第23話:カメハメハ
「が……はぁ!」
「拳法に関しては無理解なんだな」
で、結論。バーナーは弱かった。武士道防御さえ突破すれば、相手を制するのは難しい話でもない。あくまで武士道防御が防ぐのは近代兵器と魔術だけ。核兵器すら問題にならない防御能力は脅威だが、それはそれとして武士道に通じていれば防御能力は崩れ去る。
「さて、じゃあ殺すか」
生きていられても面倒だ。そもそも見逃す気もない。焼死のバーナー。その因果物語を顧みるなら、エルフにとっては天敵だ。放置しておくと次なる災厄の種になりかねない。
「きさ……まっ!」
「抵抗しないのか。場合によってはこのまま殺すぞ」
「あ、あ、あああああああッッッ!」
俺にボコボコにされて、そうして危機感を抱いたバーナーがホロウボースを練りに練る。そもそもエギオンをホロウボースに錬成するということさえ、コイツには意識の外だろう。理屈として説明は出来ないが、やろうと思えばやれる。これは呪術師にとって貴重な才能で、理解を超えたところに確信があるというのはアドバンテージとも言える。
「焼死の究極」
焼け死ぬということの究極。さてそれはイメージとしてなんだろう。
「恒星災害」
瞬間、周囲が地獄と化した。何を、と思うまでもない。ボロボロの身体をおして、空に掲げたバーナーの手。そこから太陽を思わせる火球が出現したのだ。もちろん周囲の温度は否応なしに高まる。俺はその場にいても問題ないが、樹々に囲まれているはずのエルフの王国で、その樹々が焼けていく。太陽めいた炎塊の余波だけで、周囲の植物は燃えていく。その炎塊を俺に叩きつけようというのだろう。
「ひ……はは……これをどうにかできるか?」
「太陽ねぇ」
別に何とかは出来るが。
「じゃ、こっちも相応の手段で挑むか」
地面に転がっている石を拾う。だいたい十グラム程度の軽い石だ。
「まさかその石で、この太陽をどうにかしようと?」
「そう相なるな」
別にバカにしているつもりはない。俺にとってはこの石でも大きな攻撃に転用できるのだ。
「アインシュタイン方程式って知らないよな?」
「聞いたこともない」
だよなぁ。
「じゃあ撃ち合うか。そっちの準備はいいのか?」
「俺の……この全てを焼却する炎に打ち勝とうとお前は言うのか?」
「わけないな」
なわけで、俺は十グラムの石を握って、その手を前方に差し出した。
「いくぞ」
バーナーが俺を睨む。
「カマン」
俺も受け答える。
そして。
「恒星災害!」
「カメハメハ」
「――――――――ッッッ!」
太陽めいた超高温の炎塊を虚空に掲げていたバーナーが、その炎塊を俺目掛けて撃ちこみ、それを迎撃した俺が石を過剰なエネルギーに変換する。そうして互いの熱波が撃ち込まれて。視界が白く染まった。そのまま指向性を持った俺の手元から発生したエネルギーの奔流が、あらゆる全てを滅却して、地平線の向こうまで二次曲線状に全てを飲みこんだ。おそらくバーナーは死ぬ間際まで自分の死を自覚していなかっただろう。俺がやったのはある意味で核兵器をそのままぶつけるような暴挙で、それによってぺんぺん草も残らないような破壊痕がエルフの王国に刻みつけられた。
「えーと」
そうして全てが終わると、困ったようにイゾルデが現れる。既に周囲は火事に見舞われ、その鎮火を腐心しているエルフたちが、襲った脅威に関して奔走している。
「何をしたの?」
最後の一撃についてだろうことは俺の側でも悟れる。
「カメハメハだ」
「カメハメハ?」
「|因業にして災害にして波動」
「カーマアンドハームアンドウェイブ?」
「ネイティブ発音でカーメンハーメンウェイブ。でそれを略してカメハメハ」
「どういう術なのか聞いても?」
「難しいことはしていない。拾った石を反物質に変換しただけだ」
反転系統の呪術では可能だ。粒子のスピンを逆にするだけでいい。
「反物質?」
「何と言えばいいのか」
十グラムの物質を反物質にすれば、その反物質は物質と対消滅を起こしエネルギーに転換される。十グラムはアインシュタイン方程式で計算すれば九百兆ジュールのエネルギーを持つ。もちろんエネルギーロスもあるのだが、それでもミサイルでは到底追いつかない程度の破壊力だ。比喩としては核兵器にも近い。その反物質を十グラムの石で再現して、爆発させる。それだけだ。
「だったら指向性を持ったのは?」
「それも難しい話じゃない。梵我反転を使っただけだ」
俺の呪術は反転系統。つまり反転領域内では右を左に出来るし、左を右に出来る。上を下に出来るし、下を上に出来る。あとは後ろを前に反転させれば、前方にだけ爆発を制御することも可能だ。そうして前方にだけ広がる爆発を制御して、その九百兆ジュールの爆発をバーナーにぶつけた。
「カメハメハ。つまり理屈はそんなところだな」
「ありえないんでありますけど」
「然程かね?」
俺には理解が追いつかない。
「で、この後どうするの?」
「ダークエルフを連れて聖域に戻るか」
そもそもルミナスさえ連れて帰れればこっちとしては勝利条件を満たしていると言えるのだ。ルミナスが無事であれば、他は何も要らない。と思っていると。
「アーゾル様。先のご無礼をお許しください」
バーナーが掻き消えて、そのまま俺がどうしたものかと思っていると。エルフの兵士たちが俺に平伏した。
「どうした?」
もちろん困惑する俺。だがエルフの皆様方は、俺へ心酔したらしい。
「貴方様の高位の技術……感服仕ります」
「別にお前らに向けて撃とうとは思っていないぞ」
「それでもアーゾル様の圧倒さは我々にとって一筋の光であります」
カメハメハのことを言っているのなら、勘違いもいいところだが。俺は別にエルフの王国を焦土にしたいとは思っていない。
「ダークエルフをこっちで引き取りたい。可能か?」
「アーゾル様の思うがままに」
じゃあそこら辺はシクヨロで。そして燃え尽きた森に関してはルミナスの畏怖によって再生してもらう。ルミナスが「もしも――だったら」と呟くだけで、全てが決着するのだから恐ろしい能力やでぇ。それでバーナーを駆逐できればよかったのだが、そこまで便利な術式でもないらしい。
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