第18話:ルミナスの救出
「ここか」
エルフの王国。森が鬱蒼と茂っているそこで、なお大きな霊樹の一カ所。そこにフィールフィールドは繋がっていた。俺の本体より大きな樹が立ち並ぶ中で、それを押さえて群を抜く大きさの霊樹。後に巨大樹と呼ばれていることを知ったのだが。現時点でソレを察するのは無理筋で。糸の伸びている方向へと向かって歩いていると。
「我が信仰を神に捧げ奉る!」
埋葬術の起動呪文が唱えられる。
「ライトニングバスター!」
「ストームブロウ!」
「ウォーターブレイド!」
さすがに巨大樹の前で火葬術を使うわけにもいかなかったのだろう。森の内部という意味で配慮を施された埋葬術が俺を襲った。もちろん意味は無いのだが。
「で、こっちか」
巨大樹に作られた通路を歩いて、上へ上へと登っていく。そろそろ近いのだが。
「何が目的だぁ!」
「ルミナス」
他に理由は無い。
「お」
で、ある一カ所に辿り着き、俺はルミナスを発見する。
「…………ママ」
「息災か?」
「…………酷いことはされてないよ」
例えるならそれは鳥籠だった。巨大樹イルミンスールの枝からぶら下げられている木製の檻の中にルミナスは閉じ込められていた。それこそ囚われのお姫様のように。もっと最悪な待遇も覚悟していたので、その点においては安堵。このまま彼女が血の一滴でも流していれば、ここでエルフの王国を灰燼にしているところだった。
「じゃ、帰るか」
ルミナスさえ見つかれば、ここに用はない。
「このダークエルフが!」
「穢れた存在!」
「成敗してくれる!」
「急急如律令。成敗」
ルミナスが千事略決を使い、檻を切り裂く。ついでに巨大樹の幹に斬撃痕を残し、エルフを戦慄させ得る。
「何の騒ぎですか?」
そこで凛と響く音がして、ハープの旋律のように心地よい声が周囲を圧倒させた。
「女王陛下!」
一人が驚愕するようにそう言って、そしてエルフ兵の全員が傅く。礼儀を尽くしていないのは俺とルミナスだけだ。
「あら、そちらは」
「ダークエルフだ」
「知っていますよ。そうだ。お茶しませんか? 焼き菓子くらいなら用意しますよ」
「はぁ」
俺が相槌を打つと、むしろ兵たちが青ざめた。
「いけません! 陛下! ダークエルフを歓迎するなど!」
「それは私の意見を却下するという話でよろしいので?」
「いえ……そんなつもりは……」
皮肉気に問うたエルフ女王の言葉に、何も言えない兵士たち。
「では参りましょう。ダークエルフの……えーと?」
「アーゾルだ」
「…………ルミナス」
そうして俺とルミナスは女王の部屋に招かれた。巨大樹のてっぺんにある部屋で、壁で囲われているので外からは見えない。
「陛下! イゾルデ様がご乱心召されております!」
「拘束しようとは思わないことです。こっちから手を出さなければ、相手も抵抗はしません。イゾルデは後で私のところに来るように言っておきなさい」
「ダークエルフへと堕落されているのですが……」
「構いません。気持ち悪くとも私の娘ですから」
「はっ! では鎮圧は止め、こちらに案内します!」
「ええ、よろしくね」
そうして去っていく警備隊。兵士とはまた別なのか。
「使用人も下がりなさい」
「しかしダークエルフと会談など……」
「二度は言いませんよ?」
「失礼しました。ではごゆるりと」
焼き菓子と紅茶を置いて、メイドも下がる。そうして部屋には俺とルミナス、あと女王が残された。
「名前は?」
「ナバイアと申しますわ。ねえ。リリスお姉様」
リリスお姉様?
「だいたいのことは察しました。今のあなたはリリスお姉様ではありませんのね?」
「あー……だな」
「アーゾル……と申しましたか。リリスお姉様はどうなされました?」
「黄金の夢に陥った。その残骸を俺が拾って、利用している」
「つまり肉体はリリスお姉様ですが、操っている自我が違うと」
「神樹アーゾル。それが俺の本体だ」
「たしかバーングレイス帝国の北に神樹が生えたとは聞いていますが」
「その神樹が俺。イゾルデをダークエルフにしたのはまた別の話だが」
「ではあなたが神樹そのものと?」
「否定も難しいな」
「とりあえず。国民の反感に関してはこっちで対処します。よければ滞在していきませんか?」
「ルミナスはどう思う?」
「…………いいんじゃないかな?」
まぁ俺の本体でもある神樹も別に急ぎの用事もないしな。ドワーフがソワソワしてはいるのだが。今は俺もルミナスもイゾルデも出払っているので、ドワーフである親方たちと俺の本体は会話ができない。なんか美味そうに酒とか飲んでいるが、まぁそれは良し。
「是非とも滞在なさってください」
「ダークエルフに嫌悪とか無いのか?」
「無いと言えばウソになりますが、実はアーゾルには知らぬ現実がありまして」
「?」
俺が首を傾げる。
「リリスお姉様はエルダーエルフなんです」
「エルダーエルフ」
「この世の最初のエルフ。その起源は数万年前に行きつき、リリスお姉様がいなければ、今のエルフの繁栄は無かったと断じていいほどに特別な存在ですわ」
つまりエルフにおける始祖のようなものだったのだろう。
「けど俺と会った時には既にダークエルフになっていたぞ」
「ええ。リリスお姉様はエルダーエルフであると同時に、エルダーダークエルフでもありまして」
「ダークエルフの始祖……と?」
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