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第2話 二つ名

「長くて、辛い戦いだった──」

「ご苦労様でした。カジュ様」

「アリシアさんも、ありがとう。素晴らしかった」


 大量のモンスター素材の換金とそれに伴う税務処理に果敢に挑んだ俺は、辛くも勝利を納めたところだった。


 受付嬢のアリシアさんも、応援として召集した職員たちを華麗に指揮しつつ、書類に苦しむ俺に的確なフォローを行う、献身的な受付業務をこなしてくれた。


 その手腕はまさに、見事の一言。


 参集した職員たちも、無事にもとの業務に戻った様子だった。

 そんなわけで、受付にいまいるのは、俺とアリシアさんだけ。


 そうやって、ともに大量の事務仕事を乗り越えた俺たちはもう、戦友と言っても過言ではないだろう。


 まあ、そんなことは俺が勝手に一方的にそう思っているだけなので、もちろん、口には出さない。


 ──三十路間近のおじさんが、冗談でもそんなことを言ったら、確実にキモがられるだけだからな。うんうん。


 素材の納品による、細かな査定金額が出るのには量も量だけに時間がかかると言われているので、あとは帰るだけかと俺が受付を離れようとしたときだった。


 もう一人の受付嬢、アリシアさんの妹のローラさんが近づいて話しかけてきた。


「ファントム様。あの、ギルドマスターがお呼びなのですが、このあと少しだけ、お時間よろしいでしょうか?」

「あー、それはかまわないですけど。そのファントムとかいうのはちょっと……そもそも、その噂自体、俺は初耳なので」

「ご納品頂いた素材と、その際にご申請頂いた討伐の記録から、ファントム様がファントム様なのはもう、確実なのです」


 ローラさんがそこで、ぐっと身を乗り出しながら告げる。


 ──近い近いって……ちょっと、アリシアさん、これっ!


 俺は心の戦友(とも)たる、アリシアさんに視線で助けを求める。あなたの妹さんをなんとかしてと。


「──ローラ、それぐらいに。カジュ様がお困りですよ」

「アリシアねえ様──も、申し訳ありませんでした。ファントム様──」


 さすがに色々と触れそうな距離にまで近づいていたことに、アリシアさんに言われて気がついたのだろう。ローラさんも謝りながら少しだけ俺から離れてくれる。


 それでもまだ十分気になるぐらいに近いが。

 そんな俺たちをみて、アリシアさんまで謝ってくる。


「カジュ様、私からも謝罪を。妹は、ファントム様の噂に、その……夢中だったんです。次々に踏破されていくダンジョンに、謎の探索者の存在。いつも目を輝かせてその事を話していて……」


 そういってローラさんのことを見つめるアリシアさんの瞳。それはとても優しげで、いいお姉さんなのだと言うことが、俺でもわかるほどだった。


「──そうですか。でもやはり、ローラさんも俺のことはカジュと。どうにも、ファントムと呼ばれるのは違和感があるので」

「わかりました、カジュ様。──そうだ! それでしたら、幻影のカジュ様というのは、いかがでしょう? カジュ様にぴったりの二つ名です」


 いきなり変なことを言い出すローラさん。


「え、いやー。俺はFランクなので、二つ名とかはまだ──」

「ローラ」


 再びアリシアさんが話って入って来てくれる。


 ──お、アリシアさん、ローラさんを止めてくれるのか。そうだよな。二つ名とか恥ずかしいだけだし。さすが、俺の心の戦友。


「それは良い二つ名ですね」

「ですよね、アリシアねえ様」


 まさかの肯定だった。

 俺はあわてて反論する。なんだかなし崩しになりそうな嫌な予感がする。


「い、いや、アリシアさんまで! だいたい、たしか二つ名はBランク以上がって慣例あったはずじゃ──」

「カジュ様のこれまでのダンジョン踏破のご活躍は、明らかにBランク以上への昇級になるはずです。ギルドマスターのこれからのお話のうち、一つはきっとそれでしょう」


 まさかのアリシアさんの言葉に思わず反論の言葉につまる。

 どうやら俺はFランクのまま、幻影とか言う戦姫にも劣らないぐらい恥ずかしい二つ名を手にしてしまったようだ。


「さあ、幻影のカジュ様。話していて遅くなってしまい申し訳ありません。ギルドマスターがお待ちのようなので、私も一緒にご案内致しますね」


 そういって心の戦友か怪しくなってきたアリシアさんとローラさんの二人がかりで、俺はギルドマスターのところへと連れていかれるのだった。


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