表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/46

第3話:リリスとの出会い


 おりゃー。


 そうしてどれだけ時間が経ったろう。


 俺のフィールフィールドの拡張は絶技の域まで進展していた。転生前はあまり使う機会が無かったので、自分を中心に全方位に展開するしかできなかったが、今は自在に形を変幻できる。肉体というか樹である本体の成長に合わせフィールフィールドの展開領域も広がっていき、ついでに応用で俺は偏位している胎蔵領域をそのまま動かすことが可能となっていた。


 どういう意味かと言われると、灯台をイメージして貰えば幸い。単純に今までは自分を中心に球形にフィールフィールドを展開していたのだが、冷静に考えると球形にフィールフィールドを広げるということは半分は関知しなくていい地面の下じゃん……という話になり。応用を覚えた俺は灯台の灯りのように、一方向にだけフィールフィールドを伸ばし、それを灯台のようにグルグルと回転させて、結果として全方向に均等に感覚を伸ばすより広範囲の事象を把握することが可能になったのだ。一般的に週刊少年跳躍に連載されているハンター系マンガの円の能力をイメージしてもらえれば梵我反転の理屈はわかるだろう。意識そのものの領域を展開することで周囲にある事象を感知するという意味で。今の俺は、その意識領域の展開を限定して展開し、それを動かすことで、ただ全方位に広げるよりも効率的な情報収集を可能にしたのだ。アレだ。ネフェ〇ピトーの円みたいな。ああいうアメーバ状のフィールフィールドの展開も考えたが、それよりも空間スペースの有効的な使い方を加味して、灯台の明かりのイメージで、遠くまで直線的に伸ばした領域をグルグル回す方を選んだというだけで。もちろん感覚だけしかない植物の身体でどうこうできるものではないが、ほぼ周囲を囲む森を限定的にフォローする程度は出来るようになった。


 ソレで分かったのだが、この森は物騒過ぎる。基本的に人は入らないし、巨大なヘビやら物騒なクマやらゴブリンやトロールが存在している。この森に素手で侵入する人間はおよそ自殺志願者も同様だろう。死にたい人間を引き留めるほど俺も酔狂ではないのだが。とすると以前来た人間はどういう理由で俺の元まで来たのか。霊樹の枝を欲しいとか言っていたな。俺にとっては爪を切られて採集される程度の感覚だが、まぁ斧で襲い掛かられると反射的に防御してしまい。次は風の魔法で切り取ろうとされたよな? やっぱり魔法がある世界なのか。俺の呪術とはまた別の法則が働いていそうで興味は尽きないのだが、それはそれとして会話できないので語らうわけにもいかないのが痛い。


 どーしたものかなー、と悩んでいると、フィールフィールドが何かを知覚した。そこでグルグル回転させるのを止めて、一方向にだけ固定展開。そこから少し範囲を広げて。


 わお。


 と俺は意識の中でスペースコブラみたいにヒューッと煽った。可愛い女性がいた。目で見たわけでも、耳で聞いたわけでも、触れて確かめたわけでもないけど、感覚器だけで直接感じた彼女は、どう見てもダークエルフだった。色とか分かるのかと言われると、そりゃわかりますよ。あくまで脳がコンパイルするのが意識の情報で、その意識そのものを知覚にしているのだ。知覚領域に触れたもの限定という縛りはあるが、逆に言えば条件さえ満たせば五感よりはっきりとわかる。


 ダークエルフだ。ダークエルフですよ。黒い肌。銀髪の髪。長い耳。フィールフィールドで感知するだけでも美少女もいいところ。おっぱいも大きいしウェストも細い。俺の生前を考えればあまりにおっさんだが、それはそれとしてダークエルフのお姉さんには拍手喝采を送りたい。ちょっと俺のとこまで来てくれないかなぁ。せっかく森にいるんだから、俺の近くまで来てくれんかなぁ。


 とか思っていたが、状況は思ったより切迫していた。森の新参というか余所者なのだろう。森にいるゴブリンたちやトロールが容赦なく襲っていた。おそらくこういう魔物を討伐できる人間だけがこの森に入れるんだよな。ゴブリン四匹にトロール一匹か。とか思っていると。


「突き刺せ」


 とある樹に触れてそうダークエルフが命令すると、樹の根がボコボコと地中からせり上がり、まるで槍のようにゴブリンたちに襲い掛かり串刺しにしてしまう。


「ギギャアアッ!」


「そっちのトロールは切り刻まれなさい」


 今度は木の葉がまるでカッターのように鋭利に固定され、それが刃物となってトロールを刻む。どちらも死亡した。


 おおー。


 拍手を送りたい気分だったが、生憎と手が無い。だいたい地表すれすれの半径二メートル程度の円柱をダークエルフのお姉さんを知覚するためだけに直線的に伸ばしているが、それによって得られる情報の刺激的なこと。エルフって植物操れるんだな。


 は。ということはこのダークエルフのお姉さんは、俺のことも操ってくれる? 俺も樹だから好き勝手されちゃうのか?


「ギギャアア!」


 さらに声。俺の知覚領域の外からとっさに襲い来るゴブリン。五体目だ。それもダークエルフの視界の外。四体のゴブリンと一体のトロールで油断をしていたのだろう。そこに石斧を持った五体目。


「まずいッ!」


 そう声を発するダークエルフ。俺は声を出せないが、知覚領域の空気と口の動きでそれはわかる。ついでに彼女の能力が間に合わないことも。とすると、だ。


 ほい。


 俺が呪術で反転防御を展開する。伝死レンジはもちろん胎蔵。なので彼女に反転を適応させるのはとても簡単。呪術には幾つかの発動条件があるが、その全てを解決するのが梵我反転と呼ばれるフィールフィールドの拡張だ。胎蔵領域とも呼ばれるその空間では俺のエゴを構成しているエギオンがホロウボースに着色されており、ただ領域内にいるだけで呪術の適応範囲に定義されてしまう。


 胎蔵という肉体内部。


 接触という呪いたい相手に触れること。


 類感と呼ばれる共通点を持つこと。


 この三つが呪いを発動させるに足る距離。その中でも胎蔵とは即ち自分。人を呪わば穴二つ……とか、一番嫌いなのは自分……とか、そういう話はよく聞くが、これってつまり呪術の世界において最も呪いやすいのは自分だという訓令である。なので、その自分である領域……胎蔵領域または別名フィールフィールドを展開すると自分ごと対象を呪うことができるのだ。


「ギアアアッ!?」


 そのダークエルフに石斧を叩きつけようとして弾かれたゴブリンが、その理由を察するより早く、俺の呪術が成立した。反転。生を死に反転させれば、ゴブリン程度は容易く死ぬ。「えーと、え?」そりゃ意味不明だろう。完全に不意を突かれてそのまま撲殺されかかったかと思えば、その襲撃者が即死。運がいいとかそういうレベルを超えている。


 お姉さぁぁぁぁん! 俺だー! 結婚してくれー!


「え、誰の声?」


 ババッと周囲を見渡して、ダークエルフが警戒する……………っていうか俺の声届いた!?


「こっちこっち! 太陽の方角に来てくれ」


「いい……ですけど……何者で?」


「単なる一般人だ」


「いや。どう考えても概念疎通ですよね? 耳で聞く声じゃないし」


「何ソレ?」


「もしかしてエルフか何か?」


「いや。単なる樹」


 単なるという枕詞をつけてもいいものか悩むのだが。


「ていうかお姉さんこそ何で俺の声が聞こえるの?」


「エルフは植物と会話できるのよ。知ってるでしょ?」


 いや。知らん。だがなんとなく現状と理解が進む。なるほど。エルフって植物と親和性高いし。この世界ではエルフとは植物と会話が出来るのか。


「もっとお話ししようぜ。俺の名前は――――」


「アーゾル? 不思議な名前ね」


 アーゾルではないのだが……まぁいいか。どうせ前世の名前なんて意味ないし。


「そうだ。アーゾルだ。お姉さんの名前は?」


「リリスよ」


 黒い肌で、耳が尖って、銀髪で、巨乳で。そんな彼女が森の空白地帯に現れてくれた。目は見えないけど美女なのはもう間違いない! ようこそ! 俺の領地へ!


「もしかしてアーゾルって霊樹?」


 それは知らん!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ