第33話 炎と救済
叫びながらバタバタと四肢を振り回し始める元戦姫シエラレーゼ。
その見開かれた瞳と、目が合う。
こんな状態なのに、元戦姫シエラレーゼの瞳には理知的な光が宿っているのが見てとれた。
ただ、俺でも下手に近づけなかった。
元戦姫シエラレーゼに取りつけられた器具のうち、頭部についている方から、魔族の闇と同質の物が周囲へと振り撒かれ始めたのだ。
さっきみたいに、それを拳で貫くことはできそうだ。とはいえ、おおもとの器具を破壊しようとすると元戦姫シエラレーゼの頭部が無事に済む保証はなかった。
なので、俺は大人しくアリシアさんたちのいる地点まで後退する。
「──それで、あれって何が起きてると思う?」
ついでに、アリシアさんたち三人に向かって尋ねてみる。
「あの、カジュ。たぶんなのですが──」
ローラさんが言いにくそうに告げる。
そういえば、ローラさんは若いのに以外と博識だったなと思いながら続きを待つ。
「あの、新たな魔族が生まれようとしているんじゃないかな、と思います」
「えっと、それは元戦姫さんが魔族に変わるってこと。魔族って、人からなるもんなの?」
「……その、直接あの人が魔族になるわけではなくて、ですね。その、誕生すると言いますか。……そんな感じです」
そちらを見るのも辛そうに、元戦姫シエラレーゼの方を指差しながら告げるローラさん。
その間にも、元戦姫シエラレーゼは獣のような叫び声を上げ続けている。
「それは、──止められないの?」
「そこまでは、ちょっとわからないです、アリシアねえ様。でも、たぶん無理に止めようとしても少なくともあの人は死んでしまうのではないかと──」
アリシアさんとローラさんの会話を遮るように声を上げたのは、ハールーガスだった。
「どちらにしろ、魔族は敵だぜ、姉御たち。それを生み出そうとしてるんだ。あの戦姫も、故意にか否かに関わらず、敵ってことじゃねえか」
「元、戦姫です。ハールーガス様」
「へいへい」
肩をすくめてアリシアに答え、炎を呼び出すハールーガス。
明らかに、元戦姫シエラレーゼごと焼き殺す気満々だ。
確かに仲間をレッサードラゴンたちに殺されたハールーガスからすれば、その手引きをしたと思える魔族は、仇に間違いないだろう。
そんなときだった。
あふれでた魔族の闇の切れ間から、悶え苦しんでいる元戦姫シエラレーゼの姿が見える。その知性の輝きが見える瞳は、ハールーガスの炎を見ているようだ。
そして、その雄叫びを上げ続けているシエラレーゼの唇が、なぜか俺の目を引く。
というのも、まるで、同じフレーズを何度も何度も繰り返すように、唇が動いていたのだ。
三文字の言葉、だろうか。
「──ふ、その願い、この爆炎のハールーガスが叶えてやるぜ」
俺と同じものを、ハールーガスも見たのだろう。
ハールーガスの生み出した炎が一気に膨張すると、それは魔族の闇を縫うようにして、放たれる。
そしてその中心にいるシエラレーゼの姿が、炎に包まれるのだった。




