第39話 リムリ
「おいで、リムリ」
あられもない姿のナーゼさんの元から、足早に退出した俺は、リムリと名前をつけたクロヒョウサイズの黒猫を連れて、探索者ギルドを出るところだった。
建物を出たところで、ちょうど帰って来ていたアリシアさんたちと合流する。
ずいぶんと早い帰還だが、どうやら同行者に移動速度上昇(範囲)のスキル持ちの職員がいたらしい。
ただ、そのせいなのか、二人ともお疲れの様子だ。
──速度上昇系のスキルはたしか、スキル中に移動した分、感じる疲労は、移動量に普通に比例するんだったよな……
そんなアリシアさんだったが、俺の連れたリムリを見た瞬間、その表情が変わる。
頬は紅潮し、リムリを見つめる瞳孔は大きく開き、荒い鼻息まで聞こえてくる気がする。
それは普段冷静なアリシアさんが見せたことの無い、顔だった。
「カジュさまっ。そちらがっ?」
「あ、うん……。テイムしたらこうなって……」
「まぁっ──なんて、優美な──」
自身の頬に手をあてがい、リムリを見つめて熱い吐息をもらすアリシアさん。
赤ちゃん猫の時からその予兆はあったのだが、成猫になったリムリ相手に見せるアリシアさんの様子をみるに、それは一目瞭然だった。
「──ねえ、アリシアさんて、猫好きなの」
「そうなんです、カジュ」
そっと俺がローラさんに尋ねると、当然のように肯定の返事が帰ってくる。
「カジュ様っ」
「は、はい」
「撫でてもよろしいでしょうか?」
「──どうぞ」
じとっとした視線をリムリから感じる。
俺はそんなリムリに内心、頭を下げる。とはいえ、アリシアさんからのお願いを断る勇気など、当然、俺にはない。
そんな俺を情けないマスターだと眺めながらも、テイムスキルの強制力には逆らうことなく、大人しくアリシアさんに撫でられるリムリ。
そのリムリだったが、テイムスキルを習得し、彼女をテイムしたことで表示されるスキルの情報から、わかったことがある。
リムリは、やはり魔族では無いようなのだ。
魔族によって元戦姫さんの体に取り付けられていた二つの器具。
そのうちの片方、頭部につけられていた物は、魔族の闇と同じようなものを撒き散らし、途中でハールーガスの炎で破壊されている。
たぶん、それが良かったのだろう。
それ自体がどういう機能なのかまでは定かではないのだが、リムリが魔族として誕生するには、その二つの器具が最後まで稼働していた必要があったように思えるのだ。
そんなわけで、いま絶賛アリシアさんによって撫でくりまわされているリムリは、魔族ではない、何か中途半端な存在として誕生したようだったのだ。




