第5話 賠償
「改めてよろしくお願いいたします、カジュ様。アリシア=サーストンです」
「幻影のカジュ様にお受けしてもらえて、本当に心強いです。ローラ=サーストンです。私たち二人とも、受付嬢になる前はBランク探索者をしておりました。今回は同行させて頂きますが、決して足手まといにはなりません」
アリシアさんとローラさんから改めて挨拶される。
俺たちはギルドに併設されている酒場にいた。
俺たちの前には、それぞれ冷えたエール。
アリシアさんとローラさんからのおごりだとか。
半ば強引に自分達のことに巻き込んでしまった、せめてものお詫びらしい。
しかし、さすがに若い女性陣からおごってもらう訳にはいかないので、隙をみてこっそり払っておこうと俺は決意する。
「アリシアさんたちも探索者だったんですね。それとローラさんも、出来れば俺の呼び名は──」
「ファントム様とお呼びしてもっ!?」
俺の言葉に食いぎみに被せてくるローラさん。
「いやいや。出来れば普通にカジュと……」
「まぁ──その、わかりました……カジュ──」
くねくねと体をくねらせながら、囁くように俺の名を口にするローラさん。
長い金髪が波打つように動き、光を反射してキラキラしている。
「あー。まあ、それで。そう、今回の指名依頼なんですが、詳細を──」
俺がそう言いかけた時だった。
俺たちの座っている場所に向かってくる三人の人影。
そのうちの二人はギルド所属の警備員だろう。
その二人に挟まれるようにして、見たことのある顔の美少女風の人物が歩いてくる。
「ああ、元戦姫シエラレーゼ様。何か私たちが専任として担当するSランク探索者、幻影のカジュ様にご用でしょうか?」
俺と元戦姫シエラレーゼの間に立ちふさがるようにしてアリシアさんが、元戦姫シエラレーゼへ問いかける。
その間に、ローラさんはすっと俺の後ろに隠れるようにして、俺の片方の肩に両手で掴まっていた。
受付で詰められていたので、ローラさんは苦手意識があるのだろう。俺はそっとローラさんを安心させようと頷きかけると、庇うように体勢を調整する。
「元戦姫シエラレーゼ殿」
同行していた警備員の方が何かを促している。
「──この度は、幻影のカジュの手柄を横取りし、成果を──」
「幻影のカジュ様、ですよね?」
何かを話し始めた元戦姫シエラレーゼをアリシアさんが遮る。
一瞬、きっと視線を尖らせるも、直ぐに顔を伏せて、言い直し始める元戦姫シエラレーゼ。
「──幻影のカジュ様の手柄を横取りし、成果を騙り、ご迷惑をおかけしました。誠に、申し訳ございません。こちら、倍額の賠償のお金となりますので、お受け取りください」
そういって、じゃらりと皮袋を差し出してくる元戦姫シエラレーゼ。
俺の前に立ちふさがっていたアリシアさんがそこで横に退くと、視線で受けとるように促してくる。
確かにリュカリエーレさんもそんなことをいっていたので、探索者ギルドからこうするように元戦姫シエラレーゼは言われたのだろう。
「──お受け取り、致します」
できるだけ近づかないように気をつけながら、俺は腕をいっぱいに伸ばしてその皮袋を受けとる。
ずっしりと重たい。
俺が皮袋を受けとると、元戦姫シエラレーゼは、警備員二人に挟まれ、うつむいたまま立ち去っていくのだった。