第6話:ルミナス
「…………ルミナス?」
「そうだ。ルミナス。それがお前の名前だ」
あかん。「お前」はちょっと言葉が強すぎるような。だがなぁ。今更男口調を直すのもそれはそれで。
「…………ママは? ……ママの名前は?」
「アーゾルだ」
「…………アーゾルママ」
「ママでいいぞ」
思ったよりエルフって理知的というか。そもそも人間と成り立ちが違うとはいえ、生まれてすぐ言葉を話すというのも。俺が寝ている間に芽が出て樹になって、それからどうなったんだ? そこで俺は考えることを辞めた。
「…………ママはママ?」
「おう。お母さんだぞ」
口調は勘弁してくれ。
「…………ママは私の味方?」
「お前がいい子にしていればな」
「…………ママ!」
で、ムギュッとルミナスは俺に抱き着いた。ナニコレ。可愛いの権化。
「リンゴ食うか?」
まさに今自分になっている果実をもぎ取って渡す。ほら。アンパンをヒーローにしたアレの理論。やせた悲しい姿、みたいな。
「…………美味しい」
そうだろうそうだろう。もちろん俺の大樹になっている果実は食べ放題だ。いくらでも食っていいぞ?
「…………ママの樹?」
「そうだ。ママの樹だ」
ついでに伝死レンジの問題も解決するしな。相手の身体の一部を採取したり、自分の身体の一部を相手に与えることで呪術的な距離を縮めるというのは平安時代から在った。俺は平安人ではないので知らんことは知らんのだが。
「…………ママはおっぱい大きいね」
自分の胸をモミモミしながら、残念そうにルミナスは言う。
「いずれ大きくなるんじゃね?」
「…………大きくなる?」
「否定も難しんだが」
何せリリスの子だ。ポテンシャルは計り知れない。リリスからして巨乳だったので、ルミナスの将来性は結構なものだろう。
「…………おっぱい大きくしたい」
「じゃあいっぱい食べなさい」
「…………いっぱい食べる」
そうしてモシャモシャと果実や野菜を食べ始める。とはいえだ。たんぱく質もとらんと身体は大きくならないので。ルミナスを相応しいレディにするには、肉も必要か。
「…………ママは優しいね」
「愛しているからな」
「…………ルミナスを?」
「もちろんだ」
ルミナスを愛さずして誰を愛せというのだろう。
「…………えへぇ。……ママ好き」
くそぅ。超可愛すぎか。うちの子。この子が植物に嫌われるというのも、それはそれで納得がいかず。
「…………周りの樹は皆嫌うけど……ママの樹は優しいね」
「だから辛くなったら俺の樹の傍で寝なさい。優しい夢を見せてあげよう」
「…………ママ素敵」
素敵なのはルミナスの方だぞ。
「さて、あとは」
流石に生まれたばかりだからか。行動維持時間が極端に狭い。ルミナスは起きている時は力いっぱい遊ぶのだが、終わるとコテンと寝転がってすやすや眠ってしまう。もちろん果実も野菜も食べているので、俺の呪術の伝死レンジ内には入っている。その意味で彼女を殺せる存在はこの異世界には存在しないだろうが。
「じゃ、ルミナスが寝ている間に肉でも狩ってくるか」
たんぱく質と脂質もとらねば。最近は弓矢の精度も上がっているように思う。あくまで当社比基準なので、実際のところがどうなのかは知らないのだが。
「ギギギャ!」
獣を求めて森に入ると、ゴブリンの群れに出くわす。こっちを敵視しているが、一応弓矢を向ける。それだけで相手は怯んだ。やる気なら徹底的にやってやるが、いいんだな?
「ギッギ……」
それでゴブリンたちは諦めて去っていく。獣や魔物が潤沢に存在するこの森はやっぱり厄介なのかもしれない。俺としては別に脅威にも感じていないのだが、ルミナスには危険じゃないか? 一応保険は張っているが。
「射ッ!」
その辺の防災対策は後日のこととして。俺はイノシシを狩って、それを運ぶ。まだルミナスは寝ていた。それを可愛いと思いつつ、火を起こす。パチパチと木材が燃えて、火が大きくなる。そうして肉を炙ると、匂いに釣られたのか。ルミナスが起きる。
「…………ん?」
「起きたか」
「…………ママ……何してるの?」
「肉を焼いている」
「…………にく」
炙っていい色になっているそれをルミナスに渡す。エルフって肉を食うのか? と少し疑問だったが、結構あっさりルミナスは肉を食った。どうやらセーフらしい。じゃあ何がアウトなのかとも思うが。
「…………美味しい」
「ちゃんとイノシシさんに感謝しろよ」
「…………いただきます」
そうして二人してモグモグ。生肉を焼いただけでも美味しいのは認めるが加工した肉も食いたいな。ベーコンとかハムとか。その内人里に出るのも悪くないかもしれない。問題は森を抜けようとすると、樹々からの悪意が大変だが。狩りのために森を徘徊していた時点で結構きつい。クラスメイトからヒソヒソと悪口を囁かれているような気分。
俺もルミナスも何もしとらんだろーが。
そもそもダークエルフって植物に何で嫌われるんだ? リリスはオルタナティブがどうのとか言っていたが。俺の反転呪術を使えばエルフに戻れるのだろうか。でもなぁ。せっかくのダークエルフなんだし。褐色肌に銀髪。ついでにおっぱいも大きい。こんな美女の身体をいじくるのもそれはそれで違って。
「しかしおっぱいは本当に重いな」
俺も女体は知らないわけじゃないので、これが初めての女性ではないのだが。反転呪術を使えば男と女を反転させられるのだ。いっそ男として反転してみるというのは。いや、そうするとルミナスを性的な目で見てしまうかもしれない。幼女に手を出す程終わっていないと、俺が断言できないあたり犯罪臭が凄い。
「とりあえずは女でいいな。うん」
そんなわけで肉をモグモグ食べながら、俺はルミナスと他愛ない会話をする。星とは一体何なのか。この地上はどこまで続いているのか。考えるごとに異世界では、異世界の世界観があるのだろうと思わせる。そもそも宇宙ってどこまで広がってんだ?
異世界ではわからないことも多い。
「あと大根おろしが欲しい」
肉にかけてさっぱりと食べたい。
「…………大根おろし?」
なんにでも合う最高の調味料ですよ。ルミナス。
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