第31話 魔族
「よっとっ!」
掛け声と共に、俺は足元に渾身の一撃を叩き込む。
拳に伝わってくるのは不思議な感触だった。岩とも生き物とも違う、何か。柔らかなスポンジに、水よりも重たい液体がつまってるような、そんな質感だ。
俺の拳は無事にその、魔族の闇とやらを突き抜ける。
訪れる一瞬の静寂。
次の瞬間だった。
まるで魔族の闇が沸騰するかのように沸々と波打ち始めたかと思うと、まるで存在するのが耐えきれなくなったかのように四散して、その先から蒸発するように消えていってしまう。
ぽっかりと、山肌に穴があき、そこに隠されていた空間が一気に露出する。
隠されていた空間は不思議な見た目だった。
まるで何かの部屋や、祭壇ような雰囲気だ。家具なのか、はたまた祭具なのかよくわからないものが絶妙に規則正しく配置されている。
それを見ていると、その場を設えたものがかなりの神経質な性格なのがなんとなく伝わってくる。
関わるのが面倒に感じるぐらいには、細かそうだ。
そんな祭壇ちっくな場所に、二つの人影が見える。
そしてその片方にはなんとなく見覚えがあった。
「あ、元戦姫の、なんとかさん……」
それは元戦姫シエラレーゼだった。
俺が見た感じだと、どうやら意識は無さそうだ。それどころか、その頭部と腹部にはなにやら気味の悪い器具が取り付けられている。
特にその腹部に取りついた器具は、現在進行形で、どくどくと脈打って作動しているようだ。
俺のダンジョンで鍛えた危機察知能力が告げていた。
あれは、相当、厄介だ。
そしてその横に立っている、おどおどとしている感じの黒い影が、こちらをみて、焦ったように叫ぶ。
「そ、そんな馬鹿なっ。わたしの闇が一撃で吹き飛ばされたっ!? あり得ない、あり得ない、あり得ない──エンシェントドラゴンのブレスだって、軽くいなす強度なんだぞ……そうか、お前が、カジュ、かっ」
なんだか俺の名前を知っているらしい。
俺は本能的にそれが敵だとわかる。
自然と、全力の一撃を放てるように体が準備を始めていた。
「アニキっ、そいつは魔族です! 間違いねえっ、搦め手を使われる前にはやく──」
「ああ、やっぱり早く倒した方がいいよね」
俺はハールーガスの指摘に、得心する。
やはり目の前の黒いものは敵のようだ。
なので、ハールーガスの言葉を最後まで聞かずに、心赴くままに、全力でその敵へとおどりかかる。
「いや、にげ……」
ハールーガスの言いかけた言葉は俺の振るった拳が空気を切り裂く轟音で完全にかき消されて、俺まで届くことはなかった。




