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第9話:寝取られ


「はい。魔術の入門書です!」


 ありがたい。俺はハンドベルにお礼を言って、入門書を受け取る。魔術とは一体何なのか。そこから勉強をすることになる。とはいえだ。別段、日常を便利にするだけならルミナスがいるのだが。


「我が信仰を神に捧げ奉る。ブリーズ」


 風属性の埋葬術。涼風を吹かせる程度のもの。だが術式とかは理解しなくても、呪文さえ唱えれば埋葬術は行えるらしい。結果として得られるメリットに対し、デメリットは然程でもない。ついでに借金性。先にメリットを享受して、後追いで世界から取り立てが発生する……と。


「ところでアーゾル様はここに居つくのですか?」


「まぁ本体が樹だからな。動くわけにもいかんのが本音」


 特にリリスの身体を距離的に離しても問題は発生しないが、それはそれとしてやっぱり近くにいる方が安心はするのだが。


「そうですか……ふむ」


「何か問題あるか?」


 この聖域の湖でルミナスは水泳をしていた。俺が教えたのだ。もちろん水質の問題は解決している。この森は何故かモンスターが多いので人間の来訪者もそんなにいない。それこそ以前来て枝を一本取っていこうとして無礼者か、ハンドベルか。そのハンドベルもオールゴール王国の王女ということで、仰々しい護衛がついている。少数精鋭を旨としているのか。強そうな兵士が三人ほど。さすがに大名行列でこの森を踏破されても困るので、少人数でお訪ねしてくれるのはありがたい。


「いえーそのー」


 何やら俺とルミナスが大樹の傍にいるのが問題であるかのような。


「神樹様はエルフにとっては信仰の対象なんですわ。なのでダークエルフが神樹に近づくと不快感を覚えるようで」


「不快感……ね」


「文明を持たないエルフに言って通じるか分かりませんが、尊敬している自国の女王様が他国のデブ貴族の慰み者になっている……って言って分かります?」


「まぁ」


 それは深刻だな。よろしい、ならばクリークだ。とか言いかねない。とはいえ樹だったころからリリスにもルミナスにも嫌悪は覚えていないしな。俺が元人間の意識を持っているが故か。だが神樹をエルフが信仰しているとなれば、たしかに悪感情は止められないだろう。いっそルミナスの畏怖イフで……というのも却下だ。呪術だってホロウボースを消費する。ましてルミナスの術式は世界そのものに作用する。エギオンが一気に枯渇するとどうなるのかは言うまでもない。


「なわけで、人間には理解が難しいのですが、ダークエルフが神樹と共存するのはエルフの逆鱗に障る……と」


「とは言われてもなぁ」


 今更放浪してもしょうがないし。ルミナスに俺の枝からなった果実を食べさせるというリスクヘッジもある。


「アーゾル様が神樹だという噂は既に流れておりまして。エルフがここを嗅ぎつけるのも時間の問題ですわ」


「ハンドベルが?」


「いえ。むしろわたくしは噂を聞いて訪れた方ですわ」


「ま、敵対したら叩きのめすのみだが」


 そうそう遅れは取らないだろう。俺の術式が作用するのは立証済みであるし、まだ行使していないがカメハメハも使える……はず。


「空恐ろしい御言葉ですわ。エルフと戦争になって勝てると」


「難しい話でもないかなと」


 戦慄しているハンドベルには悪いが、然程でもないぞ。


「では、わたくしはこれにて。最後にお聞きしたいのですが」


「はあ」


「仮にまたお力添えを求めたら応えてくれるのでしょうか?」


「構いはしないが。面倒ごとを持ってこない方を念頭に置いてほしい」


「できれば神樹様とは良き関係を築きたいのですけど」


「黄金のリンゴとか求めているのか?」


「アーゾル様に可能ですの?」


 不可能とも言えんのだが。こと植物関係の能力は網羅しているからな。


「ではまたお願いの儀がございましたらその時は良しなに」


「ああ、考慮する」


 そうしてハンドベルは帰っていった。俺はと言えばルミナスと二人、食事事情に追われている。野菜や果実は本体が供給してくれる。肉が食いたいときは狩りをする。そうして埋葬術も覚えたことだし、火の調達も簡単になった。


「あぐあぐ」


「もぐもぐ」


 そうしてイノシシの焼肉を食べて腹をくちくする。こうなると鍋とか欲しいな。この森には金属とか無いから加工も錬金も出来んし。あれ? ルミナス氏。


「…………もしもここに鍋があったら」


 なるほど。そう来たか。そうして脈絡なく鍋が生まれて。火は確保しているし。大豆も本体が生み出せる。


「ルミナス。この大豆を味噌に変えて?」


「…………もしも目の前の大豆が味噌だったら」


 おお。本当に味噌になった。これくらいはホロウボースもそこまで消費しないらしい。結構ピンピンしているルミナスを見て、俺も安堵する。白菜と人参は本体から取るとして。キノコが欲しいが、毒の見聞は出来んぞ。


「…………もしも取ったキノコが毒を持っていなかったら」


 ということで全てを解決するもしも箱。マジでウチの娘は最強だ。そうしてテキパキと鍋の準備をする。イノシシ肉と白菜と人参、キノコの類も投入して、ダシを取って味噌を入れる。山賊鍋の出来上がり。


「うん。美味い」


「…………美味~」


 そうしてその日の食事だけを課題にダラダラと日常を過ごす俺とルミナス。別に生きることに理由はいらないし、何か叶えたい願望も無い。俺的にはルミナスが健やかに成長してくれればそれ以上は無くて。ついでに目の届く範囲にいれば愛することに躊躇いはない。


 なわけで、味噌やら醤油やらを開発して、食文化を堪能していると。


「貴様らぁ! 神樹様から離れるであります!」


 神樹の木の下で鍋をつついている俺とルミナスに弓を引いているエルフが一人。耳が長いので多分エルフだろう。俺とルミナスは褐色肌に銀髪だが、エルフさんは白肌に金髪。すでに容姿の時点で相反している。


「もぐ」


「…………もぐもぐ」


 神樹がどういう意味を持つのかは知らないが、とりあえず鍋をやめるわけにもいかず。俺とルミナスは石狩鍋を食べていた。


「貴様ら! この矢の錆になる覚悟はできているんだろうな!」


「錆って酸化反応だぞ」


「やかましいであります!」


 とりあえずこの聖域に現れたエルフが俺たちと敵対的であることは読み取れた。


「よりにもよって神樹様を汚すなど! ダークエルフはこれだから」


「もぐもぐ」


「…………もぐもぐ」


「食べるのを止めるであります!」


 とは言われても。既に煮込みラーメンまでこさえているので、途中でやめられないというか。


「お前も食うか?」


 旨いぞ。というと、さらに激昂が返ってきた。まぁエルフがダークエルフを嫌悪するのは自然の摂理らしいしどうしようもないのだろう。例えるならキモデブオタクが同じ教室にいるかの如きシチュエーション。まぁいいんだが。


読んでくださりありがとうございます!

作者のモチベ維持のためにも★で評価していただければ幸いです。

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