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第4話:リリスとのコミュニケーション


「ほらほらほら。リンゴもイチゴもミカンもあるぞ。ナスとか食うか? 秋ナスより美味いぞ~」


 とにかく声の無い俺が会話できるのが目の前(目は見えないが)のダークエルフのお姉さんリリスだけなので、俺は全力で歓待した。さっきまで食獣植物のギミック満載だったが、いち早く切り替えて、果実の実りを重視する。しかもそれが不可能ではないという万能さ。こと植物である……ということに限れば、俺の身体である大樹は何でもやってしまうらしい。


「うーん」


 シャクリ、とリンゴを食んで、悩むように俺を見上げるリリス。


「リンゴ美味いか?」


「超美味いです。ところでアーゾルがさっきは助けてくれたの?」


「ん? あぁ? さっきのか? 俺だな」


「なんで?」


「なんでもなにも可愛いダークエルフのお姉さんが襲われているんだ。助太刀は当然だろ? 余計なお世話だったか?」


「嬉しいは嬉しいんですけど、やっぱり妙だなと」


「何故?」


「いえ、ダークエルフって植物に嫌われているんですよ」


 そなの?


「はい。まぁ。本来植物とともに生きるエコロジーな超越種がエルフなんですけど、その中でオルタナティブと呼ばれる現象がおきて肌黒銀髪のエルフが生まれます。それがダークエルフで、種族として植物から嫌われます」


「でも植物操っていなかった?」


「まぁ腐ってもエルフなので。ただ植物に自分からすすんで協力したのではなく、あくまで嫌々ながら私の命令に従った……みたいなヘイトを感じる様子です、悔しいッけど……みたいな」


 その表現、こっちでも通用するのな。


「なわけで私を嫌悪しないアナタは何者で?」


「元人間だ。今は大樹だがな」


「少し触れても?」


「構わんが」


「それで許可が下るのが凄いですけど」


 とか言って、俺の触れるリリス。そうして。


「神樹……ですか」


 そう俺のことを察する。


「神樹って神の樹ってことか」


「多分ですけど。この神性はちょっと見ませんね。けれど元人間というのもよく分かりませんし」


「なわけで、俺としては暇しているのだ。ちょっと付き合ってくれれば幸い」


「構いはしませんが……」


 そう言いつつ、フラリとリリスは倒れた。


「貧血か? ほうれん草食うか?」


 ニョキニョキ生やせるぞ?


「いえ、ちょっと。意識の限界が近くてですね」


「意識の限界?」


「なわけで、私の寿命はすぐそこなんです」


「な……ん……?」


「気にしないでください。ちょこっと人体実験に付き合わされて、内部がボロボロになっているだけですので」


「治してやろうか?」


「可能ですか?」


「俺のは反転呪術だから、時間を逆流させる必要があるが」


「優しいんですね。でも構わないんです。私は眠る場所を探していましたから」


「眠る場所」


「誰にも責められない場所。優しい声だけが響く場所」


 そんな場所を探して、俺へとたどり着いた。彼女はそのように言う。


「な、なあ。ケガや病なら治してやる。だから俺と一緒にいてくれ。リンゴあるぞ? 食いたくないか? 何でもしてやる。何でもしてやるから……俺と一緒に生きてくれ」


 樹は涙を流さない。それでも俺の声は悲痛に満ちていた。今まで誰とも会話できなかった。そのことが重く響いたんだと思う。思ったより俺は人を欲していた。だからなのか。目の前でリリスが死ぬことを容認できない。俺にとっては初めて会話した存在なのだから。


「死ぬな……頼むから……死なないでくれ……」


「無茶を言わないでください。私は最後にあなたに会えて嬉しいのです」


「なぁ。生きてくれよ。俺を一人にしないでくれ」


「わかりました。じゃあ種を植えます」


「種?」


「いずれダークエルフに成長する種です。植物に嫌われるダークエルフをこれ以上増やしても……と思っていたので種族的な繁栄は度外視していたんですが、アナタのような優しい樹であれば、私の娘も愛してくださると思って」


「新しい……ダークエルフ……」


「愛してくださいますか?」


「わかった。任せろ。お前の娘は……俺が幸せにする」


 そうして手の平に握っている種を俺の生えている地面の傍に植えて、そうして彼女は草原に倒れ込んだ。


「なぁ。死ぬのか?」


「さっきも言いましたが……既に内部がボロボロでして」


「人間に……やられたのか?」


「ええ。終焉死因ラストシーン。もう既に目もうまく機能していなくて」


「なんでお前が……そんな」


「さて。なんででしょう。不死の研究でもしたかったんですかね?」


「生きていて短いのか?」


「いえ。結構長く生きましたよ? もうかれこれ永い時は生きておりまして」


「それでも。死にたくないとは思わないのか?」


「思います。やっぱり……死にたくないなぁ」


「俺が生き返らせてやろうか?」


「御遠慮しておきます。安らかに眠らせてください」


 だからそれ以上は、俺は何も言えなかった。


「ああ、風が気持ちいい。湖の苔の匂いも心地いい」


 そんなものか?


「もし、よければ……ですけど。私の肉体を使いませんか?」


「リリスの身体を使う?」


「私が黄金終焉ゴールドスリープ陥った後、その私を修理して、アーゾル様が乗っ取ってくださいませんか?」


「そんなこと……していいのか?」


「無理にとは言いませんが。何やらアーゾル様は五感が無いことを悔やんでおいででしたから」


 まぁ不便だよな。


「私はこのまま眠りますが、もしよろしければ……アーゾル様のアバターとして……私の肉体をご利用いただければ……きっとここで私が眠る意義もあると……」


「なぁ。リリス」


「はい。なんでしょうか。アーゾル様」


「お前をボロボロにした奴らに俺が復讐したいって言ったら……止めるか?」


「そうですね。私は恨んでなんかおりませんから。止めると思います」


 そっか。そうか。


「あれ……? 風が……止んだ……?」


 そう言って、それ以上リリスは何も喋らなかった。死とはかくも無惨なモノ。俺は泣けもしないこの身体を最後まで悔やんで、そうして彼女を看取った。


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