第3話 処遇と提案
「戦姫シエラレーゼの、討伐申請における不正の防止が出来なかったこと、探索者ギルドを代表して正式に謝罪する。誠に申し訳なかった」
そういって深々と頭を下げてくる見た目幼女に、俺はなんと答えるべきか迷う。いま、俺たちがいるのは探索者ギルドのギルドマスターの部屋だった。
そして現在進行形で、頭を下げ続けている幼女こそが、探索者ギルドのギルドマスターで、エルフ種のリュカリエーレさんだ。
「──リュカリエーレさん、頭をあげてください。探索者ギルドからの正式な謝罪、受け入れます」
「ありがとう、幻影のカジュ殿。貴殿の寛大な言葉、痛み入る」
ゆっくりと顔をあげながら、真剣な表情で告げるリュカリエーレさんからは、しっかりと謝意が伝わってきていた。それにしても言葉使いが仰々しい。
さすが長き時を生きる種族だ。
「いえそんな──」
そんな見た目幼女に若干気圧されてしまうのも致し方ないことだろう。こちらは趣味と運動で探索者をやっている程度の半分素人みたいなものなのだ。
そんな俺にリュカリエーレさんは続けて戦姫の処遇について語り始める。
「戦姫シエラレーゼへの処分としては、過去に遡っての、不正討伐申請分の実績の取り消し。その分の報酬の回収と、その倍額の罰則金を幻影のカジュ殿へお支払い。そしてFランクへの降格と、二つ名への元、の付与だ。今より彼女は未来永劫、元戦姫シエラレーゼと呼ばれることとなる」
「──あー、それはそれは」
ただでさえ恥ずかしい戦姫という彼女の二つ名が、まさかこれ以上恥ずかしくなるとは思ってもみなかった。
そんな二つ名なら、いっそ無い方がよっぽどましだろう。
──個人的にはこれが一番きつそうだ。名前を呼ばれる度に本人と周囲に、今回のことを思い起こさせるし、知らない人はその元戦姫の由来を知りたがるだろうしな。
元戦姫シエラレーゼへの処遇のえぐさに、目の前の見た目幼女が、だてに年を取ってないのだと、改めて認識する。
「どうやら、ご満足いただける処遇のようで」
「え、はい。もちろん」
にっこりと笑った笑顔は幼女のものなのに、思わず背筋に冷たいものが走る。
俺が失礼なことを考えていたのも筒抜けなのだろう。
──おっそろし……これは、下手には逆らえないな……
「そしてカジュ殿」
「は、はあ」
「是非とも、Sランクへの昇級を受けてもらえないだろうか」
「い、いやー。それは……」
ランクの昇級はアリシアさんとローラさんから可能性を聞いていたが、まさか最高ランクのSランクとは思わなかった。
本心では辞退したい。なんだか色々めんどくさそうだから。
「カジュ殿の討伐記録と、踏破したダンジョンの数からすれば、Sランクへの昇級の資格は十分」
「はぁ」
「そしてSランクになると、様々な優遇がある」
「な、なるほど?」
「その一つが、ギルド併設の素材倉庫の無制限の利用権限に、素材換金時の税の優遇」
「な、なんとっ」
つまりは、素材をいくらでも溜め込み放題と言うこと。これまでのように、討伐しても持ちきれない素材を、ダンジョンに放置することをしなくても良くなるのだ。
──くっ、この見た目幼女、人のツボを心得てやがるっ!
「そして、専任担当者による、事務処理の完全代行だ」
その最後の言葉は、的確に俺の心を撃ち抜いてきた。
「わかりました。Sランク、なりましょう」
俺は気がつけばそんな言葉とともに、片手を差し出していた。
穏やかな幼女の笑みでそんな俺の手を握るリュカリエーレさん。
──まったく、恐ろしい相手だ
俺たちは固く、握手を交わしたのだった。