第17話 華麗にスルー
「なんでも、ドラゴンを倒して一気にSランクになったんだってな! たしか二つ名は、減塩だったか?」
「あー、たぶん人違いですね。俺は、そんなに意識高くないので」
俺もアリシアさんを真似て笑顔で、近寄ってきた爆炎のハールーガスに返事をしてみる。
そんな俺に、当のアリシアさんが驚いたような顔を向けてくる。
ローラさんは逆に俺たちのやりとりに対して、とても興味深そうだ。目がキラキラしている。
「そうなんかー?」
「ええ、見ての通り、こんな細腕ですよ?」
俺は言われたことをそのまま返してみる。
「がはは、確かにな! おう、邪魔したなっ」
爆食ならぬ爆炎は、そのまま大声で、騒がしく笑いながら自分達が占有しているテーブルに戻っていく。
「──おい、全然違ったぞ」「──まじかー。確かにドラゴンを倒したにしては弱そうだよな」「──おかしいな。ドラゴン禍の依頼、減塩も受けたって聞いたんだが──」
戻ってきた爆炎が他の彼のパーティーメンバーと話しているのが、漏れ聞こえてくる。あんなに声が大きくて探索者としてやっていけるのか心配になるほどだ。
「爆食じゃくて、爆音だな、あれ」
「ブフッ!」
ローラさんが再び噴き出している。
一方、アリシアさんは怖い顔だ。
「カジュ様っ」
「なに、アリシアさん」
「いいんですか?」
「何が? 俺はドラゴンもどきを倒した時の素材買取の後にSランクになってるし、二つ名は、減塩なんて健康志向じゃないからね」
「そうですけどっ! そうじゃなくてっ」
「──ありがとう、俺のために怒ってくれてるんだ、アリシアさん」
俺は爆炎に見せていた作り物ではない、本当の笑顔をアリシアさんに向ける。
「どうして、ですか? 元戦姫シエラレーゼの時は──」
「あれはローラさんが困ってたからね」
「──はぁ。わかりました。カジュ様は、そういうお方なんですね」
「うーん。その言い方は、どういう人間と思われたのか、聞くのが怖いね。まあ、どちらにしろ、どうやらあの様子だと、あちらさんたちも、俺たちと同じ依頼を受けたみたいだよね」
「そうですね。Sランクの方々には皆、今回の件で指名依頼が探索者ギルドより出ています」
「なら、自ずと『わかる』と思うよ。俺が探索で鍛えた危機察知能力だと、大したことないから、あれ。どちらかと言うと、元戦姫さんの方が厄介だし」
「えっ、それは、どういう──」
驚いた顔になるアリシアさん。ちょうどそこに、人数分の冷えたエールが届く。
列車で散々飲んでいたはずなのに、アリシアさんもローラさんも自然と視線はそちらに釘付けだ。
俺はそんな二人の様子に苦笑しながら、二人と乾杯を交わす。
明日から本格的に指名依頼に取りかかることになる。だから今夜は英気を養うため、俺は美味しいお酒と美味しい食事を楽しむのだった。




