第21話:会敵
「やってくれたでありますな。アーゾル」
「あー……言い訳をさせてください」
で、俺の玉座はともあれ。母親を踏み台にしている俺への反感にイゾルデが憤怒するのも必然ではあろうけど。
「聞きましょう」
「そもそもお前の母親って、中々の上級者だぞ?」
俺がエルダーエルフだとしても、普通はもうちょっと気を使う。
「お姉様とか呼ばれていませんでした?」
「この身体はナバイアにとって特別らしいから」
まさに俺の知ったこっちゃないんだが。
「エルダーエルフというのは本当なので」
真実は闇の中だな。
さすがに謁見の間にずっといるわけにもいかず。暗殺を承知で、俺は一部屋用意してもらった。君臨すれども統治せずというか。そもそも政治的な判断ができるわけでもないので、お役所仕事は任せるに限る。
「それで陰の統治者になって何がしたいので?」
「ダークエルフを解放しようかなって」
「あー……」
ここで初めて、イゾルデはなるほどと納得していた。今王国でのダークエルフの立場は最悪だ。奴隷ですらない。道具も同様の扱いを受けている。それに対して俺が思っていることはそんなに多くなく。であれば権力があれば解決できることでもあり。
「そのためにお母様を……」
いや。それは成り行き。元々は叩きのめして交渉するつもりだった。まさか女王があそこまで上級者であるとは李白の目を以てしてもわかるわけねえ。
「…………ママカッコいい」
で、連れ去られていたルミナスもすぐ近くにいて。さすがに道徳的配慮からナバイアの性癖については沈黙。だが彼女がそういう方向に走らないように、管理はすべきだろう。
「ところでエルフってセックスしないの?」
「奴隷として扱われでもしない限りは……まぁであります」
ヒューマナイズ化しているので能力としては出来るが、そもそも孕むという機能が無いらしい。だが種を産んで、そこから新しいエルフが生えてくるというか産まれてくることは出来て、これが親子関係に当たるらしい。ややこしいことこの上ねぇ。
「で、ダークエルフを解放してどうするので?」
「聖域で引き取ろうかなと。あそこなら植物の声もうざったくないだろうし」
言っておいてなんだが、植物の声が四方から聞こえるここでは、俺の気分もよくは無い。例えるならヒソヒソと悪口を囁かれているカースト最底辺の陰キャの気分。多分それはイゾルデも同じだろう。
「…………ママ……優しい」
「あくまで優しいレベルの案件であればな」
「…………?」
「余裕が無ければ、俺も人を助けたりしないってこと」
「そもそも私をエルフに戻すってできるでありますか?」
「呪術誓約を結んだ上でなら考えないでもない」
「誓うであります!」
「あ、俺には無理だから」
「私の覚悟を返すであります!」
そもそもエルフとダークエルフって陰陽の反転でどうにかなる問題か? なんとなくエルフが陽でダークエルフが陰な気はしないでもないが。
「さて、どうしたものか」
国民が百パー納得する政策というのは存在しないのだが、それでも納税の義務は存在し。もっともナバイアのメンツをつぶさずダークエルフを解放するには実力行使より他になく。その上でエルフの王国に確執を残さないとなると……。
「難しいな」
そんなわけでこんなわけ。俺は窓から外を見ていると。
「お?」
何やら王国の外がチカチカと光り、煙が立ち上っていた。火気厳禁のこの王国で火を使うとはまさに剛毅というかなんというか。
「敵襲!」
何をどうしてそうなったのか。大きな声……というかよく通る声が王国全体に響き渡った。俺が何をと思うより先に、剣を片手にイゾルデが飛び出す。敵襲ということは、王国に攻め入っている何者かがいて。そのものが火葬術でも使って王国を侵食しているのか。
「…………ママ」
「どした?」
「…………助けないと」
「だなぁ」
とはいえ。そもそもこの王国の兵士たちが対応を誤るとも思えんのだが。
このまま炎で殲滅されるのも上手くない。というわけで状況を知るために現場に赴き。
「はっはぁ!」
一人の青年が炎を操って無双している姿を見た。赤い髪の青年で、炎を操り目に留まるもの全てを焼き尽くす。火葬術……ではなさそうだ。宣言の呪文が無い。ではなにか……と思っていると。
「飛得物隊。構え!」
燃え落ちる樹々の中。相手から距離を取って、弓矢を構える飛得物の兵士。それらが矢を放つと。
「ひははははは!」
それらの矢が燃えて消えた。そもそも青年の周りが炎と高温にまみれているので、物理的な事象に関しては完封するらしい。
「埋葬術隊! 撃てぇ!」
現場指揮の判断は正しい。もっとも手っ取り早いのは埋葬術だろう。
「「「「「我が信仰を神に捧げ奉る! ブリザードストーム!」」」」」
凍えるようなキラキラした空気が奔流となって青年へと殺到する。炎に対して冷気を用いる。最も簡単で対処が完璧……だと俺も思ったのだが。
「ひ、はは、くはははは……」
炎そのものは無力化され。鎮火というか、青年の周囲の炎は消える。もちろん燃えている森についても別の衛兵が対処はしているが、それも青年の無力化が優先であることは俺も悟っていて。さてどうなったかと言えば。
轟ッッッ!
冷気を超えるさらなる炎が青年から噴き出た。それらが森をさらに焼き、本人の周囲は溶鉱炉めいた超高温で満たされる。
「足りねえ! 足りねえなあ! 俺を鎮火するにはまだ足りねえ!」
炎そのものを具現するのに呪文を用いない。ということはアレは埋葬術ではない。しかも一度は冷却されて、その上で埋葬術が通じない……となると。
「すっげえいやな予感」
「ではこれはどうだ!」
一人のアンダーテイカーが呪文を唱える。
「我が信仰を神に捧げ奉る! ウィンドギロチン!」
今度は風が空から降った。それこそギロチンの刃のように上から下へと落ちて、地面に一直線の残痕を残す。その線上にいた青年は、だが何も痛痒を覚えていない。
「効かないねえ! 効かないねえ!」
弓矢は炎が焼き消す。魔術はそもそも通じない。そうすると浮上するのは。
「呪術師」
という俺の結論に、だが回答は与えられず。
「…………ママ……大丈夫?」
「俺は別にって感じだな。ただ相手が呪術師となると、やはり俺がやるしかないか」
魔術が通用しないということは武士道防御が起動しているんだろうし。その上で高温で防御すれば近づいて攻撃する類の手段は完封される。であるのならば確かにこれは俺向きだ。
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