部との電話を終えた伝子は、「国際フォーラムの方は、結局何事もなく終ったそうだ。警邏が足りないって言うから、泣きついて正解だったな。」と高遠に報告した。
「何人応援に行ったの?DD.」「物部、福本、山城、南原、福本の叔父さん、高峰、高島。まあ、日曜だし。依田も来たがったけど、今回はいい、って断った。」
「あら。高島君も参加したの?私も頭撫でてあげよう。」と編集長は言った。
「まさか、アナグラムとダブルミーニングだとはね。」と、高遠が言うと、「ああ。案外計算高くしたたか。人を『道具』として見ている。幾ら兵隊が日本人だからって、残酷だ。下品な作戦だった。日比谷公会堂近くで捕まえた『枝』は、スパイがいたのか?と言っていたから、愛宕が『気づいていなかったのか』と言ってやったら、かなり動揺したと言っていた。」と、伝子は応えた。
「ま、大文字くぅんの、したたかさには勝てないわよね。」
編集長の言葉に3人が頷いたので、伝子は狼狽えた。
―完―
「大文字伝子が行く337」に相当します。