第12話 興奮と冗談と
「か、カジュ様! なんですか、先ほどの戦いかたはっ!?」
「あ、アリシアさん。えっと、戦いかたって?」
俺が爪先で泥と化した地面をそっと探って魔石を探していると、アリシアさんとローラさんがやってくる。
「──カジュが、素手でドラゴンの口を掴んだと思ったら、激しい閃光と爆発が起きたように見えました」
ローラさんが落ち着いた様子でどう見えたのかを教えてくれる。
「うん、そうだね。ドラゴンブレスを撃とうとしてたから、発射の直前で口を押さえたら逆流して、爆発した感じ?」
「か、感じって……なんで、そんなことが出来るんですかっ!?」
アリシアさんは珍しく興奮しているのか、顔が真っ赤だ。
普段は冷静そうなアリシアさんなのに、意外と興奮しやすいのかもしれない。
顔を真っ赤にして詰めよってくるアリシアさん。ギャップもあって、俺は思わず顔を背けて、視線が泳いでしまう。
「なんで……と言われても……。ああ、もちろん、初級身体強化のスキルはとったから、それで、かな。ほら、探索者は基本全員とるやつです」
それは生活魔術と同じく、探索者であれば誰もがとる基本のスキルだった。
その名の通り、体が強くなるスキルだ。
「──それが本当だとしても、むちゃくちゃ過ぎます……」
「ああ。さすが、ファントム様です」
「ローラさん、その呼び名はちょっと──」
「すいません、カジュ。つい」
舌をちょっと出して片目をつぶって謝ってくる、ローラさん。そのあざと可愛さに、俺はそれ以上、何も言えなくなる。
というか、このやり取りも何度目かなので、たぶんローラさんなりの冗談、みたいなものなのだろう。
「か、カジュ様は、武器は!? 武器は使われないんですか!?」
そんな朗らかな俺とローラさんのやり取りを遮るように、全然、落ち着きを取り戻してないアリシアさんが再び尋ねてくる。
「さ、さすがに近いって、アリシアさんっ! ──武器は、ほら、俺は趣味と運動で探索者やってたからさ。あんまり経費かけたくなくて。買ってない。税金の申請の時に、経費計上するのも、めんどくさそうだし。だから基本的にダンジョンで拾ったものしか俺は使わないんだけど、まだ──」
そう言いながら、俺は着ている認識阻害機能つきのフードローブをつまんでみせる。
その動作も、下手に腕を動かすと触れてしまいそうだから、慎重にだ。
ただ、俺の意図した通り、それを見ようとして少しだけ、アリシアさんが離れてくれたので、俺はこっそりほっと息をつく。
「──そ、そんな理由で、カジュ様は素手で戦っているんですか……」
「まあ、だいたいそんな理由だね」
ポカンと口を開いたアリシアさんも、なかなか可愛らしかった。
その顔を見てて、俺はふと気がつく。
「あ、でも。もしかしてアリシアさんが選任でついてくれたから、税務処理の時の経費計上もやってくれたり、する?」
俺は期待を込めてきいてみる。
「──この流れで言われるのは少し不本意ですが、もちろんやらせて頂きます。いえ、どうかお願いいたします。是非やらせてください!」
力強く引き受けてくれるアリシアさんが相変わらず頼もしい。
それに、少しだけ、落ち着いてくれたようだ。まだ少し変だが。
──何だが、今日は二人の意外な面を見れる日だな……て、あれ、この感触って……
地面をまさぐっていた俺の足の爪先に当たる、固いもの。
俺は屈むと、気をつけて指先で血と泥にまみれたそれを拾い上げる。生活魔術で水を出して洗っていく。
「──アリシアさん、これ、ドラゴンの魔石です。早速ですが、討伐完了の処理をお願いいたしますね」
「──ふう。わかりました。お任せください」
ようやくそこで完全にいつものアリシアさんに戻ってくれる。
焦っているアリシアさんも可愛かったが、やはりいつもの冷静な風のアリシアさんの方が、俺は見ていて落ち着く。
ちょうどそこに、列車の車掌さんも恐る恐るといった様子でやってくる。早速車掌さんをつかまえると、てきぱきと話し始めるアリシアさん。
俺はそんな姿を見ながら、汚れた靴の爪先の洗浄を始めるのだった。




