第23話 暫定
「見てくだせえっ、アニキ。これが俺の爆炎ですぜ」
全身を包帯で巻いた上から鎧をつけた爆炎のハールーガス。胸筋をアピールするようなポーズをした彼の正面では炎が渦巻き、立ちふさがっていたモンスターたちが激しく燃え盛っていた。
「カジュ様、これはいったい? 爆炎のハールーガスをパーティーに入れられたのですか?」
「いやいやっ。勝手についてきただけで。決して仲間に入れるのを受け入れてないから」
リルリーマの街を出て少し行ったところで、アリシアさんから呆れたような声で問われ、俺は必死に否定する。
「すっかり、なつかれた感じですね、カジュ」
「そんな、ローラさんまで……」
「ふふ」
実際にその場にいたローラさんからも、特にフォローが入ることもなく、なぜか楽しそうに笑っているだけ。
こういうとき、自分の人望のなさがいやになる。
「どうでした、アニキ! なかなかの威力でしょう。絶対アニキの役にたちますぜ」
そんな話をしているところに、胸筋アピールポーズを解いてどたどたと近寄ってくる全身包帯男、もとい、爆炎のハールーガス。
その厳つい顔面にも容赦なく包帯が巻かれているせいで、なんだかキモカワマスコットに見えなくもない。
ただ、とにかくでかい。
暑苦しすぎて、俺は一歩二歩と下がりながら返事をする。
「あー、ハールーガスさん」
「アニキ、そんな他人行儀な! 是非呼び捨てでおねげえしますぜ。俺とアニキの仲でしょう」
「はぁ。それで、本当についてくるんですか?」
「もちろんですぜ。露払いはお任せくだせぇ」
俺と爆炎のハールーガスの要領を得ない会話に、アリシアさんが我慢できなくなってきたのだろう。
ビシッとハールーガスさんを指差してアリシアさんが告げる。
「Sランク探索者、爆炎のハールーガス様」
「おう、なんでえ?」
「もし、このパーティーに入られるんでしたら、私の方が先輩となりますが?」
「うーん。確かにな。よし、アリシアの姉御と呼ばせてもらおう」
「よろしいでしょう。それで、ハールーガス様はカジュ様からパーティー入りを断られたらどうされるのですか?」
なんだか不穏な会話の流れ。しかし笑顔で丁寧に話すアリシアさんを遮る勇気は到底俺にはなかった。
ただ、内心でツッコミを入れるのみ。
──いや、俺は、すでに断ったんだけど……
「まあ、俺も仲間を三人も殺られたんでなー。トカゲどもに落とし前をつけねぇといけないんで。ここで尻尾を巻いて逃げる訳にはいかねぇんですぜ、姉御」
──特攻するってこと? いや、確かに爆炎は凄そうなだし、生命力も大したものだけど、レッサードラゴンの岩の投げ落としであれだけダメージを受けている訳でしょ。ハールーガスさんじゃ、死ぬでしょ……
「それは探索者としては正しい選択とは言えますか?」
──お、アリシアさん、良いこという。そうだよね、やっぱり、リスクとリターンをしっかり把握してこその探索者だよね。
「ふ、探索者としての正しさなんて、男が廃る前じゃかすむってもんよ」
どや顔で告げる、爆炎のハールーガス。
これは本当に一人で特攻しそうだった。
さすがにそれは俺も目覚めが悪い。なので仕方なく告げる。
「わかったわかった。でも、この北のドラゴン禍が解決するまでの暫定だ。それならついてきてもいい」
「おお、アニキ! ありがてぇ! 一生ついて行きやすぜ!」
「だから……」
はしゃぐ爆炎のハールーガス。
それを微笑ましく笑って見ているローラさん。
なぜか呆れたような視線を向けてくるアリシアさんに囲まれて、俺は天を仰ぐのだった。




